異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木

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第3章 いわゆるアナザーストーリーってやつ

72話 とある少年の心境変化②

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 店主さんは立派な様子で対応してたけど、気になるけどなかなか話の決着がつかなそうだったから帰ろうとしてた。

 でもその時、店主さんがこんなことを言い出したんだ。

「もちろん不当に皆さまを嘘つき呼ばわりするつもりはありません。実は私には珍しいスキルがありまして、皆さまが本当のことを言っているかどうか、確実に確かめることができるのです」

 この言葉に全員がザワついた。

 僕も思ったけど、一緒に見てた野次馬の人達も口々に「どうやって確かめるんだ?」っておもしろがってた。

「こちらにお残りの方は、あくまで昨日のお昼に当店で食事をし、しかも全員が生の状態のお肉を食されたという主張で間違いありませんね?」

「「「そうだ!」」」

 お金をもらうのに必死な人は、店主さんの言葉を疑問に思わなかったみたい。
っていうか、看板にお昼は1日30食って書いてるのに、そこには50人ぐらいいたんだよね。
最低でも嘘つきが20人ぐらいはいるんだって思ったら、同じ王都の人間として恥ずかしくなった。

「私には【防犯の心得】というスキルがあり、悪意を持った人はこのお店に入れないようになっているんですよ。世にも珍しいスキルですが本当のことです」

 僕があれこれ考えているうちに、店主さんは自分のスキルをバラすことで嘘をついている人達を追い詰めた。
ほとんどの人の顔が目に見えて真っ青になっていた。

 そしてここで衝撃の出来事が起きた!
店主さんが僕のことを見て、手招きして言ったんだ!!

「ちょっとした実験に付き合ってくれませんか? もちろん身の危険はありませんし、実験に付き合ってくれたお礼として、本日のお昼を無料でご馳走させていただきますよ?」

 普段の僕は目立つことが好きじゃない。
工房の仕事でだって、端の方で言われたことを黙々とやってるだけだ。

 だからこそ、何をするか知らないけど大勢の人の前に立ちたくはなかった。

 いつもの僕なら。

 でも、今日は違う!

 騒ぎを説明してくれたおじさんが褒めちぎり、あんなに並ぶ人がいる美味しい料理を、無料でご馳走してくれるって言うんだから!!

「何をすればいいんですか?」

「まずは何も考えず、普通に食事に来たぐらいの感じでお店に入ってくれませんか?」

「わかりました」

 何の意味があるかわからなかったけど、言われるがままにお店の扉を開けて中に入った。
当たり前だけど普通にお店に入れたし、何がしたかったんだろう?

 店主さんから手招きされたから、一度外に出てまた説明を受けた。

「では次です。普段絶対に考えないでしょうけど『お店のお金を盗んじゃおう!』って思いながらお店に入ってくれませんか?」

「ううん、難しいなぁ。でもやってみるよ!」

 さっきチラッと受付が見えたから、「お金を盗む、お金を盗む」って呟きながら無理矢理想像したよ。

 なんとなく想像できたから店のドアに手をかけた。

 もちろんドアは普通に開いたから、「何だ、なんにもないじゃん!」って思いながら店の中に入ろうとしたんだけど……。

――ドンッ!

 何か固いものにぶつかって中に入れなかった!
グイグイと体を押し付けてみたけど、目には見えない何かにジャマされてまったく中に入ることができなかったんだ!!

 僕は興奮して叫んじゃった。

「何だこれ!? さっきは普通に入れたのに、今は透明な壁があるみたいで中に入れない! 弾かれるんだ!」

 これが店主さんが言ってたスキルの効果なんだ!

 興奮して店主さんを見ると満足そうに笑ってたし、お金をだまし取ろうとしてた人達は気の毒なぐらいに真っ青になってた。

「実験に付き合ってくれてありがとうございます。もう少ししたら騒ぎが収まると思うから、お店の中で待っててもらっていいですか? 約束どおり、お昼をご馳走しますので」

「やったぁ!」

 どうやら美味しいらしいこのお店の料理がタダで食べれるなんて!!

 けど、僕には解決しないといけない問題がある。

「あっ、でも、どうやって中に入ればいいんですか?」

「実験が終わったからお金を盗むっていうイメージはもうないでしょう? でしたら普通に入れますよ」

 店主さんはニッコリと優し気に微笑んだ。

 もちろんお金を盗むなんて気持ちはまったくないから、僕は深く頷きながら店のドアを開けて、おそるおそるお店の中に足を踏み出した。

 そしたら、さっきの透明の壁がなくなってて普通にお店に入れたんだ!

「すげー! さっきは絶対入れなかったのに!!」

 お店に入ると、外の様子を見ていたらしい従業員さんが席に案内してくれた。

「店長との話は聞いてました。お代はいりませんので、この木の札を持って少々お待ちください」

「はい」

 渡されたのは番号が書かれた木の札だった。

「番号が呼ばれたら、あちらの受け取り口にその札を持っていってください。札と引き換えに料理が受け取れますので、その時にご飯を大盛りにするか普通盛りにするか、少なめにするか、スタッフにお伝えください」

「わかりました!」

 変わったやり方だなぁなんて考えていると、外から店主さんの声が少しだけ聞こえてくる。

「では次は皆さんの番ですね。先ほど確認した時に全員が『自分はここで食事をして体調が悪くなった』と言っていましたので、本当のことを言っている人はお店の中に入れるはずです。1人ずつお店に入っていただきましょうか。警備隊の皆さん、お手数ですがお願いします」

(外にいる人達、たぶん入ってこれないんだろうなぁ)

 それから何十人もの人がお店に入ろうと頑張ってたけど、お店の前で文句を言ってた人は結局全員入ることができなかった。

 でも、そんなことは正直どうでもよくなっていた。

 途中するりと中に入ってきた店主さんが

「皆さま、大変お待たせしました! 外の騒ぎはもう収まりそうですので、順番に料理を提供させていただきます!」

と挨拶すると同時に、客席から歓声が爆発した。

「よかった、これで飯が食える!」
「今日は営業できないとか言われたらどうしようかと思ってたわ!」
「やっぱここの飯じゃないとな!」

 全員が安心した顔で喜びの言葉を口々に漏らしていた。

 僕?

 僕だってどんな料理が出てくるか楽しみだったさ!
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