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第4章 いろいろ巻き込まれていく流れ
91話 ワガママと笑顔と涙と②
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「シジル様、ご無沙汰してます」
「ご、ご無沙汰しております、ジョージ様と……」
マリアさん達が来店した翌々日の7月16日。
穏やかな声で応じるシジル様だけど、明らかに笑顔が強張っている。
それもそのはず、俺は助っ人を連れてきたのだ!
「ビービーさん……」
「久しぶりだね、シジル。どうしたんだい? あたいが来ちゃぁ迷惑だったかい?」
「いえ、迷惑だなんてそんな……」
隣の席でひぇっひぇっひぇと笑うビービーさん。
苦手っていうわけじゃないんだろうけど、明らかにシジル様が緊張しているのがわかる。
商業ギルドのオイ氏が、過去にオイ氏とビービーさんとシジル様がパーティーを組んでいた、と言ってたことを思い出した俺はすぐに冒険者ギルドに向かった。
少しでも牽制になればって思って同行をお願いしたんだけど、思いの外効果があるようだ。
「話はジョージから聞かせてもらったよ。あんたは幾つになっても美食の虜のままなんだねぇ」
「び、美食の虜だなんて!」
「まぁしょうがないさね。冒険者やってた頃のあたいらは貧乏だったし、人一倍食べることへの憧れが大きかったからね」
「へぇ、意外ですね」
「意外かい? まぁジョージにはわからないだろうけどね、依頼を受けた冒険者は、荷物をできるだけ減らすために食料は携帯食料にするんだよ。その携帯食料ってのが、安くて持ち運びしやすくて栄養満点だけど、パッサパサで激マズなのさね」
「想像しただけでツラそうですね」
「ツラいなんてものではありません!!」
想像して顔をしかめていると、シジル様が興奮して声を上げた。
「口の中の水分は持っていかれますし、口の中の至る所に貼りついてマズい味がずっと残るのですよ!?」
「は、はぁ……」
「栄養満点と言いましても、製造時に調理の工夫がなされてないので苦味やら渋味やらが凝縮されたままで、臭いとまでは言いませんが決して良い香りではございませんしーー」
「落ち着きなよシジル。ジョージが困ってるだろう」
なおも携帯食料のマズさを熱弁しようとするシジル様を、ビービー様が手で制する。
「はっ! わたくしとしたことが! 申し訳ございません」
正気に戻ったシジル様は、少し顔を赤くして俯いた。
「道中で食べれる魔物を討伐した時はその肉を食べるんだけど、ダンジョンに潜った時はそう上手くいくわけじゃないからねぇ」
「ダンジョンだと何か違うんですか?」
「ダンジョン内の魔物は、ダンジョンの核が魔素を使用して生み出してるのさね。だから自然に生まれた魔物と違って、討伐したら消滅しちまうんだよ」
「へぇぇ。じゃあダンジョン内の魔物は何も生み出さないんですか?」
「いや、どういう仕組みかはまだ解明されてないんだけどね、ランダムで何か素材やら肉やらを残すことがあるのさ」
ランダムで何かしらドロップするのか。そういった部分はちょっとRPGのゲームっぽいな。
「例えば、自然界のカヌウを狩ったら皮や肉や牙なんて素材が丸々獲れるけど、ダンジョン内のカヌウはそうはいかないのさね。何も落とさないこともあるし、皮や肉や牙がランダムで残されることもある」
「ですので、ダンジョンで空腹をこらえてカヌウを狩ったとしても、必ず肉が手に入るわけではないのですよ」
妙に重みのある声でシジルさんが言った。
しかしここで頭に引っかかることがあった。
「じゃあダンジョンって旨みが少なくないですか? 確定で素材や肉が手に入るわけじゃないなら、自然界にいる魔物を狩った方が得ですよね?」
「確かにそう思えるだろうけど、一概にはそう言えないんだよ」
「ダンジョン内の魔物がドロップするものは、自然界の同種と比べて質が高いのですよ。奥に進めば進むほどその傾向が高くなります」
「例えばだね、自然界のカヌウの肉は筋が多くてクセがあるけど、ダンジョン内のカヌウの肉は筋もクセも少なくて食べやすいんだよ」
それでも他の肉には劣るんだけどね、とビービーさんは苦笑した。
「牙だったらより硬く鋭く、皮だったらより滑らかで強靭といった感じですね」
「なるほど、よくわかりました」
ゲームや異世界物の小説の中で解説されているのと似たような情報だったけど、自分がそんな世界にいることに人知れず興奮していた。
「ご、ご無沙汰しております、ジョージ様と……」
マリアさん達が来店した翌々日の7月16日。
穏やかな声で応じるシジル様だけど、明らかに笑顔が強張っている。
それもそのはず、俺は助っ人を連れてきたのだ!
「ビービーさん……」
「久しぶりだね、シジル。どうしたんだい? あたいが来ちゃぁ迷惑だったかい?」
「いえ、迷惑だなんてそんな……」
隣の席でひぇっひぇっひぇと笑うビービーさん。
苦手っていうわけじゃないんだろうけど、明らかにシジル様が緊張しているのがわかる。
商業ギルドのオイ氏が、過去にオイ氏とビービーさんとシジル様がパーティーを組んでいた、と言ってたことを思い出した俺はすぐに冒険者ギルドに向かった。
少しでも牽制になればって思って同行をお願いしたんだけど、思いの外効果があるようだ。
「話はジョージから聞かせてもらったよ。あんたは幾つになっても美食の虜のままなんだねぇ」
「び、美食の虜だなんて!」
「まぁしょうがないさね。冒険者やってた頃のあたいらは貧乏だったし、人一倍食べることへの憧れが大きかったからね」
「へぇ、意外ですね」
「意外かい? まぁジョージにはわからないだろうけどね、依頼を受けた冒険者は、荷物をできるだけ減らすために食料は携帯食料にするんだよ。その携帯食料ってのが、安くて持ち運びしやすくて栄養満点だけど、パッサパサで激マズなのさね」
「想像しただけでツラそうですね」
「ツラいなんてものではありません!!」
想像して顔をしかめていると、シジル様が興奮して声を上げた。
「口の中の水分は持っていかれますし、口の中の至る所に貼りついてマズい味がずっと残るのですよ!?」
「は、はぁ……」
「栄養満点と言いましても、製造時に調理の工夫がなされてないので苦味やら渋味やらが凝縮されたままで、臭いとまでは言いませんが決して良い香りではございませんしーー」
「落ち着きなよシジル。ジョージが困ってるだろう」
なおも携帯食料のマズさを熱弁しようとするシジル様を、ビービー様が手で制する。
「はっ! わたくしとしたことが! 申し訳ございません」
正気に戻ったシジル様は、少し顔を赤くして俯いた。
「道中で食べれる魔物を討伐した時はその肉を食べるんだけど、ダンジョンに潜った時はそう上手くいくわけじゃないからねぇ」
「ダンジョンだと何か違うんですか?」
「ダンジョン内の魔物は、ダンジョンの核が魔素を使用して生み出してるのさね。だから自然に生まれた魔物と違って、討伐したら消滅しちまうんだよ」
「へぇぇ。じゃあダンジョン内の魔物は何も生み出さないんですか?」
「いや、どういう仕組みかはまだ解明されてないんだけどね、ランダムで何か素材やら肉やらを残すことがあるのさ」
ランダムで何かしらドロップするのか。そういった部分はちょっとRPGのゲームっぽいな。
「例えば、自然界のカヌウを狩ったら皮や肉や牙なんて素材が丸々獲れるけど、ダンジョン内のカヌウはそうはいかないのさね。何も落とさないこともあるし、皮や肉や牙がランダムで残されることもある」
「ですので、ダンジョンで空腹をこらえてカヌウを狩ったとしても、必ず肉が手に入るわけではないのですよ」
妙に重みのある声でシジルさんが言った。
しかしここで頭に引っかかることがあった。
「じゃあダンジョンって旨みが少なくないですか? 確定で素材や肉が手に入るわけじゃないなら、自然界にいる魔物を狩った方が得ですよね?」
「確かにそう思えるだろうけど、一概にはそう言えないんだよ」
「ダンジョン内の魔物がドロップするものは、自然界の同種と比べて質が高いのですよ。奥に進めば進むほどその傾向が高くなります」
「例えばだね、自然界のカヌウの肉は筋が多くてクセがあるけど、ダンジョン内のカヌウの肉は筋もクセも少なくて食べやすいんだよ」
それでも他の肉には劣るんだけどね、とビービーさんは苦笑した。
「牙だったらより硬く鋭く、皮だったらより滑らかで強靭といった感じですね」
「なるほど、よくわかりました」
ゲームや異世界物の小説の中で解説されているのと似たような情報だったけど、自分がそんな世界にいることに人知れず興奮していた。
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