それはたった一粒の宝石

そらいろ

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 翌日。夕刻を時計の針が指す。昨日を振り返っても眠って朝を迎えてもまだ平日に埋もれる世の中。
 店の窓から見えるのは、学生達が賑やかに仲間を連れて帰路についている姿。一日を通してわりと穏やかな時間が流れている店内は仕込みも程々に済ませ、事務作業をする水城が一人パソコンに向かっているだけだった。

 カラン。客人が扉を開けたときにだけ鳴る音が響けば、意識しなくとも水城はそちらを見る。

「いらっしゃいま……せ」

 始めはいつも通りにこやかに。その相手が分かると目を丸めて驚きに。水城の表情は面白い程に変化した。

「こんばんは」

 ゆっくりと閉まる扉の前には昨日の晩、そう丁度今から24時間前に見送った直後から会いたかった彼だ。

「今日も、来てくれたんですね」
「はい。昨日、おすすめしてくれたチョコを食べたら、すっごく美味しくて感動してしまって、今日も食べたくて気づいたらお店に来てました」

 笑う顔にやはり水城はドキドキした。

「ホントですか!ありがとうございます。そう言って貰えると作り手をしていて良かったです」

 胸の高鳴りは止まらない。感想を言ってもらい返す言葉が緊張で少し震えている。

「今日はどれにしようかなぁ」とチョコレートが並ぶショーケースを覗きながら口元に手を当て、彼は悩ませている。チョコレートを美味しく見せる為のショーケースにある照明なのに、その光はガラスを通して彼の白く艷やかな肌を照らしている。

「綺麗……」

「『キレイ』?」

 水城の言葉をそのまま彼は繰り返し、並ぶチョコレートの先頭に立つプレートを目で追っていく。

「ぐっ……『グレイ』です!これなんですけど、紅茶のアールグレイの香りを移した生クリームをガナッシュに使っていて、紅茶が好きな方には人気なんです」

 表に出てしまった言葉を水城は、なんとか別のワードで誤魔化した。

「美味しそう!ぼっ…俺、チョコも好きだけど紅茶も好きなんです!」

 彼は『僕』と言いかけた一人称を『俺』に言い直した。きっとまだ、使い慣れていないんだろう。

「今日はこちらにしますか?」

 ショーケースの上から彼とチョコレートを同時に水城は覗く。

「うん。これにします。一粒ください」

 羨ましい。
 一日一粒、彼に持ち帰られる思いが詰まったチョコレート一粒に水城は妬いていた。
 彼と共に帰るそのチョコが羨ましく、見送る背中が見えなくなっても、その残像だけを追う。次に会う約束なんて当然していない。この店でしか再会は望めない。
 待つことしか出来ない水城と来ることも来ないことも選べる彼。

 水城はただ待ち続けた。
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