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帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動

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パルフェ国は、100年に一度の大災害に見舞われた。
大地震の後、国内の至る所で瘴気が溢れ出したのだ。

国外に逃げだそうにも、国境付近が最も瘴気が濃いため、逃げ場が無かった。

この窮地を救うべく立ち上がったのは、平民だが強い浄化の力を持つ聖女と、この国の第二王子率いる騎士の小隊だ。

先に浄化を済ませた王都周辺に国民の多くを避難させた後、各地を巡り、聖女の浄化の力で瘴気が吹き出す『穴』を一つずつ塞いでいった。
聖女のサポートをするため、騎士達は道中の盗賊や魔物の討伐に尽力した。
金銭面や、各地の領主達との交渉などは、第二王子が一手に引き受けた。


すべてを終えるまでに実に2年かかった。



長い旅路を経て、聖女一行はついに王都へと帰還することができた。
彼女達が姿を現すと、人々は歓声と共に出迎える。

国中が彼女達の偉業を労い、感謝しているのだ。


次々とかけられる感謝の言葉を浴びながら、聖女一行は王城にたどり着く。
彼らは城内にいる者達からも、暖かい言葉とともに迎え入れられた。

謁見の間では国王が玉座から立ち上がって彼らを迎え入れた。


「聖女ルナ、第二王子ビート、第六小隊の騎士達よ、大義であった。此度のそなたらの活躍により、我が国は救われたのだ。感謝する。帰還したばかりで疲労が溜っているであろう。今日はゆっくりと休むが良い。
 三日後に、そなたらを労う宴を開く予定だ。そなたらに感謝の意を伝えるのは、その時にしよう。
 また、皆に褒賞を与えたいと考えておる。何か望む物があるならば、遠慮無く申すのだ。むろん、今すぐに答える必要は無い。ゆっくりと考えてくれ。宴の時にでもまた聞こう」
「もったいないお言葉です」


聖女達の顔には疲労の色が見て取れたため、国王は謁見を早々に切り上げることとした。
疲れてはいるものの、聖女達の顔は晴れやかだった。
長旅での疲労が溜っていることもあり、国王との謁見で報告をした後、彼女達は用意された部屋で休息を取った。
















三日後。
王城の大広間に国中の貴族達が集った。
壁際のテーブルには馳走が並び、参列者達に極上の葡萄酒が振る舞われた。

聖女一行の帰還と平和の訪れを祝う宴では、参列者はもちろんのこと、給仕をする使用人達の誰もが晴れやかな顔をしている。
第二王子ビートにエスコートされて聖女ルナが入場すると、会場は割れんばかりの拍手で包まれた。


彼らが国王の前に並び臣下の礼を取ってなお、拍手が鳴り止まない。
通常は国王が言葉を発するときは、衣擦れ1つたてないように教育されてきた貴族たちだが、この日ばかりは感情を抑えることが出来ないようだ。
その様子に、さすがの国王も苦笑した。また皆の気持ちを理解しているため、不敬だと言うつもりはない。


「皆の者、少し落ち着かんか。そなた達が静かにせんと、国を救った英雄がずっとこの姿勢をとるはめになるのだぞ?」


国王は両手を上げ下げして静まるように伝える。
徐々に拍手が小さくなっていく。

頃合いを見計らって、国王は英雄達に声をかける。


「またせてすまなかったな、聖女ルナ、第二王子ビート、第六小隊の騎士達よ。顔を上げてくれ」


顔を上げた聖女達も苦笑していた。
国王から感謝の言葉を賜ると、聖女一行は1人ずつ国王から勲章を授与された。





――聖女一行への褒賞について話が移ったとき、事件は起こった。






「そなた達には此度の働きに見合う報償を授けたいと考えておる。希望があらば、遠慮無く言ってほしい。――聖女ルナよ。そなたは報償として何を望むのだ?」
「はい、国王陛下。私は、ここ王都に居を構えること望みます。王都は国の中央にあり、各地で異変が起きたときすぐに駆けつけることが出来ます。
 また今後も定期的に各地を回り、瘴気がないか確認をして回りたいと考えております。ですので、その…国内の各地に立ち入ることができる許可証をいただきたいのです」
「うむ。許可しよう。住居についてはいくつか候補を見繕うので、気に入ったものを選ぶと良い」
「感謝いたします」



聖女の要望は、快く受け入れられた。
話を聞いている貴族にとっても、今後も定期的に聖女が見回ってくれることで瘴気の脅威から逃れることが出来るため、聖女の願いは歓迎すべきものだった。




「では次に。第二王子ビート。そなたは何を望む?」
「はい、国王陛下。私は、メリッサ・スキーラ嬢との、新たに聖女ルナと婚約することを望みます」
「――何だと?」



国王は息子が言った言葉に眉をひそめた。
王子の言葉を聞いた貴族達からも驚きの声が上がる。

第二王子ビートには、幼少の頃より決められた婚約者がいる。
彼らの仲は決して悪くなかったはずだ。
何より第二王子であるビートは、スキーラ家へと婿入りすることとなっている。
自ら婿入り先を蹴るのは、どういう理由があるのか。


王子の言葉に婚約者であるメリッサ・スキーラは驚きふらついたが、無様に倒れ込まなかったのは教育の賜だろう。

だが王子の言葉に最も驚いていた者がいた。



「婚約の破棄を望むというのか?」
「はい。私はこの2年の旅の中で、真に愛するものが出来――」
「ちょっと待ったぁっ!」



聖女の声が会場内に響きわたる。



誰もが驚き――国王と王子も、声の発信源である聖女に注目した。

聖女は酷く驚いた顔で、第二王子ビートを見ている。


「ビート王子…あなた婚約者がいたの!?」
「え、あぁ。…そうか、君には言っていなかったね。だが婚約は破棄するし」
「最っ低!」


最っ低…さいってい…さい…てい…。
聖女の叫びが、会場内にこだました。



「婚約者がいながら他の女に手を出したってこと!?何それ最低!クズじゃないの!そもそも婚約したのはいつよ!?」
「え、10年」
「じゅうねんっ!? 10年ですって!? 女の10年をなんだと思ってんのよ!?
 しかもあなた王子さまなんでしょう!?
 婚約って家同士の契約でしょう、そんな約束事を勝手に破ったらいけないってことくらい、私だって――子供だってわかるわよ!
 それを何? 他の女を好きになったから長年連れ添った婚約者を捨てるわけ?馬鹿なんじゃないの?!
 ほんっとうに最低! 私の時間も返してよ!」
「え、あっ…」
「本当にむかつく!こんな男のために頑張って浄化作業してたなんてマジでないわ!ありえない!
 こんな男が王族だなんて!もういや、もう金輪際私はアンタなんかに協力しないわ!瘴気が充満したってあんたからの依頼なんて一切受け付けないから!」


そう啖呵を切って、聖女はホールを出て行った。














「大変申し訳ございませんでした」
「いえ、あの聖女様っ!どうか顔を上げてくださいませ!」


聖女ルナはスキーラ侯爵家の応接間にて、土下座を披露した。
対応したメリッサ・スキーラはもちろんのこと、スキーラ侯爵と使用人達の誰もが慌てふためいた。
突然英雄が菓子折を持って訪問してきたかと思えば、土下座をしたのだ。驚かない方がおかしい。
聖女はそのままの姿勢で、謝罪の言葉を口にした。



「知らなかったこととはいえ、旅の道中で貴女様の婚約者に手を出したのは私です」
「――あの時のお話を聞いていれば、非が誰にあったのかは一目瞭然です。聖女様はこの国をお守りくださいました。感謝こそすれ、恨むことなどありません」
「ううぅぅ…こんな良い女性を蔑ろにするなんて…マジであの男は許せない!」
「聖女様…」


あの宴にいた者達の誰もが、聖女は第二王子に騙されたのだと理解していた。
メリッサには、聖女ルナを恨む気持ちなどこれっぽっちも沸いてこなかった。
それどころか、己が第二王子の手綱を取っていなかったばっかりに、聖女に迷惑をかけてしまったことを悔いていたのだ。





聖女ルナとメリッサ・スキーラは、当然だが和解した。
彼女達はこれをきっかけに仲良くなり、良き友人関係を続けることとなった。






この騒動は国民に広く知れ渡っていた。
なぜなら聖女を労うパーティは、国王の計らいで国民に映写機により、リアルタイム送信されていたからだ。

王子に啖呵を切る姿は、聖女という神聖なイメージを打ち壊すものであったはずだが、特に女性達に大いに支持されることとなった。
国民の誰もが『あれは王子が悪い』と理解しているからだろう。


一方、婚約破棄を宣言し、想い人に振られた王子さまは大変肩身の狭い思いをすることとなる。
当然だが聖女ルナには振られ、スキーラ家との婚約は彼の望み通り破棄された。
国王の怒りはすさまじく、廃嫡こそしなかったものの、ビートを各地の復興作業の労働者として派遣した。
スキーラ家への慰謝料分に達するまで、彼は労働を強いられることとなったのだ。




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