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無二-only-3
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「これからも見守っててくれない?俺のことを……見ていて欲しい。近くじゃなくていいから。『俳優・結埜』は今よりもっと売れる。俺はもっと上に行く。国内だけじゃなくて、世界で知られる俳優になるんだ。だからそれまで、ずっとずっとさ……」
「うん。約束、するよ」
握られっぱなしの朱斗はこの時初めて結埜の手を握り返しその約束を誓った。
結埜が初主演のオーディションを掴みとった後に生まれたその夢は彼自身の夢だ。誰がとか、巡がとか関係ない。心の底にあった彼が未来を目指して歩くための夢。巡が亡くなったことで得た俳優としての仕事を経て、その思いは強くなったのだろう。
「結埜さんは誰の代わりにもなれない立派な俳優さんになるよ。だから、巡さんを大切にしてあげてね。こんなに愛されている人の代わりは他人では成しえないんだから」
「そうだね。ほんとにその通りだよ。巡は巡だよね。ごめんね……朱斗くん」
それから、結埜は巡と撮った最後の写真を見せてくれた。
「男、だったんだ……」
話の中心にいた巡が男性という事実に驚きながらも写真をよく見ると、確かに朱斗に表情も笑い方も似ていた。少し違うといえば朱斗よりも華があり明るい雰囲気が溢れている。どこか幼い印象を受けたのは、彼は二十歳になる前に亡くなったからだそうだ。
「可愛いでしょ」と自慢する結埜は儚げだけども 幸せそうだった。きっとこれからも事実を受け入れながら前に進むんだろう。
「強いな。結埜さん」
「全然。弱いよ?俺」
「巡さんを思い出せばまた強くなれますよ」
朱斗自身も強くならなければと、奮い立たせていた。樹矢の居ない非日常を受け入れて、一人でも強く進まないといけないなと決意した。
「そういえば、好きな人の側に居られないって言ってたね?」
「あっ……そう、なんですよ……」
「あんまり深入りは良くないよね。ごめんね」
一気に表情が負になり曇る朱斗の様子に結埜はそれ以上、詮索することを止めた。
___rrr
一瞬の沈黙を携帯の着信音が横切った。音の持ち主は朱斗だ。
すぐに携帯を取り出して、着信相手の名前を確認すると全身の毛がゾワッと逆立つように気分が上がった。『樹矢』というたった二つの漢字が並べられているだけなのに、心が大きく跳ねている。
「っ……」
出たい。
このボタンをスライドさせれば、すぐに愛する人の声が聞ける。突然目の前にぽんっと現れて置かれているその幸せをすぐ掴んで手にしたいと朱斗は思った。
(けど……)
結埜の前で電話の相手に応えることを朱斗は躊躇ってしまった。自分の恋人はモデルであり、かつ男だと知られてしまうかもしれない。樹矢のプライベートを守るためにも会話を聞かれるのは困る。
「出ないの?」
「あっ、えーっと……はい。いいんです」
笑って誤魔化してみるが、きっと笑えていない。と朱斗自身も分かりながら、恋人から鳴り続ける音を流したまま携帯をズボンのポケットへ戻した。
「うん。約束、するよ」
握られっぱなしの朱斗はこの時初めて結埜の手を握り返しその約束を誓った。
結埜が初主演のオーディションを掴みとった後に生まれたその夢は彼自身の夢だ。誰がとか、巡がとか関係ない。心の底にあった彼が未来を目指して歩くための夢。巡が亡くなったことで得た俳優としての仕事を経て、その思いは強くなったのだろう。
「結埜さんは誰の代わりにもなれない立派な俳優さんになるよ。だから、巡さんを大切にしてあげてね。こんなに愛されている人の代わりは他人では成しえないんだから」
「そうだね。ほんとにその通りだよ。巡は巡だよね。ごめんね……朱斗くん」
それから、結埜は巡と撮った最後の写真を見せてくれた。
「男、だったんだ……」
話の中心にいた巡が男性という事実に驚きながらも写真をよく見ると、確かに朱斗に表情も笑い方も似ていた。少し違うといえば朱斗よりも華があり明るい雰囲気が溢れている。どこか幼い印象を受けたのは、彼は二十歳になる前に亡くなったからだそうだ。
「可愛いでしょ」と自慢する結埜は儚げだけども 幸せそうだった。きっとこれからも事実を受け入れながら前に進むんだろう。
「強いな。結埜さん」
「全然。弱いよ?俺」
「巡さんを思い出せばまた強くなれますよ」
朱斗自身も強くならなければと、奮い立たせていた。樹矢の居ない非日常を受け入れて、一人でも強く進まないといけないなと決意した。
「そういえば、好きな人の側に居られないって言ってたね?」
「あっ……そう、なんですよ……」
「あんまり深入りは良くないよね。ごめんね」
一気に表情が負になり曇る朱斗の様子に結埜はそれ以上、詮索することを止めた。
___rrr
一瞬の沈黙を携帯の着信音が横切った。音の持ち主は朱斗だ。
すぐに携帯を取り出して、着信相手の名前を確認すると全身の毛がゾワッと逆立つように気分が上がった。『樹矢』というたった二つの漢字が並べられているだけなのに、心が大きく跳ねている。
「っ……」
出たい。
このボタンをスライドさせれば、すぐに愛する人の声が聞ける。突然目の前にぽんっと現れて置かれているその幸せをすぐ掴んで手にしたいと朱斗は思った。
(けど……)
結埜の前で電話の相手に応えることを朱斗は躊躇ってしまった。自分の恋人はモデルであり、かつ男だと知られてしまうかもしれない。樹矢のプライベートを守るためにも会話を聞かれるのは困る。
「出ないの?」
「あっ、えーっと……はい。いいんです」
笑って誤魔化してみるが、きっと笑えていない。と朱斗自身も分かりながら、恋人から鳴り続ける音を流したまま携帯をズボンのポケットへ戻した。
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