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14話 あの笑顔の裏に
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※今回は登場人物が少し多いのでイニシャルではありませんが、すべて仮名です。
『今日の夜、久々に麻雀やるから、バイト終わったら急いで来てくれ』
学生時代のある日、バイトが終わって携帯を見るとそんなメールが入っていた。
私は麻雀が好きで周りにも麻雀好きが多かったので、けっこうな頻度で集まって麻雀をしていた時期があった。
もちろん健全な。もちろん健全な。大切なことなので2回書きました。
前回の麻雀から1ヶ月以上経っていたため、楽しみな私は急いで先輩の家に向かった。
先輩が住むアパートは防音がしっかりしており、深夜だろうが迷惑がかからない好物件(実際に隣の部屋に入れてもらい確認したことがあるのだが、一切の音がしなかった)。
そんな少しお高い物件ではあったが、駐輪場が狭く、入居者の自転車やバイクで駐輪場は常にいっぱい。
こればかりは入居者優先なのでしょうがないと思いつつ、毎回少し離れたところにある有料駐輪場に停めて歩いて行っていた。
その日も有料駐輪場に停めたのだが、到着と同時に電話が鳴った。
『今どこ?』
「たった今、いつもの駐輪場に着いたとこです」
『中島が急用で帰らないといけないみたいでさ、悪いけど走ってきて』
「わかりました」
そんなやり取りがあったため私は急いだ。
途中にあるコンビニで飲み物を買いたかったのだが、中島先輩の急用は十中八九(怒ると怖い)彼女さん絡みのことだとわかっていたのでなおさら急がねばならず、泣く泣く飲み物は諦めた。
名残り惜しくてチラッとコンビニを見ると、雑誌コーナーのところに金山先輩が立っており、私に気づいたのかニコリと笑った。
金山先輩は麻雀を通じて知り合った他学部の先輩で、いつも笑顔で明るい人だった。
プライベートが忙しいらしく、長らく麻雀の場で会っていなかったからゆっくりと話したかったが、中島先輩の件で急いでいたため、ペコリと頭を下げるだけしてコンビニを通り過ぎた。
「お疲れ様でーす。」
「おう、陽木!急がせて悪かったな」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「ここまでやっていくから、そのあと続けて打ってくれない?」
「わかりました」
飲み物買えたじゃん! 金山先輩とも話せたじゃん!
そんなことを思っていると、そのうち中島先輩はその局を終えいそいそと帰っていった。
私が卓につき、いつものように麻雀が始まった。
麻雀中は学校のことだったり何だりと、楽しい雑談が展開される。
勝ったの負けたのを繰り返しながら、ふと私は思いついたことを口にした。
「さっき下のコンビニに金山先輩がいましたけど、誘わなかったんですか? 誘ってれば俺が来るまで待たなくてもよかったのに」
ハハハハハと笑いながら言うが、なぜかその場が静まり返った。
あれっ、何か失敗したかのか?
もしかして喧嘩とかしてて誘ってなかったのか?
そんなことを考えてヒヤヒヤした。
するとしばらくして、1人の先輩が口を開いた。
「陽木、金山を見たの?」
「えっ?見ましたよ?」
「いつどこで?」
「さっき駐輪場に着いた時ぐらいですね。急いでたんで外から頭下げただけですけど、コンビニにいましたよ」
「ホントに?ホントに金山だった?」
あまりにも真剣に聞いてくるので、少し身を引いてしまう。
「絶対金山先輩でしたよ。えっ、どうしたんですか? 喧嘩とかしたんですか?」
狼狽えた私がそう問いかけると場は再び沈黙した。
しかし、その中で1番歳が上の先輩が小さな声で教えてくれた。
「金山、死んだんだよ……」
「またまたぁ! 冗談にしても手が込んでますって!」
おそらく私が来る前に全員で打ち合わせして、ドッキリにかけようとしたんだろう。
イタズラ好きな先輩ばかりだからとそう思って笑った。
あえて私がバイトの日に麻雀をセッティングし、中島先輩を途中退席させる。
しょっちゅう彼女さんに呼び出されている中島先輩なら不自然さはない。
近くのコンビニに金山先輩を待機させておき、私に発見させる。
しかし急用で帰らないといけない先輩のために私が通り過ぎることまで、私の性格から予測していたのだろう。
そんなイタズラであってほしかった。
「正月休みが明けても、金山が学校に出てこなかったんだ」
そう語りだしたのは金山先輩と同じ学部の先輩。
「メールしても返事がないし電話は繋がらない。だから、ここにいるみんなで金山のアパートに行ったんだよ」
「ドアには鍵がかかってて開かなかった。不動産屋に行って事情を話したんだけど、ドラマみたいにすんなりとは開けてもらえなかったよ」
ドラマのワンシーンのように、血縁者や交際者や友達を装って合鍵で開けてもらうなんてことは、よほど管理が杜撰なとこでないとやってくれないらしい。
結局は入居時の契約書にあった金山先輩の親に電話をかけ、事情を話したとのこと。
「金山って普段から親にあんまり連絡取ってなかったらしくてさ。連絡が来ないのが普通だったらしい。まず親が金山に電話をかけてみることになったんだけど、やっぱり繋がらなくて」
「親も変に思ったらしくて、鍵を開けていいってことになったんだ」
「不動産屋の人と一緒に金山のアパートに行ったんだけどさ……」
そこで先輩達の口が止まった。
何となくではあるが、悲しすぎる結末だということがわかった私は「その先は話さなくて大丈夫ですよ……」と、やんわりと話を終わらせた。
「……陽木は金山を慕ってたし、金山も陽木のこと可愛がってたからさ。相談してお前には話さないことにしたんだよ」
「今日が四十九日でさ。法要は親族だけでやるって聞いてたから、俺達は俺達なりに弔おうって思ってさ」
だからこその麻雀、だからこその久々の開催だったのだ。
金山先輩の死でみな心にダメージを負い、今までのようにのんべんだらりと麻雀をできなくなった。
しかし自分達なりに弔うために、あえて金山先輩が大好きだった麻雀という形を選んだのだという。
「……実家の方で四十九日法要もあっただろうにさ。わざわざ陽木に姿を見せるだなんて、よっぽど陽木のことが気になってたんだろうな」
先輩の言葉を引き金に、私は涙を流した。
めったに人前で泣かない私だが、子どものように声を上げて泣いた。
翌日、先輩達から教えてもらった金山先輩の実家を訪ね、事情を話して墓参りをさせてもらった。
「金山先輩、ありがとうございました。」
最後に(かどうかはわからないが)わざわざ俺の前に姿を現してくれた、優しい先輩。
あの時の笑顔は生前と変わらず、見た人の心を温かくする柔らかい笑顔だった。
いつも見せていた笑顔の裏で、金山先輩は死を選ぶほどの苦悩を抱えていたのだろう。
今となってはどうすることもできないが、ただただ安らかに眠ってくれていることを祈るばかりである。
今回は珍しく後書きのようなものを書かせてもらおう。
実は私はこの話を書くことも話すことも好まない。
なぜなら、内容があまりにも私に都合がよいまるでドラマのような話だからだ。
以前別のサイトで同じ話を書いたことがあるが、心無い人から
「嘘だろ?」
「作り話だろ?」
「先輩の霊を視たのは本当かもしれないけど、美化してるんだろ?」
など、辛辣な感想やダイレクトメールを多数いただくこととなったからだ。
この話は間違いなく私が体験した実話であるが、信じる・信じないは読者様の自由である。
私としても、読んだ人全員が信じてくれるとは思っていないし、信じてもらおうとも思っていない。
今回も書くかどうかかなり悩んだ話ではあるが、実話怪談集として書いているので、積極的に自身の体験談を載せたいと思い書いた。
読者様の優しさを信じて。
『今日の夜、久々に麻雀やるから、バイト終わったら急いで来てくれ』
学生時代のある日、バイトが終わって携帯を見るとそんなメールが入っていた。
私は麻雀が好きで周りにも麻雀好きが多かったので、けっこうな頻度で集まって麻雀をしていた時期があった。
もちろん健全な。もちろん健全な。大切なことなので2回書きました。
前回の麻雀から1ヶ月以上経っていたため、楽しみな私は急いで先輩の家に向かった。
先輩が住むアパートは防音がしっかりしており、深夜だろうが迷惑がかからない好物件(実際に隣の部屋に入れてもらい確認したことがあるのだが、一切の音がしなかった)。
そんな少しお高い物件ではあったが、駐輪場が狭く、入居者の自転車やバイクで駐輪場は常にいっぱい。
こればかりは入居者優先なのでしょうがないと思いつつ、毎回少し離れたところにある有料駐輪場に停めて歩いて行っていた。
その日も有料駐輪場に停めたのだが、到着と同時に電話が鳴った。
『今どこ?』
「たった今、いつもの駐輪場に着いたとこです」
『中島が急用で帰らないといけないみたいでさ、悪いけど走ってきて』
「わかりました」
そんなやり取りがあったため私は急いだ。
途中にあるコンビニで飲み物を買いたかったのだが、中島先輩の急用は十中八九(怒ると怖い)彼女さん絡みのことだとわかっていたのでなおさら急がねばならず、泣く泣く飲み物は諦めた。
名残り惜しくてチラッとコンビニを見ると、雑誌コーナーのところに金山先輩が立っており、私に気づいたのかニコリと笑った。
金山先輩は麻雀を通じて知り合った他学部の先輩で、いつも笑顔で明るい人だった。
プライベートが忙しいらしく、長らく麻雀の場で会っていなかったからゆっくりと話したかったが、中島先輩の件で急いでいたため、ペコリと頭を下げるだけしてコンビニを通り過ぎた。
「お疲れ様でーす。」
「おう、陽木!急がせて悪かったな」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「ここまでやっていくから、そのあと続けて打ってくれない?」
「わかりました」
飲み物買えたじゃん! 金山先輩とも話せたじゃん!
そんなことを思っていると、そのうち中島先輩はその局を終えいそいそと帰っていった。
私が卓につき、いつものように麻雀が始まった。
麻雀中は学校のことだったり何だりと、楽しい雑談が展開される。
勝ったの負けたのを繰り返しながら、ふと私は思いついたことを口にした。
「さっき下のコンビニに金山先輩がいましたけど、誘わなかったんですか? 誘ってれば俺が来るまで待たなくてもよかったのに」
ハハハハハと笑いながら言うが、なぜかその場が静まり返った。
あれっ、何か失敗したかのか?
もしかして喧嘩とかしてて誘ってなかったのか?
そんなことを考えてヒヤヒヤした。
するとしばらくして、1人の先輩が口を開いた。
「陽木、金山を見たの?」
「えっ?見ましたよ?」
「いつどこで?」
「さっき駐輪場に着いた時ぐらいですね。急いでたんで外から頭下げただけですけど、コンビニにいましたよ」
「ホントに?ホントに金山だった?」
あまりにも真剣に聞いてくるので、少し身を引いてしまう。
「絶対金山先輩でしたよ。えっ、どうしたんですか? 喧嘩とかしたんですか?」
狼狽えた私がそう問いかけると場は再び沈黙した。
しかし、その中で1番歳が上の先輩が小さな声で教えてくれた。
「金山、死んだんだよ……」
「またまたぁ! 冗談にしても手が込んでますって!」
おそらく私が来る前に全員で打ち合わせして、ドッキリにかけようとしたんだろう。
イタズラ好きな先輩ばかりだからとそう思って笑った。
あえて私がバイトの日に麻雀をセッティングし、中島先輩を途中退席させる。
しょっちゅう彼女さんに呼び出されている中島先輩なら不自然さはない。
近くのコンビニに金山先輩を待機させておき、私に発見させる。
しかし急用で帰らないといけない先輩のために私が通り過ぎることまで、私の性格から予測していたのだろう。
そんなイタズラであってほしかった。
「正月休みが明けても、金山が学校に出てこなかったんだ」
そう語りだしたのは金山先輩と同じ学部の先輩。
「メールしても返事がないし電話は繋がらない。だから、ここにいるみんなで金山のアパートに行ったんだよ」
「ドアには鍵がかかってて開かなかった。不動産屋に行って事情を話したんだけど、ドラマみたいにすんなりとは開けてもらえなかったよ」
ドラマのワンシーンのように、血縁者や交際者や友達を装って合鍵で開けてもらうなんてことは、よほど管理が杜撰なとこでないとやってくれないらしい。
結局は入居時の契約書にあった金山先輩の親に電話をかけ、事情を話したとのこと。
「金山って普段から親にあんまり連絡取ってなかったらしくてさ。連絡が来ないのが普通だったらしい。まず親が金山に電話をかけてみることになったんだけど、やっぱり繋がらなくて」
「親も変に思ったらしくて、鍵を開けていいってことになったんだ」
「不動産屋の人と一緒に金山のアパートに行ったんだけどさ……」
そこで先輩達の口が止まった。
何となくではあるが、悲しすぎる結末だということがわかった私は「その先は話さなくて大丈夫ですよ……」と、やんわりと話を終わらせた。
「……陽木は金山を慕ってたし、金山も陽木のこと可愛がってたからさ。相談してお前には話さないことにしたんだよ」
「今日が四十九日でさ。法要は親族だけでやるって聞いてたから、俺達は俺達なりに弔おうって思ってさ」
だからこその麻雀、だからこその久々の開催だったのだ。
金山先輩の死でみな心にダメージを負い、今までのようにのんべんだらりと麻雀をできなくなった。
しかし自分達なりに弔うために、あえて金山先輩が大好きだった麻雀という形を選んだのだという。
「……実家の方で四十九日法要もあっただろうにさ。わざわざ陽木に姿を見せるだなんて、よっぽど陽木のことが気になってたんだろうな」
先輩の言葉を引き金に、私は涙を流した。
めったに人前で泣かない私だが、子どものように声を上げて泣いた。
翌日、先輩達から教えてもらった金山先輩の実家を訪ね、事情を話して墓参りをさせてもらった。
「金山先輩、ありがとうございました。」
最後に(かどうかはわからないが)わざわざ俺の前に姿を現してくれた、優しい先輩。
あの時の笑顔は生前と変わらず、見た人の心を温かくする柔らかい笑顔だった。
いつも見せていた笑顔の裏で、金山先輩は死を選ぶほどの苦悩を抱えていたのだろう。
今となってはどうすることもできないが、ただただ安らかに眠ってくれていることを祈るばかりである。
今回は珍しく後書きのようなものを書かせてもらおう。
実は私はこの話を書くことも話すことも好まない。
なぜなら、内容があまりにも私に都合がよいまるでドラマのような話だからだ。
以前別のサイトで同じ話を書いたことがあるが、心無い人から
「嘘だろ?」
「作り話だろ?」
「先輩の霊を視たのは本当かもしれないけど、美化してるんだろ?」
など、辛辣な感想やダイレクトメールを多数いただくこととなったからだ。
この話は間違いなく私が体験した実話であるが、信じる・信じないは読者様の自由である。
私としても、読んだ人全員が信じてくれるとは思っていないし、信じてもらおうとも思っていない。
今回も書くかどうかかなり悩んだ話ではあるが、実話怪談集として書いているので、積極的に自身の体験談を載せたいと思い書いた。
読者様の優しさを信じて。
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