上 下
3 / 6

羨ましい

しおりを挟む
ジョージは自分の道を進む姉を、密かに羨んでいた。

だからだろう。
サンドウィッチを平らげたジョージの口から、頭の片隅でいつも思っていた言葉が零れ出た。


「――姉さんは良いよな…自分の好きに出来て…」


言ってからジョージはハッとするが、一度口から出た言葉は取り消せない。

内心焦るジョージを一瞥すると、カップを置いたカレンが口を開いた。



「貴方が塞ぎ込んでいるのは、好きな人と結婚出来ないことが原因かしら?」


カレンはわかった上で問いかけている。

弟が平民の娘との結婚を望んでいること。そして父から反対されたこと。
母がジョージの婚約者を選定中であり、そのことに彼が焦り始めたということも、カレンは知っていた。



「――父上に反対された…」
「でしょうね」


ジョージは俯く。


「私がお父様だとしても、まず反対するわよ。ただ金品を貢いで貰おうとしているだけかもしれないし、ジョージの身分をわかった上で近づいて我が家を乗っ取るつもりかもしれないのだから」
「違う!彼女はそんなことをしない!」


ジョージは姉の言葉をすぐさま否定した。


「マリはそんなことをしない!
 マリは俺の身分を知らないし、今までだって彼女から俺に何かを強請る事なんて一度も無かった!
 俺が贈ったのは平民街で買った花やお菓子ばかりだけど、どれも嬉しそうに受け取ってくれて…。
 少し値の張るアクセサリーなんかは『買って貰うんじゃ意味が無い。欲しいものは給料を貯めて自分で買うんだ』って言ってたんだ」


そんな彼女が金目当てでジョージと付き合っているはずがない。
やや噛みつくように訴えた彼に、カレンは呆れたようにため息を吐く。


「まあ、それはそうでしょうね。彼女が無害であることはとっくに調べが付いているわ。
 もし財産目当てや我が家を陥れるために貴方に近づいたのなら、お父様がとっくに対処しているもの」
「――え…?」

「あのねぇ、ジョージ。あなたはグレイキャット伯爵家の次期当主となるのよ。
 素行の悪い者が当主になれると思う?
 変な輩と付き合って悪事を働くようなことになったらいけないから、貴方の人付き合いについてはすべてお父様に報告されているのよ。
 怪しい人物がいた場合は、貴方に害が及ぶ前にすべて処理しているの。
 少し関わることがあったけど、しばらくすると会わなくなったような人に思い当たる節はないかしら?
 ――ああ、もちろん私の人間関係についても逐一報告されているわよ。貴方よりは少し緩いかもしれないけど」



ジョージが彼女と今も会えるのは、彼女が無害だという証なのだ。

「ジョージが彼女と付き合うことにお父様が口を出さなかったのは、相手の人間性に問題が無いことがわかったからよ。
 借金があるわけでもなく、彼女の家族にもとりわけ大きな問題があるわけでもない。
 だから静観していたの。貴方がどうするのかを見極めるためにね」


姉の話を聞き、ジョージはぽかんとした表情を浮かべる。


(全然知らなかった…)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勝手に私が不幸だと決めつけて同情しないでいただけませんか?

木山楽斗
恋愛
生まれつき顔に大きな痣があるエレティアは、社交界において決して有利ではなかった。 しかし彼女には心強い味方がいた。エレティアの家族は、痣を気にすることなく、彼女のことを一心に愛していたのである。 偉大なる両親や兄姉の影響によって、エレティアは強い令嬢になっていた。 そんな彼女はある時、舞踏会で一人の同じ伯爵令息のルベルスと出会った。 ルベルスはエレティアにひどく同情的だった。 彼はエレティアのことをどこか見下し、対応してきたのである。 そんなルベルスに、エレティアはあまり好感を抱いていなかった。 だが彼は、後日エレティアに婚約を申し込んできた。 ルベルスはエレティアに他に婚約を申し込む者などいないと彼女を侮辱して、自分が引き取ると主張したのである。 ただ、そんな主張をエレティアの家族は認めなかった。 彼らはエレティアのことを大切に思っており、ルベルスのようなふざけた者に渡す気などなかったのである。 そんな折、エレティアにもう一人婚約を申し込んでくる者がいた。 彼の名は、ジオート。エレティアが舞踏会で会っていた侯爵令息である。

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

自分こそは妹だと言い張る、私の姉

神楽ゆきな
恋愛
地味で大人しいカトリーヌと、可愛らしく社交的なレイラは、見た目も性格も対照的な姉妹。 本当はレイラの方が姉なのだが、『妹の方が甘えられるから』という、どうでも良い理由で、幼い頃からレイラが妹を自称していたのである。 誰も否定しないせいで、いつしか、友人知人はもちろん、両親やカトリーヌ自身でさえも、レイラが妹だと思い込むようになっていた。 そんなある日のこと、『妹の方を花嫁として迎えたい』と、スチュアートから申し出を受ける。 しかしこの男、無愛想な乱暴者と評判が悪い。 レイラはもちろん 「こんな人のところにお嫁に行くのなんて、ごめんだわ!」 と駄々をこね、何年かぶりに 「だって本当の『妹』はカトリーヌのほうでしょう! だったらカトリーヌがお嫁に行くべきだわ!」 と言い放ったのである。 スチュアートが求めているのは明らかに可愛いレイラの方だろう、とカトリーヌは思ったが、 「実は求婚してくれている男性がいるの。 私も結婚するつもりでいるのよ」 と泣き出すレイラを見て、自分が嫁に行くことを決意する。 しかし思った通り、スチュアートが求めていたのはレイラの方だったらしい。 カトリーヌを一目見るなり、みるみる険しい顔になり、思い切り壁を殴りつけたのである。 これではとても幸せな結婚など望めそうにない。 しかし、自分が行くと言ってしまった以上、もう実家には戻れない。 カトリーヌは底なし沼に沈んでいくような気分だったが、時が経つにつれ、少しずつスチュアートとの距離が縮まり始めて……?

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【短編】王子のために薬を処方しましたが、毒を盛られたと婚約破棄されました! ~捨てられた薬師の公爵令嬢は、騎士に溺愛される毎日を過ごします~

上下左右
恋愛
「毒を飲ませるような悪女とは一緒にいられない。婚約を破棄させてもらう!」 公爵令嬢のマリアは薬を煎じるのが趣味だった。王子のために薬を処方するが、彼はそれを毒殺しようとしたのだと疑いをかけ、一方的に婚約破棄を宣言する。 さらに王子は毒殺の危機から救ってくれた命の恩人として新たな婚約者を紹介する。その人物とはマリアの妹のメアリーであった。 糾弾され、マリアは絶望に泣き崩れる。そんな彼女を救うべく王国騎士団の団長が立ち上がった。彼女の無実を主張すると、王子から「ならば毒殺女と結婚してみろ」と挑発される。 団長は王子からの挑発を受け入れ、マリアとの婚約を宣言する。彼は長らくマリアに片思いしており、その提案は渡りに船だったのだ。 それから半年の時が過ぎ、王子はマリアから処方されていた薬の提供が止まったことが原因で、能力が低下し、容姿も豚のように醜くなってしまう。メアリーからも捨てられ、婚約破棄したことを後悔するのだった。 一方、マリアは団長に溺愛される毎日を過ごす。この物語は誠実に生きてきた薬師の公爵令嬢が価値を認められ、ハッピーエンドを迎えるまでのお話である。

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました

ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」 国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。 なにやら証拠があるようで…? ※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*) ※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。

処理中です...