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symphony 1

隣に引っ越してきたのは②

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「はっはい!」


 それでも私は、お父さんが話しかけてくれたことが嬉しくてお父さんの元に駆け寄る。


「お前の作ったご飯はまずいからもう作らなくていい」


 目も合わせずにぶっきらぼうに放たれた言葉にズキッと胸が痛んだ。

 私は下に三人の妹がいて、長女である自分がしっかりしないと——家事だって私がこなさないといけない。

 だから、頑張りたかった。

 でも、お父さんは「適当にコンビニでおにぎりでも買って食べる」と言葉を続ける。

 私は、ギュッと唇を噛み、喉まで出かかった言葉を呑み込む。

 なんだか私自身を拒否られた気がして、反論しそうになった自分を抑えつけるのに精一杯だった。


 拒否られた気がしてじゃない。——実際、拒否られたのだ。


 私は鈍いけど、そこまで鈍感じゃない。


「……あ、」

 それでもひと言だけ、「頑張るから続けさせてほしい」と言おうとした。


「それから」


 だけど、お父さんの言葉に遮られて、私は再び言葉を呑み込んだ。


「本来なら食べさせる義理もないお前を食わせてやってんだ。そこのところ忘れるなよ?」

「…………」

「返事は?」

「……分かってます」


 私がか細い声で伝えると、お父さんは黙々とタブレットをスクロールさせていた。


✳︎

✳︎
✳︎


 日差しの眩しい午後。

 今日の分の宿題を終わらせた私は、一人で近所の散歩に行くことにした。


 部屋を出て螺旋階段をくだる。

 正直、私の家は大きい。

 家というより洋館だ。


 詳しいことは知らないけど、お父さんはテレビ局の偉い人らしくて、妹たちはよくパーティーやテレビ局に連れて行かれていた。

 私はパーティーには呼ばれるけど、テレビ局に連れて行かれたことは一度もない。

 妹たちには甘いお父さんがなんで私にだけ冷たいのか。——その理由を私は長らく知らなかった。



 お父さん方の伯父さん家族と同居していて、伯父さんは森田財閥の会長だったりする。

 だからお金持ちの部類に入るらしい。

 部外者である私には関係ないことだけど。


 そんな我が家だから、とにかく門構えも立派だ。


 そんな正門に、今日は見慣れない男の子がいた。

 なんだろ? うちに用かな?

 そう思って彼に近づいた。


「これ、家かぁ⁇」

 男の子は私の家をまじまじと眺め、そんなことを呟いている。


「あの、うちになにか用ですか?」

「え?」


 顔をあげた彼を見て私は驚いたし、彼も驚きを隠せないようだった。


「ブリンセス——‼︎」



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