56 / 96
第2章 そして2章ぐらいで段々問題が起きるんだ
56話 保険の話 -これまでとこれから-
しおりを挟む
教会に行った翌日、5月22日の月曜日のことだ。
「――という話をしてきたんだ」
あの日、細かいことまで打ち合わせをさせてもらい、『フェーレース専用保険』の内容を固めた。
・保険料として月に銀貨1枚を給料から引き、教会に納める。
・受診時や入院時には今まで払った保険料を支払いに充て、不足分を現金で支払う。
・仕事中のケガについては治療費を店が全額負担する。
・スタッフの退職時、使用しなかった保険料は教会から返金してもらえる。
やっぱり保険というよりは積立貯金みたいだな。
「仕事中のケガについては~」って条件については、労災補償をイメージ。
火を使うし包丁を使うから、飲食店って結構ケガが多いんだよね。
ちなみに労災についての説明をしている時も、なぜかシジル様とイルーノ様から温かい目で見られた。
「イメージ的には、何かあった時のために教会にお金を預けておくって感じかな。みんなはどうだろう?」
月曜日はローテーションでの休みがない曜日なので、入院中のキャトン以外は全員出勤している。
お昼休憩中に申し訳ないと思ったけど、いい機会だと思って話をさせてもらった。
「おいらはいいと思うぞ!」
こういう時に率先して意見を出してくれるのはやっぱりライオだ。
「ライオ、どういうところがいいと思った?」
「獣人族って身体が強いんだけどさ、それでも年に何回かは調子が悪い時があるんだ。でもお金持ちな獣人族ってそんなにいないからさ、みんな教会に行けなくて我慢するしかなかったんだ」
「ふむふむ」
「おいら達は店長からいっぱいお給金もらってるけどさ、そうじゃない人でもちょっとずつ教会に預けとけば、何かあった時に安心だって思ったんだ!」
ライオの話がひと段落つくと、姉のニャジーも「そうですね」と同意した。
「私達に畑の仕事を手伝わせてくれてたベルシさんって人の話なんですけど、隣町に野菜を運んでた時に魔物に襲われて腕をケガしちゃったんです。ケガ自体は大したことなかったんですけど、その魔物が毒を持っていて傷口がひどく化膿してしまったんです」
隣町に到着してすぐに教会に駆け込んだものの、完全に治療するにはお金が足らず、左腕を切断するしかなかったという。
「解毒薬は高額ですし、解毒の魔法も使い手が少なく高額なんだそうです。切断手術と止血の魔法だけなら何とかお金が足りそうだったから、ベルシさんはやむなく……」
保険という制度があればベルシさんは腕を切断せずに済んだかもしれないと、ニャジーは少し目を潤ませて話を終えた。
「ボクも年に1回は風邪ひいちゃう。でも教会の薬は高いから寝て治すしかなくて、良くなるのに時間がかかってしまう」
「私もです。寝てる時間が長ければ長いほどお仕事ができないから、余計に生活は苦しくなるんです」
ふぅむ、どうやら俺が想像していた以上に治療費の問題は根深いみたいだな。
ゲームの影響で薬草とか解毒薬とかって安いイメージがあったけど、現実はそうじゃないみたいだ。
話し合いの結果、全員が保険の制度には賛成してくれた。
うちは給料が高いというのもあり、金額についても月に銀貨1枚なら問題ないとのこと。
「月の途中だと中途半端だし、キャトンにも話をしないといけないから、保険料を引かせてもらうのは来月からってことでいいかな?」
「「「「はい!」」」」
こうして不完全ながらもこっちの世界では初となる『保険』という制度が誕生した。
「――という話をしてきたんだ」
あの日、細かいことまで打ち合わせをさせてもらい、『フェーレース専用保険』の内容を固めた。
・保険料として月に銀貨1枚を給料から引き、教会に納める。
・受診時や入院時には今まで払った保険料を支払いに充て、不足分を現金で支払う。
・仕事中のケガについては治療費を店が全額負担する。
・スタッフの退職時、使用しなかった保険料は教会から返金してもらえる。
やっぱり保険というよりは積立貯金みたいだな。
「仕事中のケガについては~」って条件については、労災補償をイメージ。
火を使うし包丁を使うから、飲食店って結構ケガが多いんだよね。
ちなみに労災についての説明をしている時も、なぜかシジル様とイルーノ様から温かい目で見られた。
「イメージ的には、何かあった時のために教会にお金を預けておくって感じかな。みんなはどうだろう?」
月曜日はローテーションでの休みがない曜日なので、入院中のキャトン以外は全員出勤している。
お昼休憩中に申し訳ないと思ったけど、いい機会だと思って話をさせてもらった。
「おいらはいいと思うぞ!」
こういう時に率先して意見を出してくれるのはやっぱりライオだ。
「ライオ、どういうところがいいと思った?」
「獣人族って身体が強いんだけどさ、それでも年に何回かは調子が悪い時があるんだ。でもお金持ちな獣人族ってそんなにいないからさ、みんな教会に行けなくて我慢するしかなかったんだ」
「ふむふむ」
「おいら達は店長からいっぱいお給金もらってるけどさ、そうじゃない人でもちょっとずつ教会に預けとけば、何かあった時に安心だって思ったんだ!」
ライオの話がひと段落つくと、姉のニャジーも「そうですね」と同意した。
「私達に畑の仕事を手伝わせてくれてたベルシさんって人の話なんですけど、隣町に野菜を運んでた時に魔物に襲われて腕をケガしちゃったんです。ケガ自体は大したことなかったんですけど、その魔物が毒を持っていて傷口がひどく化膿してしまったんです」
隣町に到着してすぐに教会に駆け込んだものの、完全に治療するにはお金が足らず、左腕を切断するしかなかったという。
「解毒薬は高額ですし、解毒の魔法も使い手が少なく高額なんだそうです。切断手術と止血の魔法だけなら何とかお金が足りそうだったから、ベルシさんはやむなく……」
保険という制度があればベルシさんは腕を切断せずに済んだかもしれないと、ニャジーは少し目を潤ませて話を終えた。
「ボクも年に1回は風邪ひいちゃう。でも教会の薬は高いから寝て治すしかなくて、良くなるのに時間がかかってしまう」
「私もです。寝てる時間が長ければ長いほどお仕事ができないから、余計に生活は苦しくなるんです」
ふぅむ、どうやら俺が想像していた以上に治療費の問題は根深いみたいだな。
ゲームの影響で薬草とか解毒薬とかって安いイメージがあったけど、現実はそうじゃないみたいだ。
話し合いの結果、全員が保険の制度には賛成してくれた。
うちは給料が高いというのもあり、金額についても月に銀貨1枚なら問題ないとのこと。
「月の途中だと中途半端だし、キャトンにも話をしないといけないから、保険料を引かせてもらうのは来月からってことでいいかな?」
「「「「はい!」」」」
こうして不完全ながらもこっちの世界では初となる『保険』という制度が誕生した。
0
お気に入りに追加
1,136
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?
雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。
特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。
その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった!
吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか?
※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。
婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる