異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木

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第1章 小説の第1章は大体説明みたいな感じだよね

30話 おい、お前もかよ!

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「いやはや、これはやられたぞい!」

 夜の営業を開始した店内に、愉快そうなオイ氏の声が響いた。
約束どおりギルド職員を連れて計5人でやってきてくれて、外に設置してある説明書きを読んだらしく、来店早々興奮しっぱなしだった。

「オイさんのお眼鏡に叶ってよかったです」

 口ではそう応じたけど、この世界では斬新なシステムだってことは複数人からお墨付きをいただいていたので、ぶっちゃけあまり心配してなかった。

「飲食店や宿屋なんかは常に人件費との戦いじゃからのう。ここより狭い店や金銭的に余裕がない店なんかはこぞって真似しそうなのが心配じゃな」

 オイ氏いわく、物質的な発明品や仕組みには特許という概念があるけど、サービスなど無形のシステムには特許が認められていないとのことで、誰がどのように真似してもお咎めなしなんだとか。

 けど、それはそれでしょうがない。
かくいう俺だって日本では珍しくない既存のシステムをパクっただけだし、この世界でもいつか誰かが考えついただろう。それがちょっと早まっただけの話だ。

「別に真似されても大丈夫ですよ。うちの店の本当の自慢は料理ですから」

 塩や砂糖などのシンプルな調味料はともかく、俺が取り寄せている調合済みの調味料は誰にも真似できないからな。日本人の食へのこだわりとメーカー努力万歳!

 貴族様の台所事情はわからないけど、市場での価格を見る限り、大衆店が香辛料をふんだんに使うことは難しそうだった。うちと同じタレを作ろうと思っても、まず採算が合わないと踏んでいる。

「ほほう、楽しみじゃのう!」

 お店のシステムに驚かされたからか、今回は挑戦的な様子はなく、ただただ食事を楽しもうとする好々爺だった。

 オイ氏御一行の案内を終えようとしたところでお店の扉が開き、ガードスさんも来店。

「ちゃんと警備隊にも話を通したようじゃの」

「ありがたいアドバイスをいただきましたので」

 元はオイ氏のアドバイスだったからね。
お礼のつもりでペコリとオイ氏に頭を下げていると、ガードスさんがこちらに近づいてくるのが見えた。

「ジョージくん、今日は招いてくれてありがとう。お言葉に甘えて一緒に勤務を終えた部下を連れてきたよ」

「こちらこそ、わざわざありがとうございます」

 形式ばった挨拶を終えると、ガードスさんはオイ氏に身体を向けた。

「商業ギルドマスターのオイ様もお元気そうで。ご無沙汰しております」

「ギルドマスター!?」

 冒険者ギルドに続いて商業ギルドもマスターご来店かよ!
っていうかこの世界のお偉いさん、率先して前線で働きすぎだろ! 日本の企業にも見習ってほしいぜ、ちくしょう!

「ほっほっほっ、ガードスも元気そうで何よりじゃ」

「おかげさまで」

 話の切れ目を狙って口を挟んでみる。

「お2人は知り合いだったのですね。っていうかオイさん、じゃなくてオイ氏はギルドマスターだったんですか? 言ってくださいよ!」

「ほっほっほっ、今までどおりオイさんでよいぞ! あんまり畏まられても嫌じゃから、普段は身分を隠してイチギルド職員として働いておるんじゃよ」

 そういえば一緒に食べに来たギルド職員さんも、オイ氏にフランクな感じだった。
立場の高さを主張しないし、気さくだし、仕事は率先してやるし、みんなから慕われてるんだろうな。

「俺達警備隊は、トラブルの仲裁役として商業ギルドや工業ギルドの職員と動くことも多いんだよ」

 聞いてみると、商業ギルドだけじゃなく各ギルドで、登録者の権利としてトラブル時の仲裁が保障されてるとのことだ。

「しかしギルドマスターが直々に出向くほどのお店だということですか、ここは?」

「ほっほっほっ、ガードスは外の注意書きの板は見てこなんだか?」

「そんな物があったのですね。恥ずかしながら俺も部下も相当に腹を空かせているもので、一目散に扉を開いてしまいました」

「ではご説明させていただきますね」

 おそらくオイ氏達の注文が調理されているんだろう、肉を焼く音とタレの香りがホールに流れてくる。
盛大に腹を鳴らす警備隊の面々に店のシステムを説明しながら、夜の営業が始まったんだなぁと今さらながら実感した。
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