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誰-who-1
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廊下から駐車場への扉を開けると、薄暗い明かりに変わった。狭い廊下から広い駐車場に視界が広くなったと同時に見えたのは所々に並ぶ車。
「あ、あっちです」
当然、車の場所が分からない結埜は朱斗の隣よりも少し下がって、ついていくように歩く。猫背気味な朱斗を横目で見ながら、結埜はマスクの中で微笑んでいた。
「この車です。後ろ、開けますね」
朱斗は車の鍵を取り出してロックを解除する。車のバッグドアを開けて、結埜は荷物を丁寧に中へと入れた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいえ、これくらい大したことないよ」
謙遜しながら朱斗の頭に向かって、結埜は手を伸ばした。
「え……」
驚いて思わず朱斗は身を縮める。その様子を見て、結埜はすぐに手を引いた。
「あ……っと、ごめん」
あのまま手の動きが止まらなかったら……あの先何が起きるか予想はできた。けれど、その行動が初対面の朱斗になぜされるのか、全く検討がつかなかった。
「あ、マネージャーがあっちの車で待ってるから、ちょっと行ってくるね。ほんと、ごめん」
再び謝ったごめんには、さっきの行動のことも含まれているのだろう。一瞬でぐるぐると思考する内に難しい顔になっていたのか、気を遣わせてしまったみたいだ。
(なんか……したっけ……)
なにか、ひっかかる。
時折、切なそうにする表情や声、自分に向けられた視線。
運転席に乗り、結埜のことを考える。
(確かに会えないからって樹矢に重ねてた自分もいるし……元気ないって思われてんのかな……)
ハンドルに頭を乗せて思考を巡らせる。
(樹矢を求めてるはずが、なんとなく似てるからって理由で結埜さんを求めちゃったかもな)
それにしても、所々の反応に引っかかりがあると感じる。けどそれがもし……もし仮にその、好意的なものだとしたら……。
(あまり仲良くなりすぎるのは良くないな……)
――
「ごめんごめん。おまたせしちゃった」
マネージャーとの話が長引いたのか、罰の悪そうに結埜は助手席側の扉を開けて座った。
「全然。大丈夫ですよ」
「仕事の確認してたら、思ったより時間かかっちゃった。さ、どこに何食べに行こうかな」
「あぁ……決めてなかったです。どうしましょ……」
うっかりしていた。時間があったのにどこへ行くかなんて、何も考えていなかった。と朱斗は思った。
「んー。須藤さんが大丈夫だったらお寿司屋さんとか、どう?」
「いいですね!好きです!」
ふふっ。と結埜は柔らかく笑う。
目を細めて、朱斗を見つめて笑う。
「なら近くにお店があるから、そこを目指してしゅっぱーつ!」
結埜が勢いで思わずあげた拳は、車内の天井に綺麗に当たり「いててっ……」とまた朱斗に笑ってみせた。
その笑顔は、この10年。一切誰にも見せなかった結埜の素の笑いだった。
「あ、あっちです」
当然、車の場所が分からない結埜は朱斗の隣よりも少し下がって、ついていくように歩く。猫背気味な朱斗を横目で見ながら、結埜はマスクの中で微笑んでいた。
「この車です。後ろ、開けますね」
朱斗は車の鍵を取り出してロックを解除する。車のバッグドアを開けて、結埜は荷物を丁寧に中へと入れた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいえ、これくらい大したことないよ」
謙遜しながら朱斗の頭に向かって、結埜は手を伸ばした。
「え……」
驚いて思わず朱斗は身を縮める。その様子を見て、結埜はすぐに手を引いた。
「あ……っと、ごめん」
あのまま手の動きが止まらなかったら……あの先何が起きるか予想はできた。けれど、その行動が初対面の朱斗になぜされるのか、全く検討がつかなかった。
「あ、マネージャーがあっちの車で待ってるから、ちょっと行ってくるね。ほんと、ごめん」
再び謝ったごめんには、さっきの行動のことも含まれているのだろう。一瞬でぐるぐると思考する内に難しい顔になっていたのか、気を遣わせてしまったみたいだ。
(なんか……したっけ……)
なにか、ひっかかる。
時折、切なそうにする表情や声、自分に向けられた視線。
運転席に乗り、結埜のことを考える。
(確かに会えないからって樹矢に重ねてた自分もいるし……元気ないって思われてんのかな……)
ハンドルに頭を乗せて思考を巡らせる。
(樹矢を求めてるはずが、なんとなく似てるからって理由で結埜さんを求めちゃったかもな)
それにしても、所々の反応に引っかかりがあると感じる。けどそれがもし……もし仮にその、好意的なものだとしたら……。
(あまり仲良くなりすぎるのは良くないな……)
――
「ごめんごめん。おまたせしちゃった」
マネージャーとの話が長引いたのか、罰の悪そうに結埜は助手席側の扉を開けて座った。
「全然。大丈夫ですよ」
「仕事の確認してたら、思ったより時間かかっちゃった。さ、どこに何食べに行こうかな」
「あぁ……決めてなかったです。どうしましょ……」
うっかりしていた。時間があったのにどこへ行くかなんて、何も考えていなかった。と朱斗は思った。
「んー。須藤さんが大丈夫だったらお寿司屋さんとか、どう?」
「いいですね!好きです!」
ふふっ。と結埜は柔らかく笑う。
目を細めて、朱斗を見つめて笑う。
「なら近くにお店があるから、そこを目指してしゅっぱーつ!」
結埜が勢いで思わずあげた拳は、車内の天井に綺麗に当たり「いててっ……」とまた朱斗に笑ってみせた。
その笑顔は、この10年。一切誰にも見せなかった結埜の素の笑いだった。
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