信じてくれてありがとうと感謝されたが、ただ信じていたわけではない

しがついつか

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噂話

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ケビンとのお茶会の翌月、リリーラは職場の同僚からある噂を教えられた。


『貴族の令息を侍らしている女性がいる』
『まるで女王と下僕のようだ』
『令息達は高位貴族でみんな婚約者がいるのに、女性に夢中らしい』


教えてくれた同僚はリリーラと割と仲が良く、リリーラの婚約者が誰かを知っている。
彼女は口を開くのを何度かためらった後、そっとリリーラに耳打ちした


「どうやらその令息達の中の1人が、パールスプーン伯爵令息らしいのよ…」
「――え、ケビン様が?」


リリーラは驚き、目を丸くした。
同僚は気遣わしげに見ている。

驚くリリーラだったが、ふと気づいた。


(――ひょっとして、ケビン様が言っていた不誠実な事って、このことかしら?)


婚約者がいるのに他の女性に付きまとうのは、確かに不誠実な行いに違いない。


「あの…リリーラ、大丈夫?」
「――あ、えぇ、大丈夫よ。教えてくれてありがとう」





翌月も、さらにその翌月になっても、女性と貴族令息の噂は消えなかった。
令息は5人――それも高位貴族であり、誰が女性を手に入れるか熾烈な争いを繰り広げている――という噂だ。

令息達の名前も聞こえてくる様になり、そのうちの1人はケビン・パールスプーンであった。
同時に令息達の婚約者が誰なのかも話題になったため、ここ最近は職場の同僚達からは気遣わしげな、あるいは好奇心が隠しきれない視線を送られるようになっている。



あれ以来ケビンとの茶会は行っていないし、手紙のやりとりもリリーラからの一方通行になってしまった。
事前にケビンから話を聞いていたこともあり、リリーラは特に騒ぎ立てることはしなかった。



噂話はリリーラの両親の元にも届いたようで心配していたが、リリーラが
「ケビン様から事前に聞いていることですので、心配ありません。詳細は明かせないようですので、私も知りませんが…」
と説明すると騎士団関係なのだろうと納得していた。






リリーラとしては、ケビンが本気でとある女性に夢中になっていたとしても、仕方ないことだと思っている。
いわゆる優良物件である彼に釣り合うだけの何かを、リリーラは持ち合わせていない。
妻にするメリットがないのだ。
ケビンがリリーラに惚れるような出来事も、彼女には思い当たる節がない。
もっと条件の良い、メリットのある相手――またはケビンが他の誰かと恋に落ちたのなら、リリーラとの婚約を解消してそちらと縁を結ぼうとするのは当然の事だと思う。


ケビンは「しばらくの間」だと言っていたが、いったいいつまで続くのか。
意中の相手と結ばれたらリリーラと別れるのか。もし他の男性に敗れてしまったら、そのままリリーラと仕方なく結婚するのか…。


(もう二十歳を過ぎてるし、今から婚約者を探すのは大変なのに…。まったくもう。別れるなら早く、ひと思いにやってほしいわ…!)



最後の茶会からもうそろそろ半年が経つ。
リリーラはこれから先のことを考えると、憂鬱になってきた。

いっそのこと、次にむけて婚活をした方がいいのではないかと思い始めてきた。

――だがそのたびに、ケビンに言われた言葉が思い出される。


『これは決して私の本心ではないことをあなたには知っていて欲しいのです』


女性に纏わり付くことが騎士団の任務なのだとしたら、リリーラはおとなしく待っていなくてはいけないだろう。












――茶会から半年が経過しリリーラの誕生日となった頃、ケビンからプレゼントが送られてきた。

ケビンとは相変わらず会っていないし、噂が消えることはない。
噂どころか事実として認識されつつある。


(まさか誕生日プレゼントを頂けるとは思わなかったわ)



贈り物はリリーラが好むデザインの髪飾りだった。
小さいながらも宝石が付いており、その色はケビンの瞳と同じ青である。

同封されていた手紙には『誕生日おめでとうございます』の一言だけ。

念のため手紙を光に透かしてみたが、文字が浮き上がってくることは無かった。
正真正銘、一言しか記載されていないのだ。

これならメッセージカードだけで充分だったのではないかと思った。


(とにかく、お礼状を書かないといけないわね…。あと、ケビン様の誕生日プレゼントもそろそろ用意しなきゃ)


本音を言えば、ケビンからの贈り物はとても嬉しかった。
密かに婚活をしようとしていた矢先だったので、もう少しだけ待ってみようと思い直すことにした。


リリーラは再来月のケビンの誕生日に向けて、プレゼントを探し始めた。

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