信じてくれてありがとうと感謝されたが、ただ信じていたわけではない

しがついつか

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事実

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リリーラ達の最後の茶会から1年が経った頃、レイチェル・ハニーハートという考古学者が、偉大なる功績を挙げたと新聞の一面を飾った。

記事によると彼女は、千年前に邪悪な魔物を封印した遺跡の綻びを、見事修復したのだという。
レイチェルは平民出身の28歳。
――なんと、二児の母だそうだ…。


封印の構文を解読し新たな封印を重ね掛けするためには、何度も遺跡へと足を運ばなくてはならない。
王都から遺跡までの道のりは険しく日数もかかるため、ほとんど遺跡に泊まり込む状態となっていた。

ただの考古学者である彼女1人では、魔物はもちろん道中で出くわす盗賊や野生動物にさえ太刀打ちできない。
そのために王命により王国騎士団と王国魔術師団から護衛が付けられることとなった。

また封印の修復作業の補佐をするために、王立魔科学研究所の職員も同行した。

一年ほどかかって、彼らは見事に任務を全うしたのだ。


――このレイチェル・ハニーハートこそ、貴族の令息を何人も侍らせていたという噂の女性だった。



そしてリリーラの婚約者――ケビン・パールスプーン伯爵令息は、レイチェルを守るための護衛として選ばれた王国騎士団員であった。

新聞に護衛メンバーの氏名が記載されているのは、おそらく王都中に流れた不名誉な噂話を払拭する意図があったのだろう。
彼らはこの1年で、婚約者がいながら他の女性を追いかけ回していた最低な男と認識されているのだから。


彼らは不名誉な噂を耳にしながらも、誰にも任務内容を打ち明けることは無かった。
そのため、家族・友人・婚約者達にはすべて事後報告となった。








新聞を読んだ父は深くため息を吐いた。


「――なるほどな。確かにこれは問題が解決するまでは、大々的に告知できる内容ではないな。
 封印が解かれると知れたら外交に差し障りがあるし、国外へ逃げ出す者も多いだろう。
 封印し直すにしても、失敗したら王国は危機に見舞われるわけだから混乱は避けられないか…。
 秘密裏に行動するしかなかったのだろう。
 事実を知るのは当事者と国王陛下と少数の大臣、それと護衛達の家の当主のみだったそうだ」
「せめて婚約者の家の当主にも話を通して欲しかったですわね。
 お役目とはいえ、婚約者を放っておいて他の女性とずっと一緒にいるのは聞いていて気分が良くないもの。
 ケビン様がリリーラにあらかじめお話ししていてくださったから良かったけれど、そうでなければ私も彼を不誠実な人だと糾弾していたかもしれないわ…」


娘の婚約者に不信感を持っていたリリーラの母は、なんともいえない顔をしていた。
隣にいる父も同じような表情をしている。


「――そういえばこの間、公爵家のお茶会にお呼ばれしたときに、御令嬢とコールディッシュ侯爵令息の婚約が破棄されるかもしれないと耳にしたわ。
 この新聞の発表によって、関係が修復できれば良いのだけれど…」
「うぅむ…」



リリーラとケビン以外の4組の婚約が、どうやら危機的状況にあったらしい。

彼らの婚約者とリリーラはもともと特に交流が無かったため、直接話を聞くことは無かった。
そもそもリリーラは周囲からの哀れんだ目を避けるため、ここ最近はお茶会の招待を断り続けていたので、世間の同行に疎くなっていた。
最低限の流行廃りは、同僚から情報を得ていたが。






それにしても――と、リリーラは新聞を手にして思う。


(少数精鋭で挑んだのはわかるけれど、護衛に女性が1人もいないのが良くなかったのではないかしら…?)


騎士団はともかく、魔術師団には実力のある女性も多い。
今回は女性1人に男性複数という構図が憶測を生んだはずだ。


そもそも考古学者の彼女は、男性しかいない状況でよく平気だったなと思うが、王国の危機が迫る状況で男女がどうのと言ってはいられなかったのだろう。
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