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第2章 そして2章ぐらいで段々問題が起きるんだ
53話 保険の話 -偉い人の登場-
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どうしてこうなった!?
いま俺の目の前には1人の女性と1人の男性がいる。
いやいや!
対応してくれるのは本当にありがたいんだけど、こうなる予定じゃなかったんだって!
経理の人と話ができればそれでよかったんだって!
応接室に案内されたのまではよかったんだけど、しばらくして入室してきたこの2人が信じられない自己紹介をしやがった!
「初めましてジョージ様。わたくしは王都の教会で司祭を務めております、シジル=カミーノと申します」
「助祭を務めるイルーノ=ゴッドと申す」
「ししし、司教様に助祭様ぁ!?」
こんな偉い人が来るとは思ってなかったんだってば!
名前からして神を信じてたり、神はいるのって思ってそうな人と話すつもりじゃなかったんだよ!
「そんなに緊張されなくとも大丈夫ですよ」
「ひゃい! わわ、私はジョージと言います。ままままま街で、しっ、しがない定食屋を経営してるるる者でふ」
緊張で声は震えるわ軽く噛むわ、踏んだり蹴ったりだ。こちとら由緒正しいド平民なんだぞ!?
「ジョージ様、あなたのお店の名前をお伺いしても?」
「ひゃい! フェーレースというお店れす」
嚙みながらも何とか答えると、イルーノ様が「やはり……」と呟いた。
「やはり?」
「聞こえてしまったか。単刀直入に聞かせていただくが、4月の末頃に当教会に多大な寄付をされたジョージ様というのは、あなたのことで間違いないだろうか?」
4月の末といえば、店で生焼けの肉を出してしまった時期だ。
ガードスさんにお願いして、俺が受け取る権利があったお金をそっくりそのまま教会に寄付してもらったな。
「あっ、はい。警備隊のガードスさんにお願いし、寄付させていただきました」
「その節は本当にありがとうございました」
「うむ、本当にありがとう」
お偉いさんが2人揃って深々と頭を下げるもんだから、余計にテンパってしまう。
「あああああ、頭を上げてください! うちでも受け取るに受け取れなかったお金だったんで、有効活用してもらえればと思っただけなんです! 結局手続きなんかも全部ガードスさんにやってもらったんで、私自身は何もしてないんです!」
早口で捲し立てていると、優し気な微笑みを浮かべたシジル様から手で制される。
「もちろんガードス様にも感謝しておりますが、寄付を決めたご本人に感謝するのは至極当然なことではありませんか?」
「現にジョージ様の寄付によって30人以上の子どもが救われておるのだ」
「えっ!? そんなに?」
あの出来事からまだ1ヶ月も経ってないのに大した人数だ。
「本来はわたくし達からお伺いすべきだったのですが、中々教会を離れることができませんし、軽々しく外出ができない立場ですので」
そりゃそうだろう。
司祭様が出かけるとなれば、どれだけの警備が必要になることか。
「最初は農家の子どもだった。腹痛を訴える我が子のため、父親が子どもと全財産を抱えて駆け込んできたのだ」
「家が貧しくお腹を空かせていたため、つい果実を拾い食いしてしまったようです。その果実に悪い虫が付いていたようで、それはもう見ているのがツラい程の痛がり様でした」
少し言い辛そうにしながら、イルーノ様は続きを話し出す。
「父親は『全財産だ!』と言ってお金を差し出してきたが、本来の治療費の半分程の額しかなかった」
そのことを告げると、父親の顔は真っ青になったという。
「冷静さを欠いた父親は『下働きでも何でもするから、どうか子どもを助けてくれ!』と、泣きながら懇願してきた」
「しかし今の教会では、腹痛に関する治療にはジョージ様からの寄付金を充てています。そのことを伝えて治療を施しましたので、子どもの命は守られ、父親は全財産を手放すことも下働きに身をやつすこともありませんでした」
ただの思い付きの、偽善とも取られそうな行為だったけど、それで1つでも命を救えたのなら本望だ。
「あぁ、よかった! 本当によかった!」
そう安堵した俺を、2人は目を細めて見つめていた。
いま俺の目の前には1人の女性と1人の男性がいる。
いやいや!
対応してくれるのは本当にありがたいんだけど、こうなる予定じゃなかったんだって!
経理の人と話ができればそれでよかったんだって!
応接室に案内されたのまではよかったんだけど、しばらくして入室してきたこの2人が信じられない自己紹介をしやがった!
「初めましてジョージ様。わたくしは王都の教会で司祭を務めております、シジル=カミーノと申します」
「助祭を務めるイルーノ=ゴッドと申す」
「ししし、司教様に助祭様ぁ!?」
こんな偉い人が来るとは思ってなかったんだってば!
名前からして神を信じてたり、神はいるのって思ってそうな人と話すつもりじゃなかったんだよ!
「そんなに緊張されなくとも大丈夫ですよ」
「ひゃい! わわ、私はジョージと言います。ままままま街で、しっ、しがない定食屋を経営してるるる者でふ」
緊張で声は震えるわ軽く噛むわ、踏んだり蹴ったりだ。こちとら由緒正しいド平民なんだぞ!?
「ジョージ様、あなたのお店の名前をお伺いしても?」
「ひゃい! フェーレースというお店れす」
嚙みながらも何とか答えると、イルーノ様が「やはり……」と呟いた。
「やはり?」
「聞こえてしまったか。単刀直入に聞かせていただくが、4月の末頃に当教会に多大な寄付をされたジョージ様というのは、あなたのことで間違いないだろうか?」
4月の末といえば、店で生焼けの肉を出してしまった時期だ。
ガードスさんにお願いして、俺が受け取る権利があったお金をそっくりそのまま教会に寄付してもらったな。
「あっ、はい。警備隊のガードスさんにお願いし、寄付させていただきました」
「その節は本当にありがとうございました」
「うむ、本当にありがとう」
お偉いさんが2人揃って深々と頭を下げるもんだから、余計にテンパってしまう。
「あああああ、頭を上げてください! うちでも受け取るに受け取れなかったお金だったんで、有効活用してもらえればと思っただけなんです! 結局手続きなんかも全部ガードスさんにやってもらったんで、私自身は何もしてないんです!」
早口で捲し立てていると、優し気な微笑みを浮かべたシジル様から手で制される。
「もちろんガードス様にも感謝しておりますが、寄付を決めたご本人に感謝するのは至極当然なことではありませんか?」
「現にジョージ様の寄付によって30人以上の子どもが救われておるのだ」
「えっ!? そんなに?」
あの出来事からまだ1ヶ月も経ってないのに大した人数だ。
「本来はわたくし達からお伺いすべきだったのですが、中々教会を離れることができませんし、軽々しく外出ができない立場ですので」
そりゃそうだろう。
司祭様が出かけるとなれば、どれだけの警備が必要になることか。
「最初は農家の子どもだった。腹痛を訴える我が子のため、父親が子どもと全財産を抱えて駆け込んできたのだ」
「家が貧しくお腹を空かせていたため、つい果実を拾い食いしてしまったようです。その果実に悪い虫が付いていたようで、それはもう見ているのがツラい程の痛がり様でした」
少し言い辛そうにしながら、イルーノ様は続きを話し出す。
「父親は『全財産だ!』と言ってお金を差し出してきたが、本来の治療費の半分程の額しかなかった」
そのことを告げると、父親の顔は真っ青になったという。
「冷静さを欠いた父親は『下働きでも何でもするから、どうか子どもを助けてくれ!』と、泣きながら懇願してきた」
「しかし今の教会では、腹痛に関する治療にはジョージ様からの寄付金を充てています。そのことを伝えて治療を施しましたので、子どもの命は守られ、父親は全財産を手放すことも下働きに身をやつすこともありませんでした」
ただの思い付きの、偽善とも取られそうな行為だったけど、それで1つでも命を救えたのなら本望だ。
「あぁ、よかった! 本当によかった!」
そう安堵した俺を、2人は目を細めて見つめていた。
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