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第2章 そして2章ぐらいで段々問題が起きるんだ
50話 保険の話 -発端-
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5月16日の火曜日のこと。
1日の営業を無事に終了し、全員で片付けと掃除をしている時に店のドアをノックする音が聞こえた。
もう閉店の札はかけてるし、一般のお客様じゃないだろう。
再びノックされるドアに近づき、声をかけた。
「どちら様でしょうか?」
「閉店後に申し訳ございません。キャトンの父のトラージです」
「トラージさん?」
すぐにドアを開けると、憔悴した様子のトラージさんが立っていた。
「夜分に申し訳ございません。どうしてもお話ししなければならないことがありまして」
「と、とりあえず中へどうぞ。ニャジー、お茶を用意してもらっていいかな?」
「わかりました」
「すみません、失礼します……」
トラージさんを席に通して、俺もその正面に座る。
すぐにニャジーがお茶を出してくれたので、さっそく話を切り出した。
「何か緊急のご用事だったのでしょうか?」
もしかして、楽しそうに働いているのをいいことにキャトンを働かせすぎたとか?
本人が言い出しにくいから、代わりにお父さんに言ってもらうとか?
やばい、冷や汗が……。
「実はキャトンのことなのですが……」
ややや、やっぱり!?
前の店でも、退職を言い出しにくかったってことで、アルバイトの子がお母さんを派遣してきたことがあったもんな……。
「キャキャキャキャ、キャトンが、もっもも、もしや、仕事ををを、やめめめめめ……」
ヤバい! 言葉にならない!!
「ジョージさん、落ち着いてください!」
トラージさんからお茶を勧められ、一口飲んで心を落ち着かせると、トラージさんから話を進めてくれた。
「キャトンに仕事を辞めさせるとか、キャトンが仕事を辞めたがってるとか、そういった類の話ではないのでご安心を」
壊れたラジオみたいなさっきの言葉で、俺が言わんとしていたことを汲んでくれたみたいだ。
「ででで、でしたら、どのようなご用で?」
「大変申し上げにくいのですが、キャトンが体調を崩してしまいまして……」
これには、俺だけではなく聞き耳を立てていたスタッフ達もざわついた。
「キャトンが体調不良? だ、大丈夫なのでしょうか?」
「教会にも連れていって診てもらいましたし、妻が看病しているので大丈夫です」
「あぁ、よかった……」
「しかし中々熱が引かずにいまして、治療のために教会へ預けたいと思っているのです」
「教会に預ける?」
「あの子は生まれつき身体が弱かったのですが、これまでは経済的余裕がなかったので、病気になっても少量の薬でごまかしごまかし治療していたのです」
トラージさんは苦し気な表情で話してたけど、言葉を切った後に表情が一変した。
「しかしキャトンがジョージさんのお店で働くようになり、我が家には経済的余裕が出てきました。ですので、今回は教会に預けて、根本的なところから治療をしてもらったらどうかという話になったのです」
「そうですね、それがいいと思います」
「教会の方の話によると、半月ほどで改善されるだろうということでした。しかしそこでキャトンが私と妻に言ったのです、『みんなに迷惑がかかっちゃうよ』と……」
その言葉を聞いた瞬間、我慢できなくなったのか、ミーニャが口を挟んだ。
「迷惑なんかじゃないです!!」
ふるふると震えながら、涙目で叫ぶ。
ミーニャにとってキャトンは唯一無二の親友だ。
この店で働いてもらえないか頼んだ時も、自分が働きたい気持ちを抑えてまでキャトンに譲ろうとしてたぐらい、大切に思っているのだ。
すると他のスタッフ達も我慢できなくなったのか、全員ホールに出てきた。
「おいらだって、仕事中はキャトンに迷惑かけることがあるぞ!」
「キャトンは優しいから、僕の仕事も手伝ってくれる」
「私だって、レジの仕事はまだまだキャトンに教わることが多いです」
「君達……」
鼻息荒く訴えるスタッフ達に目を丸くしながらも、我が子が大事に思われていることを感じ取ったトラージさんは、少しだけ目を潤ませた。
「言いたいことはすべてこの子達が言ってくれました。元気に生きていくのが1番です。キャトンには『元気になって戻ってきてくれ』とだけお伝えください」
「ありがとうございます……」
こらえきれず涙をこぼすトラージさん。
その後、入店時の憔悴が冗談だったかのように、晴れ晴れとした笑顔で帰っていった。
1日の営業を無事に終了し、全員で片付けと掃除をしている時に店のドアをノックする音が聞こえた。
もう閉店の札はかけてるし、一般のお客様じゃないだろう。
再びノックされるドアに近づき、声をかけた。
「どちら様でしょうか?」
「閉店後に申し訳ございません。キャトンの父のトラージです」
「トラージさん?」
すぐにドアを開けると、憔悴した様子のトラージさんが立っていた。
「夜分に申し訳ございません。どうしてもお話ししなければならないことがありまして」
「と、とりあえず中へどうぞ。ニャジー、お茶を用意してもらっていいかな?」
「わかりました」
「すみません、失礼します……」
トラージさんを席に通して、俺もその正面に座る。
すぐにニャジーがお茶を出してくれたので、さっそく話を切り出した。
「何か緊急のご用事だったのでしょうか?」
もしかして、楽しそうに働いているのをいいことにキャトンを働かせすぎたとか?
本人が言い出しにくいから、代わりにお父さんに言ってもらうとか?
やばい、冷や汗が……。
「実はキャトンのことなのですが……」
ややや、やっぱり!?
前の店でも、退職を言い出しにくかったってことで、アルバイトの子がお母さんを派遣してきたことがあったもんな……。
「キャキャキャキャ、キャトンが、もっもも、もしや、仕事ををを、やめめめめめ……」
ヤバい! 言葉にならない!!
「ジョージさん、落ち着いてください!」
トラージさんからお茶を勧められ、一口飲んで心を落ち着かせると、トラージさんから話を進めてくれた。
「キャトンに仕事を辞めさせるとか、キャトンが仕事を辞めたがってるとか、そういった類の話ではないのでご安心を」
壊れたラジオみたいなさっきの言葉で、俺が言わんとしていたことを汲んでくれたみたいだ。
「ででで、でしたら、どのようなご用で?」
「大変申し上げにくいのですが、キャトンが体調を崩してしまいまして……」
これには、俺だけではなく聞き耳を立てていたスタッフ達もざわついた。
「キャトンが体調不良? だ、大丈夫なのでしょうか?」
「教会にも連れていって診てもらいましたし、妻が看病しているので大丈夫です」
「あぁ、よかった……」
「しかし中々熱が引かずにいまして、治療のために教会へ預けたいと思っているのです」
「教会に預ける?」
「あの子は生まれつき身体が弱かったのですが、これまでは経済的余裕がなかったので、病気になっても少量の薬でごまかしごまかし治療していたのです」
トラージさんは苦し気な表情で話してたけど、言葉を切った後に表情が一変した。
「しかしキャトンがジョージさんのお店で働くようになり、我が家には経済的余裕が出てきました。ですので、今回は教会に預けて、根本的なところから治療をしてもらったらどうかという話になったのです」
「そうですね、それがいいと思います」
「教会の方の話によると、半月ほどで改善されるだろうということでした。しかしそこでキャトンが私と妻に言ったのです、『みんなに迷惑がかかっちゃうよ』と……」
その言葉を聞いた瞬間、我慢できなくなったのか、ミーニャが口を挟んだ。
「迷惑なんかじゃないです!!」
ふるふると震えながら、涙目で叫ぶ。
ミーニャにとってキャトンは唯一無二の親友だ。
この店で働いてもらえないか頼んだ時も、自分が働きたい気持ちを抑えてまでキャトンに譲ろうとしてたぐらい、大切に思っているのだ。
すると他のスタッフ達も我慢できなくなったのか、全員ホールに出てきた。
「おいらだって、仕事中はキャトンに迷惑かけることがあるぞ!」
「キャトンは優しいから、僕の仕事も手伝ってくれる」
「私だって、レジの仕事はまだまだキャトンに教わることが多いです」
「君達……」
鼻息荒く訴えるスタッフ達に目を丸くしながらも、我が子が大事に思われていることを感じ取ったトラージさんは、少しだけ目を潤ませた。
「言いたいことはすべてこの子達が言ってくれました。元気に生きていくのが1番です。キャトンには『元気になって戻ってきてくれ』とだけお伝えください」
「ありがとうございます……」
こらえきれず涙をこぼすトラージさん。
その後、入店時の憔悴が冗談だったかのように、晴れ晴れとした笑顔で帰っていった。
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