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第2章 そして2章ぐらいで段々問題が起きるんだ
45話 主婦のプライドと後ろめたさ
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「うぅん、悔しい!」
土曜日の昼、ホールにそんな声が響き渡った。
ミーニャが休みで、珍しく俺が調理を担当していた日の出来事だ。
「店長。クレシアさんが呼んでるんですけど、大丈夫ですか?」
レジ担当のキャトンがおずおずと呼びに来る。さっきの声と関係あることなんだろう。
「とりあえず今のところはオーダーもないし大丈夫かな。ジャック、もしオーダーが入ったら任せてもいいか?」
「うん、頑張る」
この頃メキメキと成長しているスタッフに頼もしさを感じながら、クレシアさんが待つカウンター席へと向かった。
「いらっしゃいませ、クレシアさん。当店に何か不備がありましたでしょうか?」
本日の日替わり、焼肉定食がしっかり完食されていることを確認しながら挨拶をする。
「あぁ店長。忙しいだろうにわざわざごめんね」
「いえ、落ち着いてたから大丈夫ですよ。お声がキッチンまで届いてましたが、何かありましたか?」
「うるさくしちまって悪かったね。いやぁ、あたしも料理には自信があるんだけどさ、やっぱりあんたの店の料理には敵わないって思ったら、ついつい声に出ちゃったんだよ」
「ありがとうございます、でいいんですかね?」
返事に窮して思わず尋ねてみると、クレシアさんもつられて苦笑いする。
「普段ならあたしもこんなことは思わないんだけどね。何日か前の夜に、うちの表六玉がここに来たろ?」
「ドンバさんは……、えぇ、一昨昨日の夜に来られてましたね」
「そうそう、その日だよ! ステーキ丼の日だろう?」
水曜日はステーキ丼の日だから、互いの記憶に間違いはないみたいだ。
「うちの人はクセの強い肉が好きだから、カヌウの肉が好物なんだよ。だからうちでもカヌウの料理を出すことが多いのさね」
「確かにドンバさん、最近はカヌウの料理の日ばっかり来てますね」
「だろう? この店の料理が美味いのは事実だからそれはいいんだけどさ、うちでカヌウの料理を出したら不満そうに食べるんだよ! あったまにきちまって、この前も大喧嘩さ!!」
これには思わず笑ってしまった。
というのもこのクレシアさん、実はプレオープンの日にウルザさんと来店したおばちゃんグループの1人。
プレオープンの日に、「へぇ、料理に相当な自信があるんだね? わかったよ。高いかどうか、味を見てから考えようじゃないかい!」と発言した人だ。
よほど料理の腕に自信があるみたいだし、ドンバさんの言葉に我慢ならなかったんだろう。
「けどねぇ、やっぱりこうやって食べちまったら、うちの人の言うことは間違ってないってわかっちまうからさ。ちょっとモヤモヤしちまうんだよ」
改めて「騒がせて悪かったね」と謝罪してくれたけど、正直俺には後ろめたさしかない。
(焼いた肉にメーカーのタレをかけてるだけだからな)
もしこれが俺の開発したタレだったら、「タレを作るコツを教えますよ!」とか言えるんだけど、さすがに市販のタレを「これを使ってみてください!」って与えるわけにもいかないし。
こんな日常会話からも、いかに自分が恵まれた環境にいるかを再認識させられるのだった。
土曜日の昼、ホールにそんな声が響き渡った。
ミーニャが休みで、珍しく俺が調理を担当していた日の出来事だ。
「店長。クレシアさんが呼んでるんですけど、大丈夫ですか?」
レジ担当のキャトンがおずおずと呼びに来る。さっきの声と関係あることなんだろう。
「とりあえず今のところはオーダーもないし大丈夫かな。ジャック、もしオーダーが入ったら任せてもいいか?」
「うん、頑張る」
この頃メキメキと成長しているスタッフに頼もしさを感じながら、クレシアさんが待つカウンター席へと向かった。
「いらっしゃいませ、クレシアさん。当店に何か不備がありましたでしょうか?」
本日の日替わり、焼肉定食がしっかり完食されていることを確認しながら挨拶をする。
「あぁ店長。忙しいだろうにわざわざごめんね」
「いえ、落ち着いてたから大丈夫ですよ。お声がキッチンまで届いてましたが、何かありましたか?」
「うるさくしちまって悪かったね。いやぁ、あたしも料理には自信があるんだけどさ、やっぱりあんたの店の料理には敵わないって思ったら、ついつい声に出ちゃったんだよ」
「ありがとうございます、でいいんですかね?」
返事に窮して思わず尋ねてみると、クレシアさんもつられて苦笑いする。
「普段ならあたしもこんなことは思わないんだけどね。何日か前の夜に、うちの表六玉がここに来たろ?」
「ドンバさんは……、えぇ、一昨昨日の夜に来られてましたね」
「そうそう、その日だよ! ステーキ丼の日だろう?」
水曜日はステーキ丼の日だから、互いの記憶に間違いはないみたいだ。
「うちの人はクセの強い肉が好きだから、カヌウの肉が好物なんだよ。だからうちでもカヌウの料理を出すことが多いのさね」
「確かにドンバさん、最近はカヌウの料理の日ばっかり来てますね」
「だろう? この店の料理が美味いのは事実だからそれはいいんだけどさ、うちでカヌウの料理を出したら不満そうに食べるんだよ! あったまにきちまって、この前も大喧嘩さ!!」
これには思わず笑ってしまった。
というのもこのクレシアさん、実はプレオープンの日にウルザさんと来店したおばちゃんグループの1人。
プレオープンの日に、「へぇ、料理に相当な自信があるんだね? わかったよ。高いかどうか、味を見てから考えようじゃないかい!」と発言した人だ。
よほど料理の腕に自信があるみたいだし、ドンバさんの言葉に我慢ならなかったんだろう。
「けどねぇ、やっぱりこうやって食べちまったら、うちの人の言うことは間違ってないってわかっちまうからさ。ちょっとモヤモヤしちまうんだよ」
改めて「騒がせて悪かったね」と謝罪してくれたけど、正直俺には後ろめたさしかない。
(焼いた肉にメーカーのタレをかけてるだけだからな)
もしこれが俺の開発したタレだったら、「タレを作るコツを教えますよ!」とか言えるんだけど、さすがに市販のタレを「これを使ってみてください!」って与えるわけにもいかないし。
こんな日常会話からも、いかに自分が恵まれた環境にいるかを再認識させられるのだった。
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