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「彼女との結婚を…諦める…」


考え込み、やがて口にしたのは諦めだった。


「あら、諦めるのね」
「――しょうが無いじゃないか…俺には…俺は家を
 貴族が当たり前のように身につけているマナーは、そんな簡単に覚えられるようなものじゃない。
 マリが伯爵家夫人となるために必要な教養を身につける時間はないし、彼女の後ろ盾となってくれる人の協力を得られるかもわからないんだ…。
 俺にはそんな心当たりはないし…。マリのために何もしてやれない…」


ジョージは無力だった。
マリを伯爵夫人として迎え入れるために出来ることが思いつかない。
彼には人脈も、煩い連中を黙らせるだけの権力も財力も何もない。

無力であることが悔しかった。

悔しさのあまり視界が涙でにじむ。



しばらく俯く弟を見ていたカレンだが、ふと気になったことを尋ねた。


「ねえ、ジョージ。そもそも平民の子――マリは貴方と結婚することを承諾しているの?」
「え? ――いや、それはまだ。プロポーズもしていないから…」
「そう…そうよね。お父様の許可が無ければプロポーズしても無駄だものね。
 ――マリは、貴方が貴族だと知らないのよね。
 もしお父様が許可を出したとして、伯爵夫人となることを彼女は受け入れてくれるのかしら?」
「それは…」
「貴方1人が盛り上がって、大事な彼女の気持ちを置き去りにしていない?」
「…」


姉に問われて初めて気づいた。
確かにジョージはマリに告白をしていない。

共に出かけて食事をし、互いに贈り物をするなどはしている。
手を繋ぐことはあるけれど、それ以上のスキンシップはしていなかった。


貴族令嬢は婚約者または婚約したいと思う相手以外の異性とは、安易に二人きりになることはない。それは貴族としての常識だが、もしかしたら平民では違うのかもしれない。
平民にとって、たとえ異性であっても二人きりで食事をする事が当たり前のことだったらどうか。

マリにとってジョージは、食事をする程度には親しいだけの友人なのかもしれない。


ジョージは急に不安になった。




「貴方が次期伯爵家当主として政略結婚を受け入れるのなら、私には何も言うことは無いわ。
 マリへの想いは素敵な思い出として胸にしまっておきなさい。
 けれど彼女を諦めきれず、さらに彼女も貴方と結婚することを望むのなら、お互いに覚悟が必要よ」
「うん…」



(マリに話そう…。それで断られたなら、諦めが付く)

(――でも、もし受け入れて貰えたら…どうすれば良いんだ。マリが伯爵夫人になるために、俺は何をすれば良いんだ…)




カレンはカップに残った紅茶を飲み干すと、考え込んでいるジョージにアドバイスをすることにした。


「ねえ、ジョージはと思ってるみたいだけど、別に貴方が継がなくてもいいのよ?」
「――へ?」



姉の言葉が余りにも予想外で、ジョージは間の抜けた声を出した。


「貴方は忘れているみたいだけど――」



姉の言葉を聞いて、目から鱗が落ちた。




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