それはたった一粒の宝石

そらいろ

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 12月25日。
 昨日よりも多くの人がケーキを求めてずらりと店内、いや外にまで人の列は出来ていて水城は休憩もまともに無い程忙しく接客に追われている。だけれど、何時も以上に有馬を待っている自分が何処かポツンと寂しく居て、時間の経過がとても長く感じてしまっていた。 

 何度目になるか分からない。壁に掛かった時計を見ては時刻を何時も以上に確認してしまう。

(まださっきから3分も経っていない)

 その現実に水城は落胆する。

(今日は要君に告白する)

 それは水城の決意だ。
 彼の為に徹夜して作った、世界に一粒の特別なチョコレートを有馬へ渡す為に、思いを伝える為に、本人が店へ訪れるだろうその時を水城は待つ。


 カラン。
 客が来たと教えてくれる鐘の音は止まらない。
 カラン。
 何度も何度もそちらを見る。
 カラン。
 見ては違うと落胆するも、笑顔は絶やさず歓迎する。


 時計の針は遂に閉店を知らせる。
 待ち人は、今日来なかった。


 店に残ったのは、ショーケースに並ぶことの無いチョコレートが一粒だけ。



 水城以外、誰も居なくなった店内は先程までの賑やかさが嘘のようにシンとしている。外に飾っていたイルミネーションを片付け、看板の電源も切れば 物寂しさを感じる。
 明日は店休日なので、簡単に掃除を終えゴミ捨ても済まし、表の戸締まりをして後は着替えるだけと裏口へ足を運ぼうとした時だ。


「あの……!」

 水城の耳に届く。
 それは、今日一日ずっと、ずっと待ち望んでいた声。
 直ぐに声の方向へ振り返れば、顔が吐く白い息に包まれ真っ赤なお鼻をした有馬がいた。

「要君!」
「み、水城さん……。良かった……まだ居た……」

 切れ切れの言葉で、有馬がどれだけ急いで店まで来たのかが分かる。

「とりあえず、店に入ろう」

 関係者以外は当然立入禁止の裏口へと有馬を誘導する。
 簡易の椅子に座らせて、水城は温かい紅茶をマグカップに淹れて有馬へと渡した。
 一口、有馬は紅茶を口に含む。

「……美味しい!キャラメルの甘い味がする……!」
「フレーバーティーなんです。ミルクティーにするのもおすすめですよ」

 そう言う水城に、有馬は「水城さんのおすすめは本当にどれも美味しくて大変です」と両手にマグカップを持って呟く。

「そういえば……いらっしゃいませ」

 向かい合って座った状態で水城はにっこりと歓迎の言葉をかける。

「あっ。こんばんは……あの、本当にごめんなさい。こんな遅い時間に……」

 バツが悪そうに謝る有馬に対して、水城は会えた嬉しさが隠し切れていない表情だ。

「いえ!今日は会えないと思っていたんで、とっても嬉しいですよ。それに、周りも気にせずこうして二人でって初めての事で少し緊張しちゃいます……なんてね」

 冗談っぽく言った本心は、有馬に伝わり顔全体が真っ赤に染まる。

「今日から学校が冬休みで、本当は休みの期間中は店に行かないつもりだったんですけど、その……あの、水城さんのチョコがどうしても食べたくて我慢出来無くて……」

 俯いてマグカップを見つめながら有馬は話す。

「何でもいいんでチョコレートを一粒……ください」
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