異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木

文字の大きさ
上 下
83 / 96
第4章 いろいろ巻き込まれていく流れ

83話 教会からの依頼 ー イルーノ様の苦悩 ー

しおりを挟む
「久しぶりですな。急な申し出にも関わらず快諾していただき、誠に感謝している」

 快諾なんてしてないけどね!
イルーノ様と話すことになるだなんて思ってなかったんだからね!

「そ、それで、わわ私なんかにどのようなご用件でひょうか?」

 噛んだ。

「実はですな、ジョージ様に折り入ってご相談がありまして」

 よかった、噛んだことはスルーしてくれた。

「相談?」

 はい、と頷いたイルーノ様が今まで以上に真剣な顔になる。

「今から話すことは内密にしていただきたい」

 イルーノ様がこんなに真剣に話そうとすることだ。絶対ヤバい内容に違いない。
言えと言われても言えるもんか。っていうかそもそも聞きたくないんだけど、そういうわけにもいかないだろうな。

「わかりました。絶対に他言しません」

「ありがたい。相談というのは、シジル様のことなのだ」

「シジル様に何かあったのですか?」

「礼拝の時間や高位の治療魔法が必要な時以外、自室にこもっておられるのだ」

 自室にこもっている?
もしや、高位の治療魔法でも治せないような病気とかケガとか……?

「だ、大丈夫なのですか?」

「シジル様は私達にこう仰った」

 ゴクリ……

「カヌウ丼が食べたい、と」

 応接室に何とも言えない空気が流れた。

 えっと、いや、まさか、そんな、ねぇ?

 これこそ聞き間違いだよね?

「すみません、耳の調子が悪いようで……。カヌウ丼が食べたいとか聞こえちゃったんですよ」

「ふむ、耳の調子が悪いのか。ならば……ヒール!」

 イルーノ様の指が一瞬だけ白く光って、何とも言えない温かい感覚が俺の耳を包んだ。

「これで耳に問題はないはずだ。もう一度言おう、シジル様が『カヌウ丼を食べたい!』と言い出したのだ」

「聞き間違いじゃねーのかよ! ……あっ、申し訳ございません! 失礼なことを!」

 思わずツッコんでしまったけど、目の前にいるのが助祭様だということを思い出しすぐに謝罪する。
でも、おそらく回復魔法であろうヒールの無駄遣いするなよな!

「いや、よいのだ。誰もが耳を疑う発言であろうからな」

 はい、疑いました。

「ど、どうしてシジル様がカヌウ丼のことを?」

 当然だが、特別営業の日にシジル様やイルーノ様はお店に来ていない。

「ボランティアで教会の掃除に来てくれている信者がジョージ様の店に行ったらしくてな。彼らが話していたのを小耳にはさんで、食べたくなったのだと」

 そこまで言ってイルーノ様は大きなため息をついた。

「普段は荘厳なシジル様なのだが、意外に好奇心旺盛な方でな。美味なる食事を好んでいることもあり、ジョージ様の店で出しているカヌウ丼の話を聞いて居ても立っても居られなくなったそうだ」

「へっ?」

「先に言ったが他言無用で頼むぞ? シジル様と教会のイメージが下がってしまうからな」

「もっ、もちろんです」

 ぎろりと睨まれて委縮してしまうが、シジル様にそんな面があったとは驚きだ。
1回しか会ったことないけど、神々しいながらも人当たりの良い人だとしか思ってなかったからなぁ。

「シジル様は気軽に外出ができない身でありながら、話を聞くや否や教会を飛び出そうとしたのだ」

「え~……」

 御年60だと聞いているが、年齢を感じさせないほどに美しい人だからそのギャップに少し引いてしまう。

「なんとかシスター達が阻止し私が諫めたのだが、すると次は不貞腐れてしまい、重要な職務の時以外は自室に引きこもってしまわれた」

「子どもかよ! あっ、すみません」

「いや、構わん。教会中の誰もが同じことを叫んだ」

 でしょうね。
イルーノ様、なんていうか、その、お疲れ様です。

「そこでジョージ様に相談なのだが、迷惑であろうが人目がない時間にシジル様を店に招いてはくれないだろうか? もちろんお忍びで、少数精鋭の護衛をこちらから出すので」

 スッと頭を下げるイルーノ様。
よほどシジル様のお世話に手を焼いているのだろう。

「イルーノ様、頭をお上げください」

「どうかシジル様を招いてほしいのだ」

「あの、大変申し上げにくいのですが……」

「……やはりダメなのか?」

「いえ、お忍びで来ていただけるなら構わないんですけど……」

「何だ? 何か問題があるのか?」

 次の俺の言葉に、イルーノ様の顔が絶望に染まった。

「カヌウ丼の販売、6月末で終わっちゃったんです」
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

社畜生活の果て、最後に師匠に会いたいと願った。

黒鴉宙ニ
ファンタジー
仕事、仕事、仕事。果てのない仕事に追われる魔法使いのモニカ。栗色の艶のあった髪は手入れができずにしなびたまま。師匠は北東のダンジョンへ行っており、その親友であるリカルドさんが上司となり魔物討伐を行う魔法部隊で働いている。 優しかったリカルドさんは冷たくなり、同僚たちとは仲良くなれない。そんな中、ようやく師匠帰還のめどがついた。そして最後に師匠へ良い知らせを送ろうと水竜の討伐へと向かった──。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...