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第2章 そして2章ぐらいで段々問題が起きるんだ

36話 初めてのトラブル -詳細-

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 明らかにこちらの不手際なので、すぐに頭を下げる。

「ジョージは基本的に接客をやってるようだから直接的な原因はあんたにはないんだろうけど、店長という立場にあるからにはわかってるだろう?」

「はい。すべては店長である私の責任です」

「あたいは歯が弱ってるからこうやって一口大にしてから食べるけど、一般の客ならかぶりついて食べるのが普通だろうからね、気づかずに口に含んでいたと思うよ」

 そう言いながらビービーさんが指さす一口サイズの南蛮。その南蛮は中心まで火が通っておらず、ピンク色の部分があった。

 こちらの世界では常識とされてるんだけど、魔物の肉には例外なく『魔素』という負のエネルギーが含まれているらしい。
これは冒険者ギルドから肉を卸してもらうことが決定した時に、注意事項として聞かされて知ることとなった。

 その魔素とやらは加熱することで無害になるらしく、魔物の肉は加熱調理が原則となっていて、冒険者ギルドも商業ギルドも生食は避けるよう購入者に通達している。

 身に宿す魔力が強い者や魔力量が多い者は生食しても平気らしいけど、子どもや老人みたいに免疫力が低い人が生食すると、高確率で腹痛を起こし、摂取した魔素量によっては死に至ることもあるらしい。

「……昼の営業は大丈夫だったのかい?」

 事の深刻さを重々承知しているのが伝わったのだろう、ビービーさんはいつものトーンで尋ねてきた。

「大丈夫だったかどうかはわかりませんが、今のところお客様からのご報告は入っていません。夜の営業でも、他の方からそういった苦情は入っておりません」

「魔素反応もすぐすぐ出るってわけじゃないからね。で、これからどうするつもりだい?」

「まずビービーさんには、すぐに作り直して新しいものを提供させていただき、不出来で危険な料理を提供してしまったお詫びとして、代金も返却させていただきます。他のお客様から体調不良等の申し出があった場合、その際もまずは料理の代金を返金させていただき、治療にかかる費用もすべてお支払いしようと考えてます」

「うん、まず完璧な対応だろうね。だけど2つ問題点があるよ」

「2つ?」

「まず1つ目。王都に来たばかりのジョージは知らないかもしれないけど、治療にかかる費用ってのはかなりの額だよ」

 言われてみたら、この世界の医療について俺は何も知らない。ビービーさんの口ぶりだと、日本で暮らしていた時みたいに、体調が悪いからといってすぐに病院にかかれるわけじゃないみたいだ。

「確かに治療のことなどわかってませんでした。具体的に教えていただけますか?」

「わかった、教えてあげるよ。病気の治癒や怪我の治療は教会が一括して担っていることは知ってるかい?」

「はい、それは聞きました」

「中には教会のことを守銭奴やら独占者と揶揄する者もいるけどね、教会が高い金を請求するのにも理由があるんだよ」

 そういえば、お客様が雑談の中で「教会はあくどい」だの「守銭奴」だの言っているのを耳にしたことがあるな。

「薬を作るのには専門の知識がいるし、怪我の治療をするのも同様さね。だけど怪我を癒す魔法や病気を治す魔法の適性がある人間が圧倒的に少ないんだよ。治癒師達は毎日魔力が枯渇するまで魔法を使い続けてるし、薬師達はほぼ休みなく薬を作り続けてる」

「人件費やその手当てに、教会もお金がかかってるってことですね」

「それだけじゃないよ。薬を作るには高額な薬草や魔物の素材が必要になるし、治癒師達は枯渇した魔力を回復させるためにマジックポーションを飲んでるから、その分のお金だって上乗せされてるんだよ」

「つまり、料金的には高いけど内容を見ると正当な額ってことですね」

「そうだよ。だから、魔素反応による体調不良なんかでもそれ相応の治療費が必要になるってわけだ。診察を受けて3日分の薬を処方するとなったら、金貨3枚は必要になるね」

「金貨3枚!?」

 俺が驚くのも無理はないよ!
だって、腹痛で病院にかかるとして、日本円にして約3万円払うってことだぞ?
日本なら、診察してもらって薬を処方してもらったとしても、保険適用で千円前後ってとこだろ?

「診察費なんてほぼタダみたいなもんだから、ほとんど薬代だよ。さっきジョージは治療にかかる費用をすべて負担すると言ったけどね、それは覚悟と相応の金が必要になるんだよ」

 気がつけば、スタッフも来店していたお客様もビービーさんの話に聞き入っていた。

 夕食を食べに来ていた冒険者の1人は「教会の価格にはそんな事情が……」と考え込んでしまったし、近所の奥様は「高い理由はわかったけど、だからこそ貧しい人は治療を受けられないのよね」と嘆いている。

 そしてキッチンの方からは、小さな泣き声が聞こえてきた。
どうやら調理担当のミーニャが責任を感じて泣き出してしまい、ニャジーを中心とした他のスタッフがなだめているようだった。
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