猫の花屋さん

そらいろ

文字の大きさ
上 下
3 / 3

three

しおりを挟む
 その日は朝から空が暗く、花屋の開店時間になった時には雨が降り始めていた。徐々に強くなっていった大粒の雨はアスファルトに打ちつけられて、水滴の集まりをあちこちに広げていく。

(少し、寒い……)

 雨のせいで冷たくなった花屋の床に寝そべり出来るだけ身体を小さくして、自身の体温で温かさを保つ。
 室内でこれだけ寒いんだから、外はもっと震えるほど気温が下がっているんだろう。と頭の中で思いながらも時計をチラリと見た。時間なんて分からない。ただ俺は、短い針と長い針が決まった位置になると彼が現れると知っているだけ。

(あ。もうすぐ来る)

 寝ている場合では無いと、すぐに起き上がりドアガラス越しに外を見た。

(え……?) 

 いつもの男の子は、頭からずぶ濡れだった。
 傘を持っている様子も無い。
 それでもいつもと変わらず花を見つめていた。優しい表情で。
 あまりに心配になった俺は、重たいドアガラスの側へ行き、カリカリと爪を立てて扉を開けるように音を鳴らす。
 彼は、やっぱり僕に気づかない。
 彼の周りの地面はポタポタと彼から落ちる水滴で染みを作っていた。

(このままじゃ風邪、引いちゃう……)

「ふんにゃぁー!!」

 大きく喉を動かし、鳴き声を出す。
 すると、すぐに奥からパタパタと飼い主である店主がやってきた。俺が大きな鳴き声を出すなんて珍しいものだから、様子が気になったのだろう。

「なに?どうしたの?」

 やってきた店主は、扉の外から花を見る少年にすぐ気づいた。

「え。ちょっと、びしょ濡れじゃない!」

 あまりに雨に打たれて濡れている彼を見て、店主は慌てて扉を開ける。カラカランと荒々しく鈴は音を奏でた。
 それでも、彼は店主にまったく気づいていない。

「ねぇ、君。とりあえず中においで?」

 濡れた服を纏う彼の肩に店主がそっと手を掛けようとすれば、彼はとても驚いた表情をして走って店から離れていった。
 まだ、降りしきる雨の中。姿を消したんだ。

---
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

ダンス練習中トイレを言い出せなかったアイドル

こじらせた処女
BL
 とある2人組アイドルグループの鮎(アユ)(16)には悩みがあった。それは、グループの中のリーダーである玖宮(クミヤ)(19)と2人きりになるとうまく話せないこと。 若干の尿意を抱えてレッスン室に入ってしまったアユは、開始20分で我慢が苦しくなってしまい…?

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

風邪ひいた社会人がおねしょする話

こじらせた処女
BL
恋人の咲耶(さくや)が出張に行っている間、日翔(にちか)は風邪をひいてしまう。 一年前に風邪をひいたときには、咲耶にお粥を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったりと甘やかされたことを思い出して、寂しくなってしまう。一緒の気分を味わいたくて咲耶の部屋のベッドで寝るけれど…?

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

平熱が低すぎて、風邪をひいても信じてもらえない男の子の話

こじらせた処女
BL
平熱が35℃前半だから、風邪を引いても37℃を超えなくていつも、サボりだと言われて心が折れてしまう話

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

処理中です...