なぜ、先輩は不親切なのか

二度とやりたくない仕事

OLモチコ、38歳。
彼女は3か月前から『もう二度とこんな仕事したくない』と心の底から思う作業に着手している。

現在の部署に配属されてから約2年が過ぎた。
その間に、モチコが『二度とやりたくない』と思う仕事はこれで2つ目である。

――正確には配属直後に『二度とやりたくない仕事』を任され、ようやく一段落したところで新しく『二度とやりたくない仕事』を割り振られたのだった。

どちらも現在のモチコが持ちうる能力以上のことを要求されている。
今までやったことがない作業をやらされているのだ。
しかも、教えてくれる人はいない。

上司に「やったことないのでわからないです」と訴えたところで、「調べれば良いじゃん。ネットにも情報転がってるし、参考書籍だっていっぱいあるんだから」と言われるだけだ。

ネットでググるなり、参考書を買うなり、休日を勉強の時間に充てても間に合わないような仕事だった。

いうなれば、日本語と英語しか出来ないのに、いきなりドイツ語の仕事を任されたようなものだ。
ドイツ語など「ダンケシェーン」「グーテンナハト」「ヴァイス」「クロイツ」「シュバルツ」くらいしか知らないというのに…。


上司はモチコが抱える作業量は彼女1人ではとても捌ききれないことがわかったようで、新しく人員を確保してくれた――のだが、配属されたのは20代後半のカズヨで、彼女もモチコと同様に作業経験が無かった。

カズヨに経験が無いのはモチコも承知の上だ。
膨大な作業量を二等分出来るなんて思っていない。
そのため切り分けられるうちの小さい範囲の仕事を任せるようにした。

重たいタスクは任せられないとはいえ、己の作業が減ることにモチコは喜び後輩に感謝していた。

カズヨは頑張ってくれた。
未経験ながら己のスキルアップのために、参考書籍を自腹で買いがんばった。


配属した直後は、モチコとカズヨの関係は良好だった。



カズヨはよく問いかけてきた。
わからないことを聞く。それは当然の行動だ。



だがこの行動が、モチコとカズヨの間に亀裂を生んだのだった。