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第1章 小説の第1章は大体説明みたいな感じだよね
7話 商業ギルドと解消されない悩み
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「あのぉ、飲食店の開業についてお話をお伺いしたいのですが……」
この世界で言葉を交わしたことがある唯一の人、洋服屋のおばちゃんに道を尋ね、何とか商業区にある商業ギルドに辿り着いた。
王都の中央には立派な教会があり、教会を中心に区画整理がされているみたいだ。
教会周辺は宿屋や飲食店が多い中央区と呼ばれる区画で、小規模な店や露店もちらほらと見受けられる。
1番活気があるのが中央区で、俺の店やおばちゃんの洋服屋もここにある。
北部には王城がそびえており、城を守る騎士団の詰所などの軍事施設も存在している。
俺みたいな一般ピーポーには一生縁のない場所だから、遠くからでも見えるお城を「すげぇ!」と小並感溢るる感想と共に眺めるぐらいだろう。
ちなみに城門前の区域は貴族街と呼ばれていて、その名のとおり貴族の屋敷がひしめき合う区域だ。こちらも一生縁がないだろうから正直どうでもいい。
東部には工業ギルドがあり、工業区と呼ばれる職人の街だ。
工房や倉庫や素材屋、職人の住居などが立ち並んでるらしいので、食器の購入や特殊な備品の発注の際には工業区を訪ねるといいらしい。噂だとドワーフも多いのだとか。ドワーフ、気になるな。
西部には商業ギルドがあり、商人の街として商業区と呼ばれている。
大きな商会や中規模の商店が多く、中央区に次いで人通りが多い。安定した量の食材を卸してくれる業者を探すなら、商業区を訪れることになるだろう。各地の珍しい物を買い付けて運んでくる、旅好きのハーフリングという種族も多いらしい。気になる気になる。
南部には農作地が広がっており、農業ギルドが居を構えている。
しかし南部は農業区というわけではなく、冒険者ギルドや街の治安を守る警備隊の詰所なども存在しているらしい。悪い人ではないが冒険者には荒っぽい人も多く、街の治安維持に努める警備隊とはバチバチの関係なんだと。
農業に従事しているのは獣人族が多いらしく、俺の中のモフモフ欲が強く刺激されてしまう。
「それでも種族差別だったり職業差別がないなら、いい政治がおこなわれてるんだろうな」
奴隷制度を禁止するなど、王都はなかなか近代的な法整備が進められているとのこと。異世界もののテンプレでありがちな、特定の種族が虐げられていたり、世界の食糧事情を支えるはずの農業従事者が蔑まれているなんてことはないらしい。
「横柄な貴族様は多いんだけどね」
服屋のおばちゃんは、声を小さくして最後にそう締めくくった。
横柄な貴族というのもテンプレ感満載だが、貴族様なんて俺には縁がないので大丈夫だ。
何はともあれ、今はまず飲食店開業の話を聞くことが先決。
「ほうほう、何を聞きたいのかね?」
対応してくれるのは。齢80は越えているであろう老いぼ、、、おじいちゃん職員。
大好きだったじいちゃんにどことなく似ているので、この窓口が空くのを待ってた。
「基本的なことからすべてです。資金は少しだけ余裕があり、なんとか店舗は借りることができたのですが、田舎の村から上京してきたこともあって、人を雇う方法や営業における注意点などの知識が一切ありませんで……」
道すがら考えてきた設定をスムーズに口にすると、おじいちゃん職員は楽しそうに笑った。
「なるほど、本当にイチから飲食店を始めるというわけか」
「はい」
「ではまず、商業ギルドへの登録が必須だということは知っているかね?」
「はい、近所の人に聞きました」
「ならば話は早いのう。商売に携わる者はみなギルドに登録して、月の純利益の2割を納める必要がある。そうすることで納税が完了するんじゃよ」
「ギルドが徴税を請け負ってるってことですか?」
「そういうことじゃな。商業ギルドが発足する前は、自ら徴税機関へ出向いて納税しておったと聞く」
「うわぁ、めんどくさそう……」
「じゃろう? 今ではギルドに毎月の売上帳簿の提出しさえすれば、後はこちらで徴税から納税まで代行するんで、商売人は楽になったんじゃよ」
商業ギルドが国の管理する機関だからできる芸当だ。
商売人は楽になっただろうが、ギルド職員は大変そうだなと心の中で同情した。
「収支がマイナスだった場合はどうなるんですか?」
「収支がマイナスだった場合、税額が一律金貨1枚になる。それだけは最低でも納めてもらわんといかんということじゃ」
赤字だろうが税が発生するのは当たり前だし、1万円だと考えればむしろ良心的だろう。
「あと、税とは別に年会費として金貨12枚を納めてもらう」
日本円にして約12万円くらいか。価格としては良心的な気がしないでもないが、よくわからんな。
「年会費は1年で金貨12枚を納めてもらえればよいぞ。毎月金貨1枚ずつ納める者もおれば、半年分や1年分をまとめて払う者もおる。もし払えなかった場合は、滞納分を支払い終えるまで営業禁止となるから、気をつけるんじゃぞ」
借金のアテがある人なら滞納分を払って営業再開できるんだろうけど、そうじゃない人は店を休んで別の仕事で稼がないといけないだろうから、実質倒産みたいなもんだな。純粋に怖い。
「納税と年会費についてはわかりました。他に何か注意することはありますか?」
「基本的には自由に商売をしてもらうから、トラブルさえ起こさなかったらそれでよいぞ。ギルドは商売人を手厚くサポートしておるから、店で何か揉め事が起きた場合などは、ギルドに仲裁を頼むこともできるぞ。客とのトラブルだったり他の店とのトラブルだったり、すべてに対応可能じゃ」
一瞬「俺には【防犯の心得】スキルがあるから魅力はないな」と考えたが、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「それって相手が貴族様でも有効ですか?」
「もちろんじゃ。どのギルドも国の管理下にあるから、貴族といえ関係なく公平に裁くことが可能じゃ」
うん、これは魅力的だ。
「あとはギルド内にある掲示板を自由に使うことが可能じゃ。求人だったり店の宣伝だったり、貼りたいチラシを作って持ってくれば、内容に問題がない限りはギルド印を押した上で広告することができる」
ふうむ、店の宣伝は魅力的だが、俺の店は大々的な求人募集をするわけにはいかないので残念だ。
「職を探してる人を街とかで直接雇用することに何か問題はありますか?」
「特段問題はないが、ギルドに出せない求人をする店やギルドの求人を利用しての職探しができない者は訳ありなことが多いぞ」
「あぁそういう落とし穴があるのか」
ギルドの信頼がいかに大きいかわかった気がする。
脛に傷持つ人間や怪しげな商売をしているところはしっかりとふるいにかけた上で掲示許可を出しているのだろう。
「唯一の注意点じゃが、売上帳簿の提出期限は絶対に守ってもらわにゃいかん。翌月の10日までに売上帳簿を提出してもらわんと、こちらも税額の計算が進まんからの」
「あっ、それは要注意ですね」
毎月10日までに帳簿を提出しさえすれば、月末までにギルド職員が徴税にくるという。
提出が遅れてしまった場合、遅延日数に応じた罰金が発生するらしい。遅延損害金みたいなもんだろう。
「いろいろと教えてくださりありがとうございました。まだ営業内容や営業開始日なども決まっていませんので、ある程度目途が立ったら登録しに来ますね」
「おうおう、楽しみにしとるぞ! ワシはオイ=ボレーヌというしがないジジイじゃが、こんな老いぼれでよいならいつでも相談に来なされ」
「わっ、わかりました」
オイ=ボレーヌさんが老いぼれだなんて言うもんだから不意打ちを食らってしまったため、笑い出してしまう前にその場を離れた。
ギルドから出る前に話に出てきた掲示板を見てみると、確かに多種多様な広告や求人、そして求職者の売り込みが掲示されていた。
掲示板の整理をしていたギルド職員にも話を聞いてみると、求職者も所定の金額を支払うことで自分の売り込みチラシを掲示することができるという。
「けどなぁ……」
地球での顔写真付き履歴書を見慣れている俺からすると、求職者の売り込みチラシにはいまいち魅力が感じられなかった。
写真がないからどういった人かわからないし、自分を売り込むために誇張して書かかれている可能性もあるので信用ならない部分がある。
「おっしゃることはわかりますよ。例えばこの計算ができますというのも、雇い主には魅力的で即戦力だと期待させるかもしれませんが、実際は簡単な足し算しかできなかったりすることもありますし」
1枚の売り込みチラシを例に優しく説明してくれた職員さんに礼を述べ、結局求人についての悩みを解消できずにギルドを出るのだった。
この世界で言葉を交わしたことがある唯一の人、洋服屋のおばちゃんに道を尋ね、何とか商業区にある商業ギルドに辿り着いた。
王都の中央には立派な教会があり、教会を中心に区画整理がされているみたいだ。
教会周辺は宿屋や飲食店が多い中央区と呼ばれる区画で、小規模な店や露店もちらほらと見受けられる。
1番活気があるのが中央区で、俺の店やおばちゃんの洋服屋もここにある。
北部には王城がそびえており、城を守る騎士団の詰所などの軍事施設も存在している。
俺みたいな一般ピーポーには一生縁のない場所だから、遠くからでも見えるお城を「すげぇ!」と小並感溢るる感想と共に眺めるぐらいだろう。
ちなみに城門前の区域は貴族街と呼ばれていて、その名のとおり貴族の屋敷がひしめき合う区域だ。こちらも一生縁がないだろうから正直どうでもいい。
東部には工業ギルドがあり、工業区と呼ばれる職人の街だ。
工房や倉庫や素材屋、職人の住居などが立ち並んでるらしいので、食器の購入や特殊な備品の発注の際には工業区を訪ねるといいらしい。噂だとドワーフも多いのだとか。ドワーフ、気になるな。
西部には商業ギルドがあり、商人の街として商業区と呼ばれている。
大きな商会や中規模の商店が多く、中央区に次いで人通りが多い。安定した量の食材を卸してくれる業者を探すなら、商業区を訪れることになるだろう。各地の珍しい物を買い付けて運んでくる、旅好きのハーフリングという種族も多いらしい。気になる気になる。
南部には農作地が広がっており、農業ギルドが居を構えている。
しかし南部は農業区というわけではなく、冒険者ギルドや街の治安を守る警備隊の詰所なども存在しているらしい。悪い人ではないが冒険者には荒っぽい人も多く、街の治安維持に努める警備隊とはバチバチの関係なんだと。
農業に従事しているのは獣人族が多いらしく、俺の中のモフモフ欲が強く刺激されてしまう。
「それでも種族差別だったり職業差別がないなら、いい政治がおこなわれてるんだろうな」
奴隷制度を禁止するなど、王都はなかなか近代的な法整備が進められているとのこと。異世界もののテンプレでありがちな、特定の種族が虐げられていたり、世界の食糧事情を支えるはずの農業従事者が蔑まれているなんてことはないらしい。
「横柄な貴族様は多いんだけどね」
服屋のおばちゃんは、声を小さくして最後にそう締めくくった。
横柄な貴族というのもテンプレ感満載だが、貴族様なんて俺には縁がないので大丈夫だ。
何はともあれ、今はまず飲食店開業の話を聞くことが先決。
「ほうほう、何を聞きたいのかね?」
対応してくれるのは。齢80は越えているであろう老いぼ、、、おじいちゃん職員。
大好きだったじいちゃんにどことなく似ているので、この窓口が空くのを待ってた。
「基本的なことからすべてです。資金は少しだけ余裕があり、なんとか店舗は借りることができたのですが、田舎の村から上京してきたこともあって、人を雇う方法や営業における注意点などの知識が一切ありませんで……」
道すがら考えてきた設定をスムーズに口にすると、おじいちゃん職員は楽しそうに笑った。
「なるほど、本当にイチから飲食店を始めるというわけか」
「はい」
「ではまず、商業ギルドへの登録が必須だということは知っているかね?」
「はい、近所の人に聞きました」
「ならば話は早いのう。商売に携わる者はみなギルドに登録して、月の純利益の2割を納める必要がある。そうすることで納税が完了するんじゃよ」
「ギルドが徴税を請け負ってるってことですか?」
「そういうことじゃな。商業ギルドが発足する前は、自ら徴税機関へ出向いて納税しておったと聞く」
「うわぁ、めんどくさそう……」
「じゃろう? 今ではギルドに毎月の売上帳簿の提出しさえすれば、後はこちらで徴税から納税まで代行するんで、商売人は楽になったんじゃよ」
商業ギルドが国の管理する機関だからできる芸当だ。
商売人は楽になっただろうが、ギルド職員は大変そうだなと心の中で同情した。
「収支がマイナスだった場合はどうなるんですか?」
「収支がマイナスだった場合、税額が一律金貨1枚になる。それだけは最低でも納めてもらわんといかんということじゃ」
赤字だろうが税が発生するのは当たり前だし、1万円だと考えればむしろ良心的だろう。
「あと、税とは別に年会費として金貨12枚を納めてもらう」
日本円にして約12万円くらいか。価格としては良心的な気がしないでもないが、よくわからんな。
「年会費は1年で金貨12枚を納めてもらえればよいぞ。毎月金貨1枚ずつ納める者もおれば、半年分や1年分をまとめて払う者もおる。もし払えなかった場合は、滞納分を支払い終えるまで営業禁止となるから、気をつけるんじゃぞ」
借金のアテがある人なら滞納分を払って営業再開できるんだろうけど、そうじゃない人は店を休んで別の仕事で稼がないといけないだろうから、実質倒産みたいなもんだな。純粋に怖い。
「納税と年会費についてはわかりました。他に何か注意することはありますか?」
「基本的には自由に商売をしてもらうから、トラブルさえ起こさなかったらそれでよいぞ。ギルドは商売人を手厚くサポートしておるから、店で何か揉め事が起きた場合などは、ギルドに仲裁を頼むこともできるぞ。客とのトラブルだったり他の店とのトラブルだったり、すべてに対応可能じゃ」
一瞬「俺には【防犯の心得】スキルがあるから魅力はないな」と考えたが、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「それって相手が貴族様でも有効ですか?」
「もちろんじゃ。どのギルドも国の管理下にあるから、貴族といえ関係なく公平に裁くことが可能じゃ」
うん、これは魅力的だ。
「あとはギルド内にある掲示板を自由に使うことが可能じゃ。求人だったり店の宣伝だったり、貼りたいチラシを作って持ってくれば、内容に問題がない限りはギルド印を押した上で広告することができる」
ふうむ、店の宣伝は魅力的だが、俺の店は大々的な求人募集をするわけにはいかないので残念だ。
「職を探してる人を街とかで直接雇用することに何か問題はありますか?」
「特段問題はないが、ギルドに出せない求人をする店やギルドの求人を利用しての職探しができない者は訳ありなことが多いぞ」
「あぁそういう落とし穴があるのか」
ギルドの信頼がいかに大きいかわかった気がする。
脛に傷持つ人間や怪しげな商売をしているところはしっかりとふるいにかけた上で掲示許可を出しているのだろう。
「唯一の注意点じゃが、売上帳簿の提出期限は絶対に守ってもらわにゃいかん。翌月の10日までに売上帳簿を提出してもらわんと、こちらも税額の計算が進まんからの」
「あっ、それは要注意ですね」
毎月10日までに帳簿を提出しさえすれば、月末までにギルド職員が徴税にくるという。
提出が遅れてしまった場合、遅延日数に応じた罰金が発生するらしい。遅延損害金みたいなもんだろう。
「いろいろと教えてくださりありがとうございました。まだ営業内容や営業開始日なども決まっていませんので、ある程度目途が立ったら登録しに来ますね」
「おうおう、楽しみにしとるぞ! ワシはオイ=ボレーヌというしがないジジイじゃが、こんな老いぼれでよいならいつでも相談に来なされ」
「わっ、わかりました」
オイ=ボレーヌさんが老いぼれだなんて言うもんだから不意打ちを食らってしまったため、笑い出してしまう前にその場を離れた。
ギルドから出る前に話に出てきた掲示板を見てみると、確かに多種多様な広告や求人、そして求職者の売り込みが掲示されていた。
掲示板の整理をしていたギルド職員にも話を聞いてみると、求職者も所定の金額を支払うことで自分の売り込みチラシを掲示することができるという。
「けどなぁ……」
地球での顔写真付き履歴書を見慣れている俺からすると、求職者の売り込みチラシにはいまいち魅力が感じられなかった。
写真がないからどういった人かわからないし、自分を売り込むために誇張して書かかれている可能性もあるので信用ならない部分がある。
「おっしゃることはわかりますよ。例えばこの計算ができますというのも、雇い主には魅力的で即戦力だと期待させるかもしれませんが、実際は簡単な足し算しかできなかったりすることもありますし」
1枚の売り込みチラシを例に優しく説明してくれた職員さんに礼を述べ、結局求人についての悩みを解消できずにギルドを出るのだった。
応援ありがとうございます!
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