あんたは俺のだから。

そらいろ

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誰-who-5

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「巡は……俺の恋人だったんだ」

 ポツリと話しだした結埜は運転しながら前を向いているのに、頭に残っている記憶の中に居るみたいだった。過去を懐かしむ……というよりその過去から動けずにそこにずっと立ち止まっている。過去の結埜の隣にはきっと、その恋人もいるのだろう。

「高校生の頃に出会って第一印象からすっごい明るくて、誰にでも優しくて、巡を嫌いなんて話を聞いたことは無かった。まぁ、愛されキャラってやつ?」

 朱斗は頷きもせず、結埜のペースで話す過去の話を静かに聞いている。

「ほんと可愛くてさ。ただ友達として仲良く出来れば良いって思ってた。同じクラスになった時もつるんでたグループは全然違ったんだけど少しずつほんとに少しずつ近くに居られるようになって、あいつにとって頼ったり、相談してくれたりする相手が俺だったらなって、それだけで良いやって思ってたんだ……。そしたらさ、巡から告白してきてくれた」

 柔らかく微笑むその目には巡が映っているんだろう。目頭が熱くなっている。その先の幸せを思い出したくないと、心が拒んでハンドルを握る手が震えている。

「恋愛関係になりたいって心の底では思ってたからもちろん受け入れた。付き合えて……幸せだったよ。本当に幸せだった。近くにいるだけだった頃よりも笑顔が絶えなくて」

 笑ってる。結埜は幸せな思い出話をして目に涙を溜めながら笑っている。愛が生み出したその笑顔が眩しい。
 素敵なその顔を見て朱斗はシャッターを切りたいと思った。この表情を残してこんなにも貴方は愛されているんだよと彼の恋人に見せたいと思った。

「高校を卒業したら一緒に住み始めて、狭い部屋だったんだけどそれが居心地よくってさ。俺はいろんなバイトしながら目指してた俳優のオーディション受けまくってて、巡は好きだった星の勉強しに頭いいとこの大学に通ってたな」

 少し見上げる。
 星なんて見えない都会だ。
 見ようと探してもただただ黒く暗く、晴れていても靄がかかって空気は澱んでいる。綺麗に晴れたと空を見ても星が彼らを照らしてくれる事は無い。

「そういえば、星を見によくドライブしてたっけ?夜に家を出て、レンタカーで少し遠くに行ってさ。いろんな星の名前教えてくれたな……」

 これは思い出話だ。共有できない思い出だから頷くことも肯定も朱斗はできない。なのに結埜は、なぜか朱斗を巡と重ねるように時々話す。

「急だった。主演オーディションの最終審査が始まる直前に警察から電話が来て……、巡が事故に巻き込まれて即死したって」

 きっと結埜は見えない星を追いかけるように今日まで何度も何度も一人で空を見上げているんだろう。
 彼の話す恋人は、あまりに遠い存在であまりに近い過去の人だった。
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