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第4章 いろいろ巻き込まれていく流れ
87話 帰還と騒動①
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教会でカヌウ丼を提供した翌週のことだった。
お昼にレジに立っていると、白銀の鎧を身に纏った人物が少し息を切らせながら入店してきた。
「コスタスさん! いらっしゃいませ、任務お疲れ様でした!」
「久しぶりだな! 早速だが今日はまだ大丈夫かな?」
「はい、あと5食ありますよ!」
「おぉっ、よかった! 久しぶりのフェーレース、しかもカラアゲ定食の日に食べれないとなるとショックが大きいから、気を遣わせてしまうのを承知で着替えずに走ってきたんだよ!」
相変わらずのカラアゲへの情熱と人の良さに俺も常連さんもつい笑ってしまったが、次の瞬間、楽し気な雰囲気が一気に凍り付いた。
「なんだぁ!? コスタスさんが贔屓にしてる店だっつーからついてきたのに、こんなショボい食堂なんっすか?」
そんな暴言を吐きながら、白銀の鎧を纏った男がもう1人入店してきた。
「イヴァーリ、失礼だぞ! 店の規模は小なれど、貴族街の名店にも負けない料理を出してる店なんだぞ」
「えっと、お二人様分でよろしいでしょうか?」
以前の職場でも口が悪いお客様や酔って来店するお客様がいたし、あまり気にせずにいつもどおり接客する。
しかし慣れているのはあくまで俺だけで、静かになった客席にチラリと目をやると、食事中のお客様全員が不満気な顔をしていた。
コスタスさんが「後輩がすまんな、2人分お願いする」と銀貨を取り出そうとすると、イヴァーリと呼ばれた男がさらに火に油を注いだ。
「すんません、コスタスさん。こんなショボい店の料理なんて俺の口に合わないだろうから、俺は水だけでいいっすわ」
この言葉にガタイのいい職人風なお客様が乱暴に立ち上がったけど、お連れ様から「やめとけ、アイツ貴族だよ。前にも他の店で騒ぎを起こしたのを見たことあるぜ」と止められていた。
「イヴァーリ、失礼だぞ!! ーージョージ殿、大変申し訳ないのだが1人は水だけでもいいだろうか? もし迷惑な様ならまた今度立ち寄らせてもらうが……」
気を遣ってくれるコスタスさんだけど、かなり焦った顔をしていた。
やっぱり久しぶりのカラアゲは諦めきれないんだろう。
「お気になさらないでください。では定食はコスタスさんの分だけで、お連れ様にはお水をお出ししますね」
「すまない、助かる」
少しホッとしながらも、申し訳なさそうなコスタスさん。
お連れ様の態度はよろしくないけど、コスタスさんには罪がないから気にしなくていいのにな。
「日替わり定食1つお願いします!」
オーダー用の木札をキッチンに流しに行くと、案の定というか何というかスタッフ全員が不満そうな顔をしていた。口にこそ出してないものの、全員の目が「フェーレースはショボい店じゃない!」と語っている。
「みんな、気持ちはわかるけど笑顔でな!」
「「「はぁ~い……」」」
あんなに忙しくて疲れ果てていたカヌウ丼販売の特別営業の時だって、こんな不満気な声を出さなかった。相当頭に来てるんだろう。
スタッフ達を気に掛けながらレジに戻ると、食器を返却したお客様が退店しようとしていた。
こちらも不満気な顔をしていて、よく見ると立ち上がって文句を言おうとしていた職人風のお客様だった。
いそいそと出ていく彼らに「ありがとうございます」と挨拶をすると、まだ少し怒気のある顔で「どうもあれはタチが悪い方の貴族らしい。気をつけろよ」と真剣な目で注意してくれた。
注意喚起の言葉をありがたく思いながらも、俺はついつい別のことを考えてしまう。
(店の評判を落とすための悪口じゃなくて、身分の違いからただ純粋に「ショボい店」だって思ってるみたいだし、そういうのはスキルで弾かれたりしないんだな。勉強になった)
スキルの抜け穴を1つ見つけたところで、キッチンから料理が上がりそうな気配が漂ってきた。
お昼にレジに立っていると、白銀の鎧を身に纏った人物が少し息を切らせながら入店してきた。
「コスタスさん! いらっしゃいませ、任務お疲れ様でした!」
「久しぶりだな! 早速だが今日はまだ大丈夫かな?」
「はい、あと5食ありますよ!」
「おぉっ、よかった! 久しぶりのフェーレース、しかもカラアゲ定食の日に食べれないとなるとショックが大きいから、気を遣わせてしまうのを承知で着替えずに走ってきたんだよ!」
相変わらずのカラアゲへの情熱と人の良さに俺も常連さんもつい笑ってしまったが、次の瞬間、楽し気な雰囲気が一気に凍り付いた。
「なんだぁ!? コスタスさんが贔屓にしてる店だっつーからついてきたのに、こんなショボい食堂なんっすか?」
そんな暴言を吐きながら、白銀の鎧を纏った男がもう1人入店してきた。
「イヴァーリ、失礼だぞ! 店の規模は小なれど、貴族街の名店にも負けない料理を出してる店なんだぞ」
「えっと、お二人様分でよろしいでしょうか?」
以前の職場でも口が悪いお客様や酔って来店するお客様がいたし、あまり気にせずにいつもどおり接客する。
しかし慣れているのはあくまで俺だけで、静かになった客席にチラリと目をやると、食事中のお客様全員が不満気な顔をしていた。
コスタスさんが「後輩がすまんな、2人分お願いする」と銀貨を取り出そうとすると、イヴァーリと呼ばれた男がさらに火に油を注いだ。
「すんません、コスタスさん。こんなショボい店の料理なんて俺の口に合わないだろうから、俺は水だけでいいっすわ」
この言葉にガタイのいい職人風なお客様が乱暴に立ち上がったけど、お連れ様から「やめとけ、アイツ貴族だよ。前にも他の店で騒ぎを起こしたのを見たことあるぜ」と止められていた。
「イヴァーリ、失礼だぞ!! ーージョージ殿、大変申し訳ないのだが1人は水だけでもいいだろうか? もし迷惑な様ならまた今度立ち寄らせてもらうが……」
気を遣ってくれるコスタスさんだけど、かなり焦った顔をしていた。
やっぱり久しぶりのカラアゲは諦めきれないんだろう。
「お気になさらないでください。では定食はコスタスさんの分だけで、お連れ様にはお水をお出ししますね」
「すまない、助かる」
少しホッとしながらも、申し訳なさそうなコスタスさん。
お連れ様の態度はよろしくないけど、コスタスさんには罪がないから気にしなくていいのにな。
「日替わり定食1つお願いします!」
オーダー用の木札をキッチンに流しに行くと、案の定というか何というかスタッフ全員が不満そうな顔をしていた。口にこそ出してないものの、全員の目が「フェーレースはショボい店じゃない!」と語っている。
「みんな、気持ちはわかるけど笑顔でな!」
「「「はぁ~い……」」」
あんなに忙しくて疲れ果てていたカヌウ丼販売の特別営業の時だって、こんな不満気な声を出さなかった。相当頭に来てるんだろう。
スタッフ達を気に掛けながらレジに戻ると、食器を返却したお客様が退店しようとしていた。
こちらも不満気な顔をしていて、よく見ると立ち上がって文句を言おうとしていた職人風のお客様だった。
いそいそと出ていく彼らに「ありがとうございます」と挨拶をすると、まだ少し怒気のある顔で「どうもあれはタチが悪い方の貴族らしい。気をつけろよ」と真剣な目で注意してくれた。
注意喚起の言葉をありがたく思いながらも、俺はついつい別のことを考えてしまう。
(店の評判を落とすための悪口じゃなくて、身分の違いからただ純粋に「ショボい店」だって思ってるみたいだし、そういうのはスキルで弾かれたりしないんだな。勉強になった)
スキルの抜け穴を1つ見つけたところで、キッチンから料理が上がりそうな気配が漂ってきた。
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