17 / 17
アッシュの家
しおりを挟む
アッシュは、予定よりも早くブラウンロード伯爵邸を出ることになった。
伯爵領内にある町の中で、伯爵邸から最も遠い町に手頃な物件があった事と、使用人の手配が済んだため、15歳の誕生日を待たずに移り住むことになったのだ。
領内であるため、距離はあってもチャーリー・ブラウンロードの目が届く範囲だ。
比較的治安の良い町であるし、伯爵が息子のために購入した2階建ての一軒家は、平民の中でもとりわけ裕福な者が居住するエリアにある。
住み込みで使用人を雇っている家もいくつかあるため、貴族令息が使用人と共に移り住んでもあまり違和感がない。
「私だけでなく両親まで雇ってくださり、ありがとうございます。――ですが、本当によろしかったのですか? アッシュ様のお世話をする人間が、私達平民の親子だけで…」
「だからいいんだよ。リンリーの家族だからね。セキュリティ面でどうしてもこの家には大人の存在が必要だ。けれど、リンリー以外にあの家から連れてきたい人はいなかったし、伯爵が手配した人間を身近に置きたくはなかったんだ」
現在アッシュの家には、侍女としてついてきたリンリーの他に、彼女の両親と弟妹の6人で生活している。
引っ越しから3か月間は、執事長のマイクもこの家に滞在していた。
リンリーの父と弟にアッシュを守る手段とブラウンロード伯爵家との連絡を取る手段など、必要なノウハウを教えるために。
リンリーの父はこの家の執事と庭師を兼務している。
商売をしていた経験から帳簿を付けることはできるし、書類仕事も性に合っているようで月に一度のマイクへの報告書の提出も苦では無かった。
空いている時間は庭の手入れを行っている。
母は厨房担当だ。
一般的な平民の主婦が作る質素な料理しか出来ないが、アッシュの口には合っているようで大層喜ばれた。
彼女にしてみれば、普段通りに家族+@の食事を作るだけで給金が貰えるのだから、文句などあるはずがなかった。
最近では料理のレパートリーを増やそうと、買い物先の店主や町に住む主婦達からレシピを聞いて勉強している。
14歳になる弟のカイトは、アッシュの護衛という役回りにあたる。
年が近いアッシュとの関係は悪くない。
共に町にいる博識な老人に勉強を教わり、定年となり騎士を引退して故郷に戻ってきた男に護身術の稽古を付けて貰うなどしている。
――老人達はあらかじめマイクが手配しておいてくれた、身元が保証されている人物だ。
妹のマナは昼間は町の定食屋に勤めている。
アッシュの家における明確な役職はない。
彼女に関して言えば、単に同居している家族、といったところだ。
結婚相手を見つけるためにも家の外で働きたいと言う彼女の希望が通ったのだ。
「リンリーが一緒に来てくれて本当によかった。あの家で絶望していた僕にとって、君は初めて信じられる人だったから」
「アッシュ様…」
「どうか、これからも側にいて欲しい…」
「はい。私でよろしければ」
アッシュから『侍女としてついてきて欲しい』と請われた時、リンリーは快諾した。
雇用主はブラウンロード伯爵ではなくアッシュに変わるが、給金が減ることはないと約束された。
さらに伯爵からは5年間の献身を感謝されて謝礼金をたっぷり貰っているし、『これからもアッシュを頼む』と伯爵夫妻から直々にお願いされてしまったのだ。断れるわけがない。
リンリーのいないところで、妹のマナは母親にこう言った。
『お姉ちゃんったら、とんでもなく金持ちのお婿さんを捕まえてきたわね』と。
姉の態度は雇用主に対する敬意があるのみだが、アッシュがリンリーを見る眼差しにはやや熱があると早々に見抜いていた。
アッシュがまだ成人していないので、今のことろ進展はない。
だが近い将来、アッシュと姉の関係が変わる日が来ることを期待している。
悪い意味では無く、良い意味で、彼らの関係が変わると良いなと、マナは願う。
伯爵領内にある町の中で、伯爵邸から最も遠い町に手頃な物件があった事と、使用人の手配が済んだため、15歳の誕生日を待たずに移り住むことになったのだ。
領内であるため、距離はあってもチャーリー・ブラウンロードの目が届く範囲だ。
比較的治安の良い町であるし、伯爵が息子のために購入した2階建ての一軒家は、平民の中でもとりわけ裕福な者が居住するエリアにある。
住み込みで使用人を雇っている家もいくつかあるため、貴族令息が使用人と共に移り住んでもあまり違和感がない。
「私だけでなく両親まで雇ってくださり、ありがとうございます。――ですが、本当によろしかったのですか? アッシュ様のお世話をする人間が、私達平民の親子だけで…」
「だからいいんだよ。リンリーの家族だからね。セキュリティ面でどうしてもこの家には大人の存在が必要だ。けれど、リンリー以外にあの家から連れてきたい人はいなかったし、伯爵が手配した人間を身近に置きたくはなかったんだ」
現在アッシュの家には、侍女としてついてきたリンリーの他に、彼女の両親と弟妹の6人で生活している。
引っ越しから3か月間は、執事長のマイクもこの家に滞在していた。
リンリーの父と弟にアッシュを守る手段とブラウンロード伯爵家との連絡を取る手段など、必要なノウハウを教えるために。
リンリーの父はこの家の執事と庭師を兼務している。
商売をしていた経験から帳簿を付けることはできるし、書類仕事も性に合っているようで月に一度のマイクへの報告書の提出も苦では無かった。
空いている時間は庭の手入れを行っている。
母は厨房担当だ。
一般的な平民の主婦が作る質素な料理しか出来ないが、アッシュの口には合っているようで大層喜ばれた。
彼女にしてみれば、普段通りに家族+@の食事を作るだけで給金が貰えるのだから、文句などあるはずがなかった。
最近では料理のレパートリーを増やそうと、買い物先の店主や町に住む主婦達からレシピを聞いて勉強している。
14歳になる弟のカイトは、アッシュの護衛という役回りにあたる。
年が近いアッシュとの関係は悪くない。
共に町にいる博識な老人に勉強を教わり、定年となり騎士を引退して故郷に戻ってきた男に護身術の稽古を付けて貰うなどしている。
――老人達はあらかじめマイクが手配しておいてくれた、身元が保証されている人物だ。
妹のマナは昼間は町の定食屋に勤めている。
アッシュの家における明確な役職はない。
彼女に関して言えば、単に同居している家族、といったところだ。
結婚相手を見つけるためにも家の外で働きたいと言う彼女の希望が通ったのだ。
「リンリーが一緒に来てくれて本当によかった。あの家で絶望していた僕にとって、君は初めて信じられる人だったから」
「アッシュ様…」
「どうか、これからも側にいて欲しい…」
「はい。私でよろしければ」
アッシュから『侍女としてついてきて欲しい』と請われた時、リンリーは快諾した。
雇用主はブラウンロード伯爵ではなくアッシュに変わるが、給金が減ることはないと約束された。
さらに伯爵からは5年間の献身を感謝されて謝礼金をたっぷり貰っているし、『これからもアッシュを頼む』と伯爵夫妻から直々にお願いされてしまったのだ。断れるわけがない。
リンリーのいないところで、妹のマナは母親にこう言った。
『お姉ちゃんったら、とんでもなく金持ちのお婿さんを捕まえてきたわね』と。
姉の態度は雇用主に対する敬意があるのみだが、アッシュがリンリーを見る眼差しにはやや熱があると早々に見抜いていた。
アッシュがまだ成人していないので、今のことろ進展はない。
だが近い将来、アッシュと姉の関係が変わる日が来ることを期待している。
悪い意味では無く、良い意味で、彼らの関係が変わると良いなと、マナは願う。
128
お気に入りに追加
742
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
私、パーティー追放されちゃいました
菜花
ファンタジー
異世界にふとしたはずみで来てしまった少女。幸いにもチート能力があったのでそれを頼りに拾ってもらった人達と働いていたら……。「調子に乗りやがって。お前といるの苦痛なんだよ」 カクヨムにも同じ話があります。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
婚活パーティで天敵と再会した王女と聖女の話
しがついつか
ファンタジー
婚約者の心変わりにより、婚約を解消した王女のエメラルド。
彼のことは愛していなかったので婚約の解消自体は快く受け入れた。
だが、新たな婚約者を決めようにも、国内の優良物件はすべて完売済み…。
国内での縁談に見切りをつけた彼女は、他国で開催される婚活パーティに参加したのだが、
なんとそこには彼女の天敵である聖女ソフィアの姿があった。
(なんでアイツがここにいるのよ!)
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています
祝☆聖女召喚!そして国が滅びました☆
ラララキヲ
ファンタジー
魔物の被害に疲れた国は異世界の少女に救いを求めた。
『聖女召喚』
そして世界で始めてその召喚は成功する。呼び出された少女を見て呼び出した者たちは……
そして呼び出された聖女は考える。彼女には彼女の求めるものがあったのだ……──
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる