異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木

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第2章 そして2章ぐらいで段々問題が起きるんだ

58話 幸せな日常

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 6月1日月曜日の開店直後のこと。

 月曜日は全員出勤で人手に余裕があるので、仕込みなどの準備が終わったことを確認し、控え室で売上帳簿をまとめていた。

 すると、店の最奥にある控え室まで聞こえてくるほど大きな声が響いてきた。

「どうした!? 何かあったのか!?」

 大慌てで控え室を飛び出すと、料理の受け渡し口から大勢のお客様の姿が見えた。

 声をあげているほとんどが男性のお客様で、歓声の内容をダイレクトに聞くことで安心できた。

「キャトンちゃんがいるぞ!」
「ホントだ!」
「もう大丈夫なのか?」
「無理するなよ!?」
「寂しかったぞ!」
「お帰りキャトンちゃん!」

 どうやら最初に入店したお客様が久々に出勤しているキャトンの姿を見つけ、感極まって声を上げてしまったらしい。

 続いて並んでいたお客様もそれぞれにキャトンの復帰に興奮し、ちょっとした騒ぎになってしまったみたいだ。

「おいおい、気持ちはわかるけど順番に受け付けしてほしいんだぜ!」

「お客様! 1列にお並びください!!」

「ちゃんと並ぶ……」

「皆さん、ありがとうございます!」

「よかったね、キャトンちゃん!」

 お客様のお祝いの言葉に涙しているキャトンをミーニャがなだめ、ニャジー・ライオ・ジャック姉弟が必死でお客様を並べようとしている。

 その光景に少しウルッときたんだけど、このままでは営業がままならないし俺も働かねば!

「皆さま! おかげ様で今日からキャトンが仕事に復帰します! 皆さまのご厚意は店主としても誠にありがたい限りですが、このまま仕事が進まないとキャトンがまた疲弊してしまいますので、どうかいつもどおりに受け付けをされてください!」

「おおっとぉ、確かにそうだ!」
「おめーら! キャトンちゃんに迷惑かけるんじゃねーぞ!」
「ニャジーちゃんの指示に従え!」
「迷惑かけたな、ライオ!」
「ニャジーちゃんの弟? ジャックっていうのか、よろしくな!」

 お客様は何とか落ち着きを取り戻し、スタッフ達に声をかけながらいそいそと並び直してくれた。

「みんな大変だったな! 今日は俺もレジを手伝うから、各自持ち場に戻って頑張ってくれ!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 今日は各自が得意とする、フェーレースがオープンした時のポジションとなっている。

「たぶん20人ぐらい、今までで1番の朝イチの行列だぞ! みんな、頑張るぞ!」

「「「「おぅ!」」」」

 デシャップに立つムードメーカー、ライオの鼓舞に全員が呼応する。

「店長さん、さっきはすまなかったな!」
「いえ、うちのスタッフをそこまで想ってくれているのがわかって嬉しかったですよ!」

「キャトンちゃん、ホントに具合は大丈夫なのかい?」
「はい! おかげさまですっかり良くなりました!」

「店長もキャトンちゃんが戻ってきて一安心だろう?」
「もちろんですとも! なんてったって看板娘ですからね」

 受け付けをするお客様がみな口々にキャトンの復帰を祝ってくれて、ついでに俺なんかにも話しかけてくれる。

 キッチンへ流される食札のスピードにスタッフ達は驚きながらも、どこか忙しさを楽しんでいるように見えた。

(あぁ、何だか夢が叶ってしまった気分だなぁ……)

 日数で言えば営業を始めてまだ2ヶ月も経ってない、日替わり定食しかない、異世界でしかも猫人族だらけのイレギュラーな店。

 それでも、ブラック企業で働きながら心と体を擦り減らす毎日の中で、ひっそりと夢見た光景がいま目の前に広がっている。

「ガッハッハ! キャトンの復帰が泣くほど嬉しいのか、ジョージ!」

「メ、メイクさん! いらっしゃいませ」

 ほんの刹那、惚けてしまっていたんだろう。
頬に一筋の涙を走らせる俺の肩を、メイクさんがいつものようにバンバンと叩く。

「だがまだ仕事中だろう? まだまだお客さんが待っとるぞ、ガッハッハ!」

 最後にもう一度バンッと俺の肩をひと叩きし、メイクさんは空いている席へと歩いていった。

(皆さん、ホントにありがとうございます!)

 お客様とスタッフへ心の中でお礼を述べて、気合を入れ直して接客をするのであった。
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