あんたは俺のだから。

そらいろ

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「では、今日は本当にありがとう。宣材写真の件も、またお礼させて頂きますね」
「あ、はい」

(とても、律儀で大人な人だな)

 去っていく結埜の後ろ姿を見つめながら朱斗は思う。
 カメラマンの仕事をしていると沢山の人に出会う。その中でも芸能界は中々癖のある人たちが多く、仕事を円滑に進めるために朱斗側に利益は無くとも多少のワガママや要望は受け入れ行ってきた。
 もちろん全員が全員、そんな人という訳では無く今回の結埜みたいな人や恋人の樹矢のように撮影の要望にすぐに応えてくれたり、意見を出してくれる人もいる。

「そもそもの人が出来ているんだろうな…」

 結埜は突出してキチンとしていた。
 スタジオから去っていく間にもすれ違うスタッフさん一人一人と挨拶を交わし、見知った人を見つけると名前を呼び近い距離感で会話をし、みんなが笑って今日の撮影の仕事を終えていた。

(俺も今日はこれで仕事終わりだし、帰るか…)

 撮影に使った機材を手早く片づけて、ずっしりと重たい鉄の塊が入った荷物を肩にかける。
 スタジオの外に出て、廊下を歩く。
 車の停めている駐車場へ向かおうと足を一歩ずつ前へ進ませていると、突然持っていた肩に掛かった重力がふわりと軽くなった。

「へ……」

 驚いて振り返れば、右手に朱斗の機材入りの荷物を手に持った結埜の姿だ。

「お疲れ様です。にしても、これすっごく重たいね。撮影に使っていた三脚…とか?」

 白いTシャツに黒のパンツ、黒のバケットハットというシンプルな格好の私服姿な結埜はマスクこそしているが、隠しきれていない芸能人のオーラを纏っている。

「えっ…とー。そうです。三脚の他にもレンズとか予備のカメラも入っていて…って重たいですよね!!」

 慌てて結埜が持つ自分の荷物を取り返そうとするが、サラリと避けられてしまい「持つんで、行きましょう」と完全に結埜のペースになってしまった。

---

 コツコツと廊下に響く二つの足音。

「須藤さん、車?」
「はい。そうです」
「んー。このあとって…何か予定あるかな?」
「予定?いや、今日はもうこれで仕事も終わりなんで帰るだけです」
「じゃあ、少しさ、俺に付き合ってくれない?」

 朱斗は、また樹矢の笑顔を彼に重ねた。

「は、い…」

 樹矢のことを思い出しながらも、誘いを断らなかったのは家に帰っても一人だという理由と、何故かこの誘いを断れば彼がこのままずっと孤独になりそうな寂しさを結埜から感じたからだ。

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