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第1章 小説の第1章は大体説明みたいな感じだよね

20話 いざ調理

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「では実際に私が料理を作ってみますが、今はまだ話せないことも多いので途中での質問はご遠慮ください」

「「「はい!」」」

 ようやくご飯が食べられると思ったのか、特に子ども達の返事が元気だ。

 オーク肉より安かったボア肉とやらを多めに買ってたから、これを使ってショウガ焼き定食でも作ろうかな。
 
 買ってきた時に試しに料理してみたんだけど、オーク肉より硬かったから全部薄切りにしておいた。
まさかこんなところで役に立つとは!

 ご飯はすでに夕食の分をセットしてたし、冷蔵保存してる余りのご飯もあるからギリギリ足りるだろう。

 味噌汁の具で少し悩んだけど、いつもよりダイコンを細めに切ればすぐに火が通って美味しく食べられるだろう。

 よし、料理に取りかかるか。

「あらっ、私より上手ね」

「ありがとうございます」

 付け合わせ用のキャベツを千切りにしていると、思わずといった感じでサッチェさんが呟いた。

 次はダイコンを細切りにして味噌汁鍋にぶち込む。味噌も出汁もスキルで手に入れたメイド・イン・ジャパンのものだ。

 そしていよいよメインディッシュへと取りかかる。

 薄切りのボアの肉を焼き始めると、子どもも大人も興奮度が増した。

「すっげぇ! 肉なんて久しぶりだな、ジャック!」
「……うん、嬉しい」
「えっ? 今どうやって火をつけたの!?」

「わぁ、いい匂い……」
「お、おい、サッチェ、なぜボアの肉があんなに柔らかそうなのだ?」
「薄切りにしてるからでしょうけど、それじゃあ味が……」

「この箱の中、どうやって食材を温めてるんだ?」
「ジョージさんはレンジって呼んでたみたいだけど、わかんない」

 開始前に質問禁止にしておいたため、料理をしている俺の後方でワイワイと盛り上がる8人。

 ある者は料理の匂いに驚き、ある者は材料に驚き、ある者はガス台に驚き、ある者は電子レンジに驚く。
少しずつだけど、みんな俺の店の特異性を理解し始めたみたいだ。

 急遽食事会みたいになっちゃったけど、多少なり日常生活用の食器は用意されてたし、俺を入れて9人分なら何とかなる。
飲食店を開くとなると数も質も足りてないし不揃いだけど、今日に限っては問題ないしな。

「そろそろ料理ができますので、ライオくん以外の皆さんはホールの席に座って待っててください」

「えぇっ!? 何でおいらはダメなんだ?」

「ライオくんにはお客様を呼んで料理を渡す係をやってもらおうかと思ってね」

「にーちゃんがさっきやってたやつか! 楽しそうだからやるぞ!」

 全員に適当に番号を割り振って、席についてもらう。

「じゃあライオくん、お願いね。今はお試しだから何となくでいいよ」

「任せろ! えっと……1番の人! 料理ができたから取りに来てくれ、ください!」

 ライオが元気に呼びかけると、トラージさんが受け取り口へやってくる。
1番のトラージさんにだけは、さっきレジの説明をした時に作った紙の食札を渡してある。

「本来ならここで食札と呼ばれる木の札をライオくんに渡すのだね?」

「そうです。とりあえず今日は紙ですけど」

 トラージさんが紙の食札を渡し、ライオが受け取る。後の人は渡すフリだけやってもらい、繰り返しているうちに何となくシステムは理解してもらえたみたいだった。

「ありがとね、ライオくん。お腹空いてるだろうし、料理を持ってみんなのところに行こうか」

 厨房の調理台には俺とライオの分の料理が残っている。

 するとライオはニカッと笑って、こう言った。

「にーちゃん、おいらの番号を呼んでくれよ! おいらも自分で取りに来てみたい!」

 大人の真似をしたい年頃というか、自分もやりたいという好奇心か。

「わかった。じゃあみんながいる席に座ってくれ」

 茶番と言えば茶番なんだけど、料理を受け取りに来たライオが心底楽しそうな笑顔を見せてくれたので、やってよかったと思った。
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