結婚式をボイコットした王女

椿森

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会談の場を設けることになり集まった訳だが、肝心のヨーレイア国王がいない。
正確には呼び戻されたというか、呼び戻した原因を諌めるためにこの場にはいない。薄く開いたままの扉の外側から女の金切り声をあげ、国王がなだめている。
やれ、私を中に入れろだとか、あの女が悪いだとか。
簡略化されるとはいえ、婚約解消の儀式をカティーラ教の聖典に則って行うために教徒でもないミリアが入室できる訳ではない。
この世界に対する宗教観念は、各国や国際的な法律の次に重用されるために儀式に関する決まり事は絶対と言ってもいい。

「あんなのを娶ったのがそもそもの間違いだな」
「ええ、セレン様を退けて王妃とするなんて信じられませんわ」
「つまり、それに見合った能力しか持たないと言うことだ」

お兄様とお父様と周りに聞こえないように言葉を交わしていると、疲れた顔をしたヨーレイア国王がようやく席についた。

「その、遅れてしまって申し訳ない」
「では、はじめましょう。まずは婚約の解消からですね」

進行役をヨーレイア国王の弟である大公殿下に務めていただくことにした。
セレン様の旦那様であり、セレン様と共にこの国の実務を担う信頼のおけるお方だ。
大公殿下に促され、大司教様が書類を提示する。

「お二人共、こちらにサインをしてください」

基本的に男女を含めた調印等では男性から行うのが慣例だが、王太子はなかなか動こうとしなかった。

「王太子殿下」

催促の意味も含めてわたくしが呼べば、渋々と進み出てサインをされた。
続いて、もちろんわたくしは迷いなくサインをした。

「ありがとうございます」

サインされた書類を大司教様が受け取り、聖典を読み上げる。なかなか聞くことがないので、こんな内容なのかと関心していたのはわたくしだけの秘密。

「これで、婚約は正式に解消されました」

大司教様が聖典を閉じて一礼をした。
わたくしは身軽になったように思えて、嬉しくなってしまった。
正確にはまだカティーラ教の上でのみであり、ヨーレイア王国と祖国のテンダリウム王国の貴族院には通されていないが、カティーラ教が認めたものだから必ず通される。

「貴女は···そんなに婚約解消できて嬉しいのか?」

王太子に問われて、どうやら笑顔になっていたらしいことに気がついた。

「ええ、相手方の不貞行為を見ることもなくなりますし、教会領にも帰れますし」
「······」

わたくしもこれまでの鬱憤を隠すつもりもないので正直に申し上げた。
王太子は思い当たることがあり返す言葉もないのか、それ以上何も言わなかった。変わりに側近には睨まれたが、王太子の行動を諫めもしないような役立たずは無視するに限る。
むしろ、このまま婚姻しようとする人間の気が知れない。

「婚約は解消されましたので、婚姻を前提とした誓約も破棄されますね」
「ですが、すでに持参金の一部であるとして金銭の請求をいただいております」

正直、請求書として受け取ったときは我が目を疑った。持参金の内訳は事前に用途となる政策案を申請していただいて、婚姻の後に順次決済して行くと取り決めをしたからだ。

「どういうことか、しっかりご説明願えますか。王妃のドレス購入代としてナルシアが請求書を受け取ったと申していましたが」

お父様は威圧するようにヨーレイア国側に笑顔を向ける。もちろん、目が笑っているわけもない。

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