229 / 244
並行-heikou-5 結埜side
しおりを挟む
(知っていたんだ。素敵なカメラマンの君のことを。俺は、前から知っていた)
---
「おはようございまーす。おねがいします」
今クールに放送しているドラマの1日取材Dayなため、結埜は朝早くから髪型も衣装もセッティングを済ませスタジオ入りした。
カメラの前に立ち、要望通りのポーズやシチュエーションで表情や動きをつけて撮影は順調に進んでいくのは、今までの俳優業の賜物だ。
「では、このドラマでのこれからのみどころを…」
「そうですね、前回は…」
撮影の合間に取材は行われていくが、どの取材も質問は同じような内容だった。けれど、結埜はどの質問も嫌な顔などせず、真剣に答えていった。例え話す内容が同じだとしても、インタビューをしてくれている相手とその先にいる読者やファンのためを思って。
「お疲れ様です。結埜さん、ここで一旦休憩でーす」
「お疲れ様です。一旦失礼しまーす!」
スタッフさんの掛け声で、結埜はスタジオから退出し束の間のお昼休憩を過ごすことになった。
「わ。もうこんな時間なのか」
用意された待合室の時計は午後の三時を示していた。結埜は用意された待合室の椅子に腰掛けて、テーブルに並べられているお弁当を一つ手に取り食べ始める。
(ん?…あれ?無い、な…)
いつもならお弁当と一緒にペットボトルのお茶も置いてあるはずなのに、今日は無かった。
(まぁ、そんな時もあるか…)
結埜は立ち上がり、待合室を出た。
(確か、マネージャーはあっちに行ったはず…)
待機しているはずの場所から勝手に居なくなると後々厄介になるのは承知なので、結埜はまずマネージャーの姿を探しに行く。
「あれ…居ない。…ま、いっか」
マネージャーを見つけるのを諦めて、スタジオ内にあるはずの自動販売機を探しに結埜は廊下を歩いた。
カチャ…カチャ…。
廊下に結埜の足音以外の何か音が聞こえた。鉄が軽くぶつかったような音だ。
そして、その音は段々と大きくなり明らかに結埜に近づいてきた。そして、その姿を現した。
「お疲れ様でーす」
結埜にそう挨拶をしてきたのは、小柄な男性だった。
「…あっ。お疲れ…様です」
結埜は、突然現れた彼との出会いに戸惑った。
彼は大きなバッグを持っていて、中はとても重たいんだろう。詰められているのが重量があると、見るだけで分かるほどにバッグの肩紐が伸びていた。彼は結埜の顔をろくに見もせず、先程まで結埜が撮影していたスタジオへ足を進めていく。
「ちょ…っと」
結埜は手を伸ばして彼を引き止めようとした。が、すぐに止めた。
(触りたい…けど、ダメだ)
彼と分った時、ぶわっとこみ上げた私利私欲な感情をなんとかして抑えた。見なくても分かるほど、結埜の指先は小刻みに震えている。
(須藤…朱斗…)
何もつかめなかった腕をだらんと下げて、彼が居なくなった廊下の先を結埜は見つめ立ち尽くした。
---
「おはようございまーす。おねがいします」
今クールに放送しているドラマの1日取材Dayなため、結埜は朝早くから髪型も衣装もセッティングを済ませスタジオ入りした。
カメラの前に立ち、要望通りのポーズやシチュエーションで表情や動きをつけて撮影は順調に進んでいくのは、今までの俳優業の賜物だ。
「では、このドラマでのこれからのみどころを…」
「そうですね、前回は…」
撮影の合間に取材は行われていくが、どの取材も質問は同じような内容だった。けれど、結埜はどの質問も嫌な顔などせず、真剣に答えていった。例え話す内容が同じだとしても、インタビューをしてくれている相手とその先にいる読者やファンのためを思って。
「お疲れ様です。結埜さん、ここで一旦休憩でーす」
「お疲れ様です。一旦失礼しまーす!」
スタッフさんの掛け声で、結埜はスタジオから退出し束の間のお昼休憩を過ごすことになった。
「わ。もうこんな時間なのか」
用意された待合室の時計は午後の三時を示していた。結埜は用意された待合室の椅子に腰掛けて、テーブルに並べられているお弁当を一つ手に取り食べ始める。
(ん?…あれ?無い、な…)
いつもならお弁当と一緒にペットボトルのお茶も置いてあるはずなのに、今日は無かった。
(まぁ、そんな時もあるか…)
結埜は立ち上がり、待合室を出た。
(確か、マネージャーはあっちに行ったはず…)
待機しているはずの場所から勝手に居なくなると後々厄介になるのは承知なので、結埜はまずマネージャーの姿を探しに行く。
「あれ…居ない。…ま、いっか」
マネージャーを見つけるのを諦めて、スタジオ内にあるはずの自動販売機を探しに結埜は廊下を歩いた。
カチャ…カチャ…。
廊下に結埜の足音以外の何か音が聞こえた。鉄が軽くぶつかったような音だ。
そして、その音は段々と大きくなり明らかに結埜に近づいてきた。そして、その姿を現した。
「お疲れ様でーす」
結埜にそう挨拶をしてきたのは、小柄な男性だった。
「…あっ。お疲れ…様です」
結埜は、突然現れた彼との出会いに戸惑った。
彼は大きなバッグを持っていて、中はとても重たいんだろう。詰められているのが重量があると、見るだけで分かるほどにバッグの肩紐が伸びていた。彼は結埜の顔をろくに見もせず、先程まで結埜が撮影していたスタジオへ足を進めていく。
「ちょ…っと」
結埜は手を伸ばして彼を引き止めようとした。が、すぐに止めた。
(触りたい…けど、ダメだ)
彼と分った時、ぶわっとこみ上げた私利私欲な感情をなんとかして抑えた。見なくても分かるほど、結埜の指先は小刻みに震えている。
(須藤…朱斗…)
何もつかめなかった腕をだらんと下げて、彼が居なくなった廊下の先を結埜は見つめ立ち尽くした。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる