あんたは俺のだから。

そらいろ

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並行-heikou-5 結埜side

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(知っていたんだ。素敵なカメラマンの君のことを。俺は、前から知っていた)

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「おはようございまーす。おねがいします」

 今クールに放送しているドラマの1日取材Dayなため、結埜は朝早くから髪型も衣装もセッティングを済ませスタジオ入りした。
 カメラの前に立ち、要望通りのポーズやシチュエーションで表情や動きをつけて撮影は順調に進んでいくのは、今までの俳優業の賜物だ。

「では、このドラマでのこれからのみどころを…」
「そうですね、前回は…」

 撮影の合間に取材は行われていくが、どの取材も質問は同じような内容だった。けれど、結埜はどの質問も嫌な顔などせず、真剣に答えていった。例え話す内容が同じだとしても、インタビューをしてくれている相手とその先にいる読者やファンのためを思って。

「お疲れ様です。結埜さん、ここで一旦休憩でーす」
「お疲れ様です。一旦失礼しまーす!」

 スタッフさんの掛け声で、結埜はスタジオから退出し束の間のお昼休憩を過ごすことになった。

「わ。もうこんな時間なのか」

 用意された待合室の時計は午後の三時を示していた。結埜は用意された待合室の椅子に腰掛けて、テーブルに並べられているお弁当を一つ手に取り食べ始める。

(ん?…あれ?無い、な…)

 いつもならお弁当と一緒にペットボトルのお茶も置いてあるはずなのに、今日は無かった。

(まぁ、そんな時もあるか…)

 結埜は立ち上がり、待合室を出た。

(確か、マネージャーはあっちに行ったはず…)

 待機しているはずの場所から勝手に居なくなると後々厄介になるのは承知なので、結埜はまずマネージャーの姿を探しに行く。

「あれ…居ない。…ま、いっか」

 マネージャーを見つけるのを諦めて、スタジオ内にあるはずの自動販売機を探しに結埜は廊下を歩いた。

 カチャ…カチャ…。

 廊下に結埜の足音以外の何か音が聞こえた。鉄が軽くぶつかったような音だ。
 そして、その音は段々と大きくなり明らかに結埜に近づいてきた。そして、その姿を現した。

「お疲れ様でーす」

 結埜にそう挨拶をしてきたのは、小柄な男性だった。

「…あっ。お疲れ…様です」
 
 結埜は、突然現れた彼との出会いに戸惑った。
 彼は大きなバッグを持っていて、中はとても重たいんだろう。詰められているのが重量があると、見るだけで分かるほどにバッグの肩紐が伸びていた。彼は結埜の顔をろくに見もせず、先程まで結埜が撮影していたスタジオへ足を進めていく。

「ちょ…っと」

 結埜は手を伸ばして彼を引き止めようとした。が、すぐに止めた。

(触りたい…けど、ダメだ)

 彼と分った時、ぶわっとこみ上げた私利私欲な感情をなんとかして抑えた。見なくても分かるほど、結埜の指先は小刻みに震えている。

(須藤…朱斗…)

 何もつかめなかった腕をだらんと下げて、彼が居なくなった廊下の先を結埜は見つめ立ち尽くした。
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