異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木

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第1章 小説の第1章は大体説明みたいな感じだよね

5話 貨幣価値と文系男

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「麻の服なら1番安いやつで銀貨1枚、ズボンも同じ値段だね」

「あうちっ!」

 勇気を振り絞っていざ外出してみたものの、予想以上に人目を引いてしまったので、予定どおり1番近くにあった洋服屋に飛び込んだ。

 1番安い商品の購入を希望したところ、恰幅の良いおばちゃんから銀貨1枚という情報をいただいたなう。

「金貨の価値がわからないのに、新たな銀貨という存在が出てくるとは……」

 おばちゃんに聞こえないよう小さく呟く。
俺の苦悩など知る由もないおばちゃんは、価格で渋っているとでも思ったのか、さらなる営業トークを繰り出してきた。

「麻のズボンとセットなら銀貨1枚と銅貨8枚にまけとくよ!」

「あうちっ!」

 金貨、銀貨に続いて銅貨まで出てきやがった!
もうやめて! 俺の脳のキャパシティはとっくにゼロよ!

 完全文系脳の俺がこれ以上考えても時間のムダだ。
思考放棄することを決め、「金貨が銀貨に劣ることはないだろう!」という安直な結論の下、1セットの購入を決意した。

「すみません、手持ちが金貨しかないんですけど大丈夫ですか?」

 金貨の実物は出さず、申し訳なさそうにオズオズと尋ねる。申し訳ないとは微塵も思ってないけど、想定以上の価値だった場合を憂慮してだ。

 しかしこちらの心配は杞憂に終わり、おばちゃんはあっけらかんと笑った。

「さっき両替してきたばかりだから、金貨でも大丈夫だよ!」

 よかった!
どうやら金貨は普通に流通しているようなので、安心して取り出すことができる。

「じゃあこれでお願いします」

「あいよ! お釣りの銀貨8枚と銅貨2枚、確認しとくれ!」

 銀色の硬貨8枚と、くすんだ茶色の銅貨を2枚受け取る。

「……確かに。ありがとうございます!」

 何が「確かに」だよと自嘲してしまうけど、とりあえず枚数確認しておけば変には思われまい。

 お釣りと商品を受け取って帰ろうとしていると、おばちゃんが人懐っこそうな笑顔で話しかけてきた。

「あんた初顔だね? 随分と珍しい服を着てるけど、どこから来たんだい?」

 すぐには返事ができなかったけど、これまで読んできた異世界物の小説の知識をフル動員し、勝手な設定を作った。

「名前もないようなかなり田舎の村から出てきました。旅好きだった祖父が旅先で物珍しさに買ってたのを、譲ってもらったんです。都会の人がどんな服を着てるかわからなくて」


 もうずいぶん前に亡くなってしまったけど、実際に俺のじいちゃんは骨董品収集が趣味だった。一風変わったものを集めていて、よくばあちゃんと喧嘩していたな。

「なるほどね! 王都に出てくるからってんで、1番いい服を着てきたってわけかい」

「そんなところです」

 口から出まかせだけど、いい具合に勘違いしてくれたのでよしとしよう。
これ以上話すとボロが出ると判断し、お礼を述べてそそくさと店を出た。

 服屋を出てすぐ店に戻り、お着替え。
靴は革靴のままだったけど、足元は目立たないからしばらく放置でいいな。

 着替え終わったら再び外出。
1番近くの屋台にて肉串なる焼き鳥に近い商品を3本購入し、これまたすぐに帰宅した。

「この肉串が1本銅貨1枚。まさか日本円で1,000円ってことはないよな?」

 焼き上がりを待ってる間に他の屋台も観察したけど、軒並み同じぐらいの値段で料理を出していた。

「たぶん銅貨1枚は100円ぐらいじゃないかな。問題は金貨と銀貨だけど、中古の服やズボンが銀貨1枚なら、銀貨は日本円で1,000円ぐらいか? いや、5,000円って可能性も……」

 完全文系の数字にめっぽう弱い脳が恨めしい。

「けど金貨で払った時のお釣りのことも考えると、銀貨は1,000円で金貨は10,000円ぐらいだと思うんだよなぁ」

 たぶんこういうことだろう。

・銅貨1枚=100円
・銀貨1枚=1,000円(銅貨10枚→銀貨1枚)
・金貨1枚=10,000円(銀貨10枚→金貨1枚)

 結果的にこの推測は当たってたんだけど、確証がなかったからその後もビクビクしながら食材などを購入し、少しずつ確信へと近づけていく、ビビりな俺なのだった。
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