モノクロに君が咲く

琴織ゆき

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4章「臆病だね、君は」

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 そうだ。先輩はすべてを知ったうえで、私と一緒に出かけてくれた。
 この間のように倒れてしまう可能性もあったし、ふたりきりで出かけるなんてきっと怖かったはずなのに、ちゃんと向き合ってくれた。きっとそこに嘘はない。

「なら、それなりの覚悟があるってことじゃないの。知らんけど。でもま、なんにせよそれを受け取っちまった姉ちゃんも、相応の覚悟を持つ必要があるんじゃない」

「う、ん……」

「まあもーすぐ入院だけど」

 ほら立って、と手を差し出された。
 ユイ先輩の繊細な白魚のような指先とは違う。幼かった頃の小さく柔い餅のような手でもなく、角ばっていて無骨な、大人になり始めた男の子の手。
 ──本当に、いつの間にこんなにも、大きくなってしまったのだろうか。
 私はおずおずとそれを掴んで立ち上がりながら、寂しい気持ちを押し隠す。

「先輩ね、お見舞い来るって言ってたよ」

「へえ。最悪」

「あ、そういうところは変わんないんだ」

 帰り際。言い忘れていた入院のことをユイ先輩に伝えたら、どうやらそのことすらも知っていたらしく「お見舞い行くから」と真顔で宣言されてしまった。
 正直なところ、入院中はあまり会いたくない。
 でも、いつ退院できるかわからない状態では断ることもできなかった。
 付き合った矢先に会うことすらも禁じてしまったら、さすがに報われない。
 いつもは病室のベッドでだらけきっているが、今回はなるべく身綺麗にしておく必要がありそうだ。そんなことを、明後日の方向を見つめながら、ぼうっと考える。

「まあ、入院まではのんびりするかなあ。ってことで帰ろうか、愁」

「……帰ったら、とりあえず母さんの手伝いさせられそうだけど。今日は姉ちゃんの好きなじゃがいものポタージュ作るって張り切ってたから」

「えっ、ほんと? 嬉しい!」

 食せるものが限られている今、とりわけスープ系はご褒美のようなもの。
 味はもう感じられない。嗅覚も、少しずつ鈍ってきている気がする。
 それでもお母さんのじゃがいものポタージュは、胸が温かくなるから好きだ。
 泣きそうになるほど愛情がたんまりと籠っているから、好きだ。

「ねえ、愁」

「なに?」

「いつも、ありがとうね」

 一拍遅れて、愁が振り返ることなく「べつに」とつぶやいた。
 その背中が震えているように見えたのは、きっと気のせいだと思うことにした。


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