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第3章 いわゆるアナザーストーリーってやつ
64話 とあるギルドマスターの苦悩①
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「マスター、例の件ですが……」
「わかってるよ、セルバイ。だけどいざとなったら気が引けちまうんだよ」
「お気持ちお察しします」
はぁぁ……ホントに気が引けるねぇ。
今あたいの目の前には素材買い取りの報告書が山積みになっている。
上手く売り捌けばギルドの財政が潤うんだから、普段は溜め息なんかつきやしないさ。
けどねぇ……。
「これが全部カヌウの肉の買い取り報告ってんだからねぇ……」
カヌウはそんなに強くない魔物だから、人間からも他の魔物からも狩られちまう、ちと可哀想な魔物。
駆け出しの冒険者でも、武器を持った者が2人いればまず負けることはないさね。
そんだけ弱い存在だからこそ、異常なまでの繁殖力で数を増やして、種を絶滅させないようにしてるんだろうさ。
適度に間引くために冒険者ギルドでは常設の依頼になってるし、駆け出しの冒険者が数をこなして小遣いを得る、そんな扱い。
財布や力に余裕が出てきた冒険者はまずやらなくなるし、肉だって独特のクセがあるから野営する時だって好んで狩ったりはしない。
味の好みは人それぞれだけど、世間一般的な評価で言えば「肉を食べたい貧乏人でも仕方なく買う肉」といったもんだね。
あたい達は魔物の討伐依頼や素材の売買で生計を立ててるからあんまり悪く言いたかないけど、評判や売れ行きが良くない素材はある程度買い取り額を調整しなきゃならないし、依頼自体も減らすようにしてる。
「諦めるのが早すぎるさね……」
一時期カヌウの肉の売り上げが爆上がりした時期がある。
原因はジョージの店で出される料理だった。
水曜日に出されるステーキ丼、土曜日に出される焼肉、そのどちらも、いや、あの店のすべての料理が人々を魅了しちまった。
いんにゃ、魅了されたのは客だけじゃなかった。
いろんな料理屋が「カヌウみたいな安い肉で美味いものを作れたら儲かる!」って考えて、こぞってカヌウやランバードやボアの肉を購入することになった。
確かにカヌウやランバードやボアの肉で美味しい料理を作れれば、そりゃあ利益は上がるだろうさね。
けどね、彼らの誤算はジョージの料理のレベルの高さを知らずに手を出しちまったことさ。
「あんなに美味い料理、おいそれと作れるとは思いませんが」
肉の在庫が次から次にハケて嬉しいはずのセルバイも、さすがに苦笑いしてたよ。
今までさほど売れてなかった肉が売れるもんだから、駆け出しの冒険者のためカヌウ、ランバード、ボアの肉の買い取り価格をちと増やしてやったのさ。
そしたら今まで以上に張り切って狩ってくるもんだから、また在庫が増える。
でもそれもすぐに売れる。
そんな理想的なサイクルができあがってきたところだったのにさ。
ちょいと前から、目に見えてギルド内の販売所での売り上げが落ちた。
ギルド内の販売所でこれだから、商店や商会に卸した分もほとんど売れ残ってることだろうね。
理由は何となくわかってたし、すぐに判明したよ。
「多くの料理店が美味いカヌウ料理を作るのを諦めたようです」
販売・買取の責任者であるセルバイが、予想と違わぬ結果を報告してきた時には、ついつい乾いた笑いが出ちまったよ。
「わかってるよ、セルバイ。だけどいざとなったら気が引けちまうんだよ」
「お気持ちお察しします」
はぁぁ……ホントに気が引けるねぇ。
今あたいの目の前には素材買い取りの報告書が山積みになっている。
上手く売り捌けばギルドの財政が潤うんだから、普段は溜め息なんかつきやしないさ。
けどねぇ……。
「これが全部カヌウの肉の買い取り報告ってんだからねぇ……」
カヌウはそんなに強くない魔物だから、人間からも他の魔物からも狩られちまう、ちと可哀想な魔物。
駆け出しの冒険者でも、武器を持った者が2人いればまず負けることはないさね。
そんだけ弱い存在だからこそ、異常なまでの繁殖力で数を増やして、種を絶滅させないようにしてるんだろうさ。
適度に間引くために冒険者ギルドでは常設の依頼になってるし、駆け出しの冒険者が数をこなして小遣いを得る、そんな扱い。
財布や力に余裕が出てきた冒険者はまずやらなくなるし、肉だって独特のクセがあるから野営する時だって好んで狩ったりはしない。
味の好みは人それぞれだけど、世間一般的な評価で言えば「肉を食べたい貧乏人でも仕方なく買う肉」といったもんだね。
あたい達は魔物の討伐依頼や素材の売買で生計を立ててるからあんまり悪く言いたかないけど、評判や売れ行きが良くない素材はある程度買い取り額を調整しなきゃならないし、依頼自体も減らすようにしてる。
「諦めるのが早すぎるさね……」
一時期カヌウの肉の売り上げが爆上がりした時期がある。
原因はジョージの店で出される料理だった。
水曜日に出されるステーキ丼、土曜日に出される焼肉、そのどちらも、いや、あの店のすべての料理が人々を魅了しちまった。
いんにゃ、魅了されたのは客だけじゃなかった。
いろんな料理屋が「カヌウみたいな安い肉で美味いものを作れたら儲かる!」って考えて、こぞってカヌウやランバードやボアの肉を購入することになった。
確かにカヌウやランバードやボアの肉で美味しい料理を作れれば、そりゃあ利益は上がるだろうさね。
けどね、彼らの誤算はジョージの料理のレベルの高さを知らずに手を出しちまったことさ。
「あんなに美味い料理、おいそれと作れるとは思いませんが」
肉の在庫が次から次にハケて嬉しいはずのセルバイも、さすがに苦笑いしてたよ。
今までさほど売れてなかった肉が売れるもんだから、駆け出しの冒険者のためカヌウ、ランバード、ボアの肉の買い取り価格をちと増やしてやったのさ。
そしたら今まで以上に張り切って狩ってくるもんだから、また在庫が増える。
でもそれもすぐに売れる。
そんな理想的なサイクルができあがってきたところだったのにさ。
ちょいと前から、目に見えてギルド内の販売所での売り上げが落ちた。
ギルド内の販売所でこれだから、商店や商会に卸した分もほとんど売れ残ってることだろうね。
理由は何となくわかってたし、すぐに判明したよ。
「多くの料理店が美味いカヌウ料理を作るのを諦めたようです」
販売・買取の責任者であるセルバイが、予想と違わぬ結果を報告してきた時には、ついつい乾いた笑いが出ちまったよ。
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