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誰-who-2
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「もうすぐですか?」
「そうだねー。あっ、その道入ってもらって……」
結埜に案内されるがままに、朱斗はハンドルを切り目的地に向かう。運転中も結埜からの視線を感じていたが、なるべく目は合わないように。むしろ気にしないように意識をしていた。
「あ!ここだね。めぐ……っ、須藤さん!」
結埜はなぜか焦って名前を呼び直した。
(めぐ……?めぐみ?めぐ?もしかして、結埜さんの彼女の名前……とかかな)
気になりつつも彼女さんの話とかでプライベートに踏み込むのは止めようと、朱斗は忘れることにした。
お店の近くの駐車場も空いていて、無事に目的の場所に着く。
「ほんとに、こ……こ?」
そのお店は、のれんや看板なんて無く中からの電気は漏れているがとても営業しているなんて思えない外観だった。
「ささ、入ってー」
結埜はカラカラと心地よい戸車の音を奏でて、引き戸を開ける。先に入った朱斗の目の前に広がるのは、ずらりと並んだお魚に板前さんの居るカウンターと椅子のみの立派なお寿司屋さんだった。
「す、ご……」
回らないお寿司屋さんに来たことがなかった朱斗は、初めての空間と雰囲気に少し緊張する。いつもの猫背が更に丸まっていた。
「大丈夫だよ。そんな緊張しないで」
朱斗の丸い背中に手を添えて、結埜は耳元で囁く。
「こんばんは。お久しぶりでーす」
「おお!っらっしゃい!結埜くん、ひさしぶりじゃー!」
「ども。今日、美味しい魚あります?」
「あるよあるよー!さ、どうぞどうぞ」
席の案内をしてもらい、流されるままに座る。
すぐ前にはキラキラと光る様々な種類の魚達が美味しそうに並んでいる。
「好きなの頼みなね?」
「あ、っと……はい」
「大将。とりあえず、今日のおすすめとか握ってもらえます?」
「はいよー!」と、漫画やテレビでしか見たことの無いやりとりを現実に起こっていて、朱斗はただただ眺めていた。
「よく、このお店に来るんですか?」
「ちょくちょく。かな?っても……」
「それにしても珍しいねぇー、結埜くんが友達を連れて来るなんて」
会話を大将が遮る。
「そうなんですよー。今日、仕事で一緒だったカメラマンさんで。彼、すごく腕が良いんですよ」
「ほんとか!なら今度ウチの店を撮ってくれよ!」
「ぜひ、撮らせてください!」
(とても気さくな大将だなぁ。というか、いつもは結埜さん、一人でここに来るんだ)
結埜のことを一つ知った。
「お酒、呑む?帰り、俺が運転するよ?」
「大丈夫、です。明日も撮影あって早いんで……」
「そっか、忙しいんだね」
「結埜さんほどじゃ無いですよ」
「俺はそんなに……いや、忙しいかな?」
意地悪く笑ってみせる。
その顔が少し可愛くて、安心しきったような表情で、朱斗は心地良かった。
「なんか、お二人さん良い雰囲気だねぇー」
「「え?」」
大将の言葉にドキッとする。恐らく結埜も同じだろう。
(やばい……この感じは、なんかやばい……)
危機感を感じた朱斗は、大将のその一言から結埜の方を見ることを止めた。踏み込まない。近づかない。固く決めた意志を視線が合わさることで、すぐに崩壊すると感じた。
その崩壊は樹矢への罪悪感の始まりでは無く、また何か違うものへの始まりを迎える予感がしていた。
朱斗にとっては最低で、結埜にとっては最高なことをそれは意味していた。
「そうだねー。あっ、その道入ってもらって……」
結埜に案内されるがままに、朱斗はハンドルを切り目的地に向かう。運転中も結埜からの視線を感じていたが、なるべく目は合わないように。むしろ気にしないように意識をしていた。
「あ!ここだね。めぐ……っ、須藤さん!」
結埜はなぜか焦って名前を呼び直した。
(めぐ……?めぐみ?めぐ?もしかして、結埜さんの彼女の名前……とかかな)
気になりつつも彼女さんの話とかでプライベートに踏み込むのは止めようと、朱斗は忘れることにした。
お店の近くの駐車場も空いていて、無事に目的の場所に着く。
「ほんとに、こ……こ?」
そのお店は、のれんや看板なんて無く中からの電気は漏れているがとても営業しているなんて思えない外観だった。
「ささ、入ってー」
結埜はカラカラと心地よい戸車の音を奏でて、引き戸を開ける。先に入った朱斗の目の前に広がるのは、ずらりと並んだお魚に板前さんの居るカウンターと椅子のみの立派なお寿司屋さんだった。
「す、ご……」
回らないお寿司屋さんに来たことがなかった朱斗は、初めての空間と雰囲気に少し緊張する。いつもの猫背が更に丸まっていた。
「大丈夫だよ。そんな緊張しないで」
朱斗の丸い背中に手を添えて、結埜は耳元で囁く。
「こんばんは。お久しぶりでーす」
「おお!っらっしゃい!結埜くん、ひさしぶりじゃー!」
「ども。今日、美味しい魚あります?」
「あるよあるよー!さ、どうぞどうぞ」
席の案内をしてもらい、流されるままに座る。
すぐ前にはキラキラと光る様々な種類の魚達が美味しそうに並んでいる。
「好きなの頼みなね?」
「あ、っと……はい」
「大将。とりあえず、今日のおすすめとか握ってもらえます?」
「はいよー!」と、漫画やテレビでしか見たことの無いやりとりを現実に起こっていて、朱斗はただただ眺めていた。
「よく、このお店に来るんですか?」
「ちょくちょく。かな?っても……」
「それにしても珍しいねぇー、結埜くんが友達を連れて来るなんて」
会話を大将が遮る。
「そうなんですよー。今日、仕事で一緒だったカメラマンさんで。彼、すごく腕が良いんですよ」
「ほんとか!なら今度ウチの店を撮ってくれよ!」
「ぜひ、撮らせてください!」
(とても気さくな大将だなぁ。というか、いつもは結埜さん、一人でここに来るんだ)
結埜のことを一つ知った。
「お酒、呑む?帰り、俺が運転するよ?」
「大丈夫、です。明日も撮影あって早いんで……」
「そっか、忙しいんだね」
「結埜さんほどじゃ無いですよ」
「俺はそんなに……いや、忙しいかな?」
意地悪く笑ってみせる。
その顔が少し可愛くて、安心しきったような表情で、朱斗は心地良かった。
「なんか、お二人さん良い雰囲気だねぇー」
「「え?」」
大将の言葉にドキッとする。恐らく結埜も同じだろう。
(やばい……この感じは、なんかやばい……)
危機感を感じた朱斗は、大将のその一言から結埜の方を見ることを止めた。踏み込まない。近づかない。固く決めた意志を視線が合わさることで、すぐに崩壊すると感じた。
その崩壊は樹矢への罪悪感の始まりでは無く、また何か違うものへの始まりを迎える予感がしていた。
朱斗にとっては最低で、結埜にとっては最高なことをそれは意味していた。
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