上 下
3 / 9
symphony0

犬猿の仲①

しおりを挟む

✳︎
✳︎
✳︎



symphony 0

犬猿の仲




✳︎



 私と健ちゃんは子どもの頃は仲が悪いことで有名だった。

 顔を合わせればケンカをしてたし、付き合い始めた頃は、いろんな人に驚かれたものだ。

 それでも1番驚いたのは自分自身だと思う。

 まさか私が良ちゃん以外の人と付き合うなんて想像すらしたことなかったし、健ちゃんは口うるさいお兄ちゃんって感じだったから。


 私たち3人のことを話すには、幼稚園の頃まで時間をさかのぼる——。




✳︎
✳︎
✳︎


「由香理ちゃん!」

 大好きな良ちゃんこと立花良一たちばなりょういちくんの姿を見つけると、私はいつも全速力で駆け寄る。

「良ちゃん‼︎」

 満面の笑みで良ちゃんを出迎えると、幼稚園の園庭にある砂場まで急いだ。


 私、森田由香理もりたゆかりと良ちゃんは、同じ日に同じ病院で生まれて以来、ずっと一緒。

 生まれた時間は私の方が早いから、ちょっぴり私がお姉さん。

 って言っても、5時間だけだけど。


「大きくなったら結婚しようね‼︎」


 良ちゃんとは家もお隣同士で、将来は良ちゃんと結婚するんだ!——そんなことを本気で信じていた。



 そんな夢見がちな私をいつもバカにして突っかかって来てたのが1歳年上の健ちゃん。

「バッカじゃねーの! さすがは夢の国のブリンセスだな‼︎」

「なによ‼︎ ケンボーには関係ないことでしょ‼︎」

「また始まった……」

 いつもの言い合いにあきれる良ちゃんもいつものこと。

 ちなみに、健ちゃんの言った「ブリンセス」というのは「ブス+プリンセス」で「ブリンセス」らしい。



「もー! ケンボーまじでムカつく‼︎」

「あんなヤツ相手にすることないよ」

 健ちゃんとの言い合いでイラつく私を慰めるのもいつもの良ちゃんの役割だ。

 これが幼稚園の頃の私たち3人の朝の日課。

 良ちゃんと遊んで、健ちゃんとケンカしては良ちゃんに慰めてもらう。

 そんな毎日だったけど、私は楽しかった。

 そして、そんな日々が永遠に続くんだって信じて疑わなかった。——というより、〝別れ〟ってものを理解していなかった。

 だから、変わらないんだって思ってた。


 お母さんから良ちゃんが引っ越す話を聞くまでは。


「え……。良ちゃん、遠くに行っちゃうの?」

「そう」

 お母さんは申し訳なさそうにうなずく。

 なんでお母さんが申し訳なさそうなんだろう? とか、そんなことはどうでもよかった。

 それより、たった今突きつけられた現実を理解するだけで、私の心は苦しみを感じたから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...