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第3章 いわゆるアナザーストーリーってやつ
71話 とある少年の心境変化①
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あの日僕は親方から冒険者ギルドへのお遣いを頼まれていた。
「ゴティア! ちと冒険者ギルドに納品に行ってきてくれ!」
「わかりました!」
騒がしい工房内だから、ちょっとした会話でも常に大声じゃないと聞こえない。
元々のんびりするのが好きな僕には、そういうのが少し苦手だった。
「時間も時間じゃし、納品が終わったらそのまま飯でも食ってこい!」
「ありがとうございます!」
「あぁん? わかったのか!?」
「わかりました!! ありがとうございます!!」
大声で返事をして、納品物を抱えて工房を出た。
無事に納品が終わって、「1回家に帰るか、それとも安い飯屋で休憩にするか」なんてことを考えてたら、少し遠くの方からガヤガヤと大勢の人の声が聞こえた。
(なんか騒がしいなぁ)
気になって声の聞こえる方へふらふらと歩いていくと、宿屋や飲食店が並ぶ区域のとある店の前に人だかりができていた。
( "フェーレース" って店か)
人だかりの隙間から見えた店名の看板と、壁に掛けられたメニューの看板から、どうやら定食屋であることが何となくわかった。
「この店の料理のせいで腹が痛くなったのに、どうして店に入れないんだよ!」
「腹が痛くて教会に行くから、治療費くれよ!」
「知り合いの嘔吐が止まらないんだぞ! どうしてくれるんだ!」
お世辞にも人相が良いとは言えない男の人達が、フェーレースって店に口々に怒鳴りまくっていた。
「あのぉ、何かあったんですか?」
名前は知らないけど工業区で見たことあるおじさんがいたから聞いてみた。
「あぁ、何でも昨日の夜に生焼けか生煮えの肉を出しちまったんだってさ」
「え? それだけで?」
いや、生の肉が危険だってことぐらい僕も知ってるけど、飲食店ではたまにあることだ。
お店の人がしっかり謝って、その時の料理代を返したらそれで終わりなのに、どうしてこんなに大騒ぎになってるんだろう?
僕が考えていたことがわかったのか、おじさんはもう少し詳しく説明してくれた。
「普通はこんな大騒ぎにはならねぇんだけどよ、何でもこの店の店主が『他にも気づかずに生の肉を食べた人がいるかもしれない!』って言って、昨日のこの店で飯を食った人全員に返金するって言い出したんだと」
「えっ、全員に!? そんなの黙ってればわからないじゃないですか!」
「坊主もそう思うよな? 俺も店主が何を考えてんのかわかんねぇけど、その親切心に漬け込もうとしてるのがこのバカどもだよ」
つまり、食事をしてもいないのにお金をもらおうって人が集まってるってこと?
(もちろん悪いことだけど……)
嘘をついてお金をもらおうとするのが悪いことだってのは僕でもわかってる。
でも、昨日誰が来たかなんて1人1人しっかり覚えてるわけもないし、嘘をついてるかどうかなんてわかりっこないよね?
「あ~ぁ、いつこの騒ぎが収まるかわかんねーし、これじゃあ今日ばっかりは別の店で済ませるしかねぇか」
「おじさんはこのお店に来たことがあるんですか?」
心の底から残念そうな顔をしていたのが気になって、思わず聞いちゃった。
するとおじさんはニカッと笑って、大きく頷いた。
「おうっ、俺はこの店の常連だぜ! くっそぅ、今日はカヌウの焼肉の日だってのによぉ……」
「カヌウ? カヌウの肉なんて筋は多いし臭いし、マズいだけじゃないですか」
うちもそんなに裕福な家じゃないけど、それでも母ちゃんが肉料理を作ってくれる時はゲルピの肉ぐらいは使ってくれる。
「なんだ、坊主はこの店で飯食ったことねぇのか? 」
「ないです。さっき看板見たけど、ちょっと高いし……」
稼いだお金は全部母ちゃんに渡してるし、僕の小遣いじゃとてもじゃないけど来れないよ。
「そっかそっか。確かに子どもにゃぁ高いだろうけどな、銀貨1枚でも安いって思えるぐらい飯はうめぇから、いつか財布に余裕が出たら行ってみな!」
それだけ言い残しておじさんはどこかに歩いていった。
(カヌウの肉がおいしい? 銀貨1枚でも安いって思える?)
普通なら「そんなバカな!」って笑い飛ばすんだけど、周りからこんな声が聞こえてきてたんだ。
「うるせぇぞテメェら! ホントにここの料理食べたのかよ!」
「並んでるんだから割り込んでくるなよ!」
「俺達は飯が食いたいだけなんだよ! 騒ぐなら他の所でやれよ!」
その人達の表情は、ホントに「この店でご飯が食べたい!」っていう真剣な顔だった。
カヌウとかボアとかランバードとかの安い肉の料理しか出してないみたいなのに、並んでまで食べたい人がこんなにもいるだなんて。
「まずは皆さまに謝罪をさせていただきます。昨日の営業にて……」
少しして店の中から出てきた店主さんは、大勢の人から怒られているのにそれでも堂々と対応していた。
なんだかその様子がすごく立派に見えた。
「ゴティア! ちと冒険者ギルドに納品に行ってきてくれ!」
「わかりました!」
騒がしい工房内だから、ちょっとした会話でも常に大声じゃないと聞こえない。
元々のんびりするのが好きな僕には、そういうのが少し苦手だった。
「時間も時間じゃし、納品が終わったらそのまま飯でも食ってこい!」
「ありがとうございます!」
「あぁん? わかったのか!?」
「わかりました!! ありがとうございます!!」
大声で返事をして、納品物を抱えて工房を出た。
無事に納品が終わって、「1回家に帰るか、それとも安い飯屋で休憩にするか」なんてことを考えてたら、少し遠くの方からガヤガヤと大勢の人の声が聞こえた。
(なんか騒がしいなぁ)
気になって声の聞こえる方へふらふらと歩いていくと、宿屋や飲食店が並ぶ区域のとある店の前に人だかりができていた。
( "フェーレース" って店か)
人だかりの隙間から見えた店名の看板と、壁に掛けられたメニューの看板から、どうやら定食屋であることが何となくわかった。
「この店の料理のせいで腹が痛くなったのに、どうして店に入れないんだよ!」
「腹が痛くて教会に行くから、治療費くれよ!」
「知り合いの嘔吐が止まらないんだぞ! どうしてくれるんだ!」
お世辞にも人相が良いとは言えない男の人達が、フェーレースって店に口々に怒鳴りまくっていた。
「あのぉ、何かあったんですか?」
名前は知らないけど工業区で見たことあるおじさんがいたから聞いてみた。
「あぁ、何でも昨日の夜に生焼けか生煮えの肉を出しちまったんだってさ」
「え? それだけで?」
いや、生の肉が危険だってことぐらい僕も知ってるけど、飲食店ではたまにあることだ。
お店の人がしっかり謝って、その時の料理代を返したらそれで終わりなのに、どうしてこんなに大騒ぎになってるんだろう?
僕が考えていたことがわかったのか、おじさんはもう少し詳しく説明してくれた。
「普通はこんな大騒ぎにはならねぇんだけどよ、何でもこの店の店主が『他にも気づかずに生の肉を食べた人がいるかもしれない!』って言って、昨日のこの店で飯を食った人全員に返金するって言い出したんだと」
「えっ、全員に!? そんなの黙ってればわからないじゃないですか!」
「坊主もそう思うよな? 俺も店主が何を考えてんのかわかんねぇけど、その親切心に漬け込もうとしてるのがこのバカどもだよ」
つまり、食事をしてもいないのにお金をもらおうって人が集まってるってこと?
(もちろん悪いことだけど……)
嘘をついてお金をもらおうとするのが悪いことだってのは僕でもわかってる。
でも、昨日誰が来たかなんて1人1人しっかり覚えてるわけもないし、嘘をついてるかどうかなんてわかりっこないよね?
「あ~ぁ、いつこの騒ぎが収まるかわかんねーし、これじゃあ今日ばっかりは別の店で済ませるしかねぇか」
「おじさんはこのお店に来たことがあるんですか?」
心の底から残念そうな顔をしていたのが気になって、思わず聞いちゃった。
するとおじさんはニカッと笑って、大きく頷いた。
「おうっ、俺はこの店の常連だぜ! くっそぅ、今日はカヌウの焼肉の日だってのによぉ……」
「カヌウ? カヌウの肉なんて筋は多いし臭いし、マズいだけじゃないですか」
うちもそんなに裕福な家じゃないけど、それでも母ちゃんが肉料理を作ってくれる時はゲルピの肉ぐらいは使ってくれる。
「なんだ、坊主はこの店で飯食ったことねぇのか? 」
「ないです。さっき看板見たけど、ちょっと高いし……」
稼いだお金は全部母ちゃんに渡してるし、僕の小遣いじゃとてもじゃないけど来れないよ。
「そっかそっか。確かに子どもにゃぁ高いだろうけどな、銀貨1枚でも安いって思えるぐらい飯はうめぇから、いつか財布に余裕が出たら行ってみな!」
それだけ言い残しておじさんはどこかに歩いていった。
(カヌウの肉がおいしい? 銀貨1枚でも安いって思える?)
普通なら「そんなバカな!」って笑い飛ばすんだけど、周りからこんな声が聞こえてきてたんだ。
「うるせぇぞテメェら! ホントにここの料理食べたのかよ!」
「並んでるんだから割り込んでくるなよ!」
「俺達は飯が食いたいだけなんだよ! 騒ぐなら他の所でやれよ!」
その人達の表情は、ホントに「この店でご飯が食べたい!」っていう真剣な顔だった。
カヌウとかボアとかランバードとかの安い肉の料理しか出してないみたいなのに、並んでまで食べたい人がこんなにもいるだなんて。
「まずは皆さまに謝罪をさせていただきます。昨日の営業にて……」
少しして店の中から出てきた店主さんは、大勢の人から怒られているのにそれでも堂々と対応していた。
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