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第1章 小説の第1章は大体説明みたいな感じだよね

6話 進むようで進まない計画と軽い眩暈

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「支度金として500万円も用意してくれたってことか。ありがとうございます、女神様」

 冷静に考えるととんでもないことだと気づき、神様は高い所にいるイメージなので、何となく天井を拝みながら改めて感謝した。

「物価は食材が日本より少し安め。その他は変わらないかちょっと高いぐらいだったな。野菜とか果物も大体地球のと同じ感じだったし」

 【共通言語】スキルは、地球に同じものや似たようなものがある場合、地球での名前に翻訳してくれる。
こちらの世界にしかないものはカタカナ表記で固有名詞を表してくれるので、とても有用なスキルだ。

 例えばジャガイモ。
こちらの世界の文字で『ポポタラ』と書かれてるんだけど、視覚を経て俺の頭に入ってくる時に『ジャガイモ』と自動変換される。
もし地球上にジャガイモが存在しなかったとしたら、地球での該当物や類似物なしということで、俺の頭には『ポポタラ』として入ってくるんだろう。どうでもいいけど、ポテサラみたいな名前でちょっとカワイイ。

「調理道具は一式揃ってるし、とりあえず食材と食器類を揃えればよさそうだな」

 支度金500万円は高額なプレゼントだけど、それに胡坐をかいて生活していればすぐなくなるだろう。
【防犯の心得】スキルのおかげで盗難の心配はないけど、俺自身の浪費については意識しないと防げないから要注意だね。金遣いが荒いわけじゃないけど、倹約家ってわけでもないから、お金があったらそこそこ使っちゃうよな。

 となると、行き当たりばったりで買い物をするわけにもいかない。購入するものについてはよく考える必要がある。

「いや、まずは店の営業方針とメニューか」

 固定時間での営業にするか、絶対にやりたくないけどファミレスのように24時間営業にするか。
固定時間での営業なら何時から何時までの営業とするのか。この辺のことはこちらの世界の人の生活リズムとかを知る必要があるから、要調査だな。

「それに、厨房の方は完全にオーバーテクノロジーだからなぁ……。人を雇うにしても、信頼できる人じゃないとめんどうなことになりそう」

 口が軽い人間を雇って、「あの店やばい魔道具が目白押しっすよ!」などと言いふらされようもんなら、面倒なことこの上ない。

 【防犯の心得】スキルのおかげで窃盗などの心配はないけど、電化製品のことを根掘り葉掘り聞き出そうとする人間が『悪意を持った人』に分類されるかわかんないし、興味を持った技術者に押しかけられても困る。

「できるだけ少人数で営業できる内容や方法を考えないとな」

 知る人数が多ければ多いほど、情報は漏れやすいと聞いたことがある。口が堅い人を数人集めることが急務かな。

 そこまで考えて、少々ため息交じりにホールを見回す。

 女神様が用意してくれた店舗は、客席スペースだけでも結構な広さがある。

 1人掛けの席が10席に2人掛けの席が3席、4人掛けの席が1席と6人掛けの席が5席だ。万が一にも全席埋まってしまうと、なんと50名ものお客様が収容できてしまう。

「ノートに妄想してた時は、日本の飲食チェーン店の基準で考えてたからなぁ」

 ホールもキッチンもそこそこの人数が働く体での妄想だったから、一定規模の店舗を思い描いてたんだよな。

 しかし今さらグチグチ言ってもしょうがないと割り切ると、ある機械の存在が思い浮かんだ。

「券売機があれば楽な気がする!」

 全50席のテーブルを見て1度はゲンナリしたけど、そもそも全席使う必要はない。自分の能力で回せそうな席数だけ残して、残りは隅の方に積んでおけばいい。

「最初は物珍しさでお客様も来てくれるかもしれないけど、できたばかりの店だからって混雑するとは限らないし」

 お店が大流行りするパターンで考えてたけど、不審がってお客様がこない可能性もある。いや、可能性があるどころか、そっちの可能性の方が高いかもしれない。

「料理に関しては選択肢は多くないな。店で出してた定食メニューしか作れないし」

 料理が大好きとはいえ、所詮はチェーン店の雇われ店長。調理マニュアルにあったグランドメニューぐらいしかまともに作れない。

 幸いこの世界にも米があるみたいだし、定食屋をやるのに不自由はない。米を見つけた時は思わず小躍りしてしまった。日本人としての米を食べたいという欲求はもちろんあるし、レパートリーのほとんどが定食メニューだから、米がないことには成立しない。パンにも合わないことはないんだろうけど、やっぱり定食といえば米だもんな。

「また市場を覗いてみて、安定して手に入る食材をリサーチしてメニューを決めるか」

 こう考えてみると、スタート時点で問題だらけだ。
メニューを組み立てて必要な食器を購入しないといけないし、食券に変わる営業方法を考えないといけない。人材も探さないといけないし、安定して食材を卸してくれる業者も探さないといけない。

「女神様の手紙にもあったし、まずは商業ギルドに話を聞きに行ってみるか」

ついでに帰り道でいくつか食材を扱うお店を覗いてみて、安定して手に入るものをリサーチしよう。

 【時間管理】スキルで確認すると、時刻は16時過ぎ。空が少し薄暗くなり始めている。

「まだ1日目の夕方なんだよなぁ」

 地球で事故って死んだのが真夜中で、この世界に転移してきたのが昼頃。それから洋服を買いに行ったり、食料を買いに行ったりしてバタバタしてた印象だったけど、まだ半日しか経過していないことに軽い眩暈を覚えた。
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