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誰-who-4
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「ご、ごめ……っごめん」
「結埜さんっ、ハンカチ!使って!」
「う……ん」
朱斗から受け取ったハンカチで、目元を抑える。擦ると後に目が腫れてしまうのを知っているのは、さすが俳優さんだと思わされた。
滲みは、床に滲んだまま。その日は消えることはなかった。
――
大将に心配されながら朱斗達は店を出て、駐車場へ向かう。
「ありがとうございます。ご馳走になっちゃって……」
「んーん、なんかみっともないとこ見せちゃってごめんね」
「俺は大丈夫なんですけど……。あの、結埜さん……」
「ん?」
暗闇の道で立ち止まる。隣を歩いていたのに、結埜が1歩先に行く。振り返ると、朱斗は辛そうな顔をして、結埜を見ていた。
その顔を見た結埜は、心にズキンと釘を打たれたように痛くなった。
(痛い。痛い。そんな顔をしないで。そんな顔をさせたなら謝るから。命なら授けるから、お願い。もう、悲しまないで)
「結埜さん。……傷ついてるんですよね?心、痛いんですよね?」
朱斗は手を伸ばさない。今度は触れないようにと手を握りしめる。
何が引っかかっているか気づいた。結埜と接して、どうして樹矢をこんなに思うのか、やっと分かった。
(樹矢に出会ったとき、あいつも……傷ついた顔してた)
「笑顔なのに、笑ってない」
そう。笑わない笑顔。
樹矢も同じだった。
出会った頃、そこから親しくなっていった頃、笑う顔には靄がかかっていて心が傷ついているようだった。この世に一度絶望して周りに頼れる人も居ない、いや頼ろうともしない樹矢の心の内に朱斗は気づき愛を知って知らされて惹かれ、そばにいることを誓った。
(だから重なってたんだ)
笑う顔も似ていて、心を護る言葉を常に並べている。
(けど、一つ腑に落ちない。俺に向ける視線があまりに……)
「俺……誰かに見えますか?」
結埜はハッとした。
見透かされた……。そんな顔をしていた。
伸ばす手が震えていて、また心配になる。
もう踏み出さなくても触れられる。あまりに彼らは近かった。
「めぐ……る……。めぐる……巡。巡」
名前を呼ぶ。
さっき間違えて呼びかけていた『メグ』は巡のことか。と理解できた。
「ずっと、会いたかったんだ……ずっと、ずっと、あの日から俺は……俺は前に進めてないんだ」
朱斗の頭に置かれた結埜の掌。あまりに優しくポンポンとする。その行動に樹矢をまた重ねる。
「結埜さん。俺は朱斗ですよ」
「ふふっ、そうだね……」
苦しく笑う。見ている朱斗の心も苦しくなってきた。縄でギュッと締め付けられるというより、じわりじわりと嫌に痛めつけられている苦しさだ。足掻けばより痛くて、足掻くことを止めても痛い。まさに、地獄だ。
「朱斗くん。俺の家に寄っていかない?」
「もちろん何もしないから」と言い、再び歩き出す。顔が見えない。少し前を歩く結埜に朱斗はついて行くだけだった。
(助けてあげたい。あまりに苦しい結埜さんの心を軽くしてあげたい)
まだ事情もちゃんと分かっていないながらに、そう思うのはエゴなのか。同情なのか。分からない。
男の恋人がいるのに、出会ったばかりの男の家に行くことに躊躇しながらも今を逃してはずっと彼は苦しんで生きていきそうな予感がして、断れなかった。
「俺が運転するね」
朱斗が助手席に座りシートベルトをしたことを確認して、結埜はエンジンをかけ彼の家に向かって車が発進する。
「結埜さんっ、ハンカチ!使って!」
「う……ん」
朱斗から受け取ったハンカチで、目元を抑える。擦ると後に目が腫れてしまうのを知っているのは、さすが俳優さんだと思わされた。
滲みは、床に滲んだまま。その日は消えることはなかった。
――
大将に心配されながら朱斗達は店を出て、駐車場へ向かう。
「ありがとうございます。ご馳走になっちゃって……」
「んーん、なんかみっともないとこ見せちゃってごめんね」
「俺は大丈夫なんですけど……。あの、結埜さん……」
「ん?」
暗闇の道で立ち止まる。隣を歩いていたのに、結埜が1歩先に行く。振り返ると、朱斗は辛そうな顔をして、結埜を見ていた。
その顔を見た結埜は、心にズキンと釘を打たれたように痛くなった。
(痛い。痛い。そんな顔をしないで。そんな顔をさせたなら謝るから。命なら授けるから、お願い。もう、悲しまないで)
「結埜さん。……傷ついてるんですよね?心、痛いんですよね?」
朱斗は手を伸ばさない。今度は触れないようにと手を握りしめる。
何が引っかかっているか気づいた。結埜と接して、どうして樹矢をこんなに思うのか、やっと分かった。
(樹矢に出会ったとき、あいつも……傷ついた顔してた)
「笑顔なのに、笑ってない」
そう。笑わない笑顔。
樹矢も同じだった。
出会った頃、そこから親しくなっていった頃、笑う顔には靄がかかっていて心が傷ついているようだった。この世に一度絶望して周りに頼れる人も居ない、いや頼ろうともしない樹矢の心の内に朱斗は気づき愛を知って知らされて惹かれ、そばにいることを誓った。
(だから重なってたんだ)
笑う顔も似ていて、心を護る言葉を常に並べている。
(けど、一つ腑に落ちない。俺に向ける視線があまりに……)
「俺……誰かに見えますか?」
結埜はハッとした。
見透かされた……。そんな顔をしていた。
伸ばす手が震えていて、また心配になる。
もう踏み出さなくても触れられる。あまりに彼らは近かった。
「めぐ……る……。めぐる……巡。巡」
名前を呼ぶ。
さっき間違えて呼びかけていた『メグ』は巡のことか。と理解できた。
「ずっと、会いたかったんだ……ずっと、ずっと、あの日から俺は……俺は前に進めてないんだ」
朱斗の頭に置かれた結埜の掌。あまりに優しくポンポンとする。その行動に樹矢をまた重ねる。
「結埜さん。俺は朱斗ですよ」
「ふふっ、そうだね……」
苦しく笑う。見ている朱斗の心も苦しくなってきた。縄でギュッと締め付けられるというより、じわりじわりと嫌に痛めつけられている苦しさだ。足掻けばより痛くて、足掻くことを止めても痛い。まさに、地獄だ。
「朱斗くん。俺の家に寄っていかない?」
「もちろん何もしないから」と言い、再び歩き出す。顔が見えない。少し前を歩く結埜に朱斗はついて行くだけだった。
(助けてあげたい。あまりに苦しい結埜さんの心を軽くしてあげたい)
まだ事情もちゃんと分かっていないながらに、そう思うのはエゴなのか。同情なのか。分からない。
男の恋人がいるのに、出会ったばかりの男の家に行くことに躊躇しながらも今を逃してはずっと彼は苦しんで生きていきそうな予感がして、断れなかった。
「俺が運転するね」
朱斗が助手席に座りシートベルトをしたことを確認して、結埜はエンジンをかけ彼の家に向かって車が発進する。
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