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第2章 そして2章ぐらいで段々問題が起きるんだ

49話 ギルド銀行④

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「無事登録が完了しましたので、次回からはあちらの奥にある銀行カウンターをご利用ください。お引き出しやご入金が自由にできます」

 示された方向を見ると、丸い水晶のような道具が置いてあるカウンターがあった。

「名前を告げてあちらの魔道具に触れていただくと、私達職員にその人の口座が確認できるようになっています。初回契約時に外見的特徴なども合わせて登録されるため、同姓同名の人物との取り間違えなどもありません」

 名前を告げて魔道具に触れるだけでいいなんて、日本の銀行のシステムよりハイテクじゃないかな?
ますますこの世界に俺が送り込まれた意味がわからなくなってきた。

「すみません。私はこの子達の雇い主なんですけど、給料を振り込む時ってどうすればいいんですか?」

 4月分と5月の半分までの給料は日払いで手渡しており、それぞれの家で十分な蓄えになっているとのこと。
安全面などのことも考慮して、5月後半の給料から振り込みにすることも話し合って決めてきた。

「通常は振り込みたい相手のお名前と身体的な特徴だったりをお伺いして、登録情報に相違がないことが確認できたら振り込みができます。しかし定期的に振り込みをされる方に関しては、振り込み者として登録もできますよ。振り込み者登録は無料です」

 この振り込み者登録をしておけば、例の魔道具に振り込みたい相手の名前を言って触れることで振り込みが可能になるらしい。

「じゃあ今の3人の口座に、振り込み者として登録してもらっていいですか?」

「わかりました」

 先程とは別の契約書に必要事項を記入し、こちらも契約魔法で登録してもらう。

「はい、これで必要な登録は完了しました。何かご不明な点等ございますか?」

 俺はこれ以上質問はなかったので後ろを振り返ると、キャトンがおずおずと手を挙げた。

「あの、お父さんとお母さんも私の口座を使えるようにすることってできますか?」

「もちろん可能ですよ。お父様とお母様を連れてきていただければ、今こちらの方がされたように個別で登録ができますし、入金だけ・引き出しだけ・入金と引き出しの両方可能、という登録方法から選ぶことができます」

「ありがとうございます。今度お父さんとお母さんと来ます」

 キャトンがお礼を述べると、ミーニャも「私もお兄ちゃんを連れてこないと」と頷いていた。

 とりあえず今のところは他に質問などはないようだったので、職員さんにお礼を言って農業ギルドを後にした。

「これで口座開設も完了したし、予定どおり明日からの給料は振り込みでいいかな?」

 念のために再確認すると、みんな笑顔で頷いた。

「給料をいっぱいもらえるのは嬉しいんだけど、おいら持って帰るのが怖かったんだよな」

「あっ、それわかる! お金をいっぱい持ってるから、誰かから見られてる気がするんだよね!」

 ライオの言葉にミーニャが返し、みんな頷いてた。

「そっかぁ、そうだよな。ごめんな、気づいてやれなくて」

 オイ氏からのアドバイスがなければずっとそのままにしていたと思う。

(今度オイさんに何かお礼しなきゃな)

 相手は商業ギルドのマスターだから、欲しいものなんてないかもしれない。どんなお礼がいいか、じっくり考えないとな。

「さて、休みの日にせっかくこうやってみんな集まったんだ。俺がご馳走するからお昼ご飯でも食べて帰るか!」

「えっ、いいのか店長!?」

「もちろんだよ。他のお店の料理や接客を見るのもみんなの勉強になるだろうし、せっかくだからちょっと高級なお店にでも行くか?」

「……高級なお店、気になる」

「あわわ、い、いいんですか…?」

「ありがとうございます!」

「勉強したいです!」

 ジャック、キャトン、ミーニャ、ニャジーもそれぞれの反応を見せる。

「俺は王都には詳しくないから、案内はみんなに任せたぞ!」

 俺の言葉に、5人はああでもないこうでもないと楽し気に頭を悩ませながら話し合う。

 日曜日をのんびりと過ごせる幸せを噛みしめながら、可愛いスタッフ達に手を引かれて王都の道を歩くのであった。
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