あんたは俺のだから。

そらいろ

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 しばらく抱き締められていた俺は痺れを切らして言葉を掛ける。

「こら、なげーよ。ご飯出来てるから早く手洗いしてこい」
「はぁーい」

「後でたっぷり朱ちゃん頂こーうっ」なんて、楽しそうに軽い足取りで洗面所へと向かっていった。

---

「んーまいっ!」

 グツグツと鍋で煮込まれたお肉と野菜を口いっぱいに頬張る樹矢は、疲れなんて吹き飛んだのか幸せそうに俺の前で箸を進める。

「ほんと、美味しいな」

 同じ物を食べているこの時間に幸せを感じつつ。お腹も満たしていく。

「そういえば、あの紙袋なんだ?」
「あぁ!忘れてた!」

 定期的に持って帰ってくる紙袋。大体はその日の撮影で気に入って買い取った衣装や小物だ。
 洗い物をしている傍らで、ガサゴソと紙袋の中身を出していく。

「今日使ったピアスとー、リングとー、あ!このハットも買い取ったんだー」

「似合う?」と被ってみせる。
 似合って当たり前だろ。と返したくなるほど様になる。

「あぁ。良いんじゃない?」

 チラリとだけ見て、泡のついた皿を水で流し始める。

「あ!これは朱ちゃんに!」

 そう言って取り出したのは、小さなブーケ……?

「俺に?」
「そう!これドライフラワーのブーケなんだけどね、可愛いなぁと思っててさ。なんか、撮影では使わなかったんだけど、貰えるか聞いたらいいよーってスタッフさんが言ってくれたの」

 濡れた手を丁寧に拭いて、樹矢の元へと近づく。
「どうぞ」と渡された小さなブーケは、沢山の小花が咲いて一つ一つ綺麗な形を保っている。

「朱ちゃんの色、してるでしょ?」

 暖色系のその花の名前は分からない。

(今度、葵斗に聞いてみよう)

 花に詳しい弟と連絡する時に聞けばいいかと思いつつ、「ありがと」と樹矢に礼を言う。

「朱ちゃんと仕事すると、無意識に頭の中も朱ちゃんでいっぱいになっちゃうんだよねー」

 樹矢の大きな手が俺の頭を撫でる。

「目の前にいるから何回も何回も今すぐ触りたいー!って思っちゃったよ」

 腰にもう片方の手が回り、俺を引き寄せてぴったりとくっつく。

「我慢するのも流石に慣れたけど、こうして、二人になるとリミッター外れちゃうね」

 首元に埋まる樹矢から漏れる吐息がくすぐったい。そう感じていると、吐息はキスに変わっていった。

 チュ……チュ……

 何度も何度も軽い口づけを俺の素肌に落としていく。

「見えるとこはつけんなよ」
「はいはい」

 キスされることに抵抗はしないけど、生意気なことを言ってしまうのは俺の可愛くないところだって十分に分かっている。

「可愛い。朱ちゃん」

 それでも可愛い可愛いって聞き飽きるほど言ってくれる樹矢の優しさに、甘えきってしまう。

「可愛くねぇよ……」

 ほら、可愛くない。


 何時だってお互いの中心はお互いで。何かを見ても相手を思ってしまって、そこから思い出が膨らんで幸せだと感じるんだ。
 俺の焦点は樹矢にしか合わなくて、樹矢もまた俺にしか合わない。
 これからも、この先も。
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