220 / 244
焦点-focus-3
しおりを挟む
しばらく抱き締められていた俺は痺れを切らして言葉を掛ける。
「こら、なげーよ。ご飯出来てるから早く手洗いしてこい」
「はぁーい」
「後でたっぷり朱ちゃん頂こーうっ」なんて、楽しそうに軽い足取りで洗面所へと向かっていった。
---
「んーまいっ!」
グツグツと鍋で煮込まれたお肉と野菜を口いっぱいに頬張る樹矢は、疲れなんて吹き飛んだのか幸せそうに俺の前で箸を進める。
「ほんと、美味しいな」
同じ物を食べているこの時間に幸せを感じつつ。お腹も満たしていく。
「そういえば、あの紙袋なんだ?」
「あぁ!忘れてた!」
定期的に持って帰ってくる紙袋。大体はその日の撮影で気に入って買い取った衣装や小物だ。
洗い物をしている傍らで、ガサゴソと紙袋の中身を出していく。
「今日使ったピアスとー、リングとー、あ!このハットも買い取ったんだー」
「似合う?」と被ってみせる。
似合って当たり前だろ。と返したくなるほど様になる。
「あぁ。良いんじゃない?」
チラリとだけ見て、泡のついた皿を水で流し始める。
「あ!これは朱ちゃんに!」
そう言って取り出したのは、小さなブーケ……?
「俺に?」
「そう!これドライフラワーのブーケなんだけどね、可愛いなぁと思っててさ。なんか、撮影では使わなかったんだけど、貰えるか聞いたらいいよーってスタッフさんが言ってくれたの」
濡れた手を丁寧に拭いて、樹矢の元へと近づく。
「どうぞ」と渡された小さなブーケは、沢山の小花が咲いて一つ一つ綺麗な形を保っている。
「朱ちゃんの色、してるでしょ?」
暖色系のその花の名前は分からない。
(今度、葵斗に聞いてみよう)
花に詳しい弟と連絡する時に聞けばいいかと思いつつ、「ありがと」と樹矢に礼を言う。
「朱ちゃんと仕事すると、無意識に頭の中も朱ちゃんでいっぱいになっちゃうんだよねー」
樹矢の大きな手が俺の頭を撫でる。
「目の前にいるから何回も何回も今すぐ触りたいー!って思っちゃったよ」
腰にもう片方の手が回り、俺を引き寄せてぴったりとくっつく。
「我慢するのも流石に慣れたけど、こうして、二人になるとリミッター外れちゃうね」
首元に埋まる樹矢から漏れる吐息がくすぐったい。そう感じていると、吐息はキスに変わっていった。
チュ……チュ……
何度も何度も軽い口づけを俺の素肌に落としていく。
「見えるとこはつけんなよ」
「はいはい」
キスされることに抵抗はしないけど、生意気なことを言ってしまうのは俺の可愛くないところだって十分に分かっている。
「可愛い。朱ちゃん」
それでも可愛い可愛いって聞き飽きるほど言ってくれる樹矢の優しさに、甘えきってしまう。
「可愛くねぇよ……」
ほら、可愛くない。
何時だってお互いの中心はお互いで。何かを見ても相手を思ってしまって、そこから思い出が膨らんで幸せだと感じるんだ。
俺の焦点は樹矢にしか合わなくて、樹矢もまた俺にしか合わない。
これからも、この先も。
「こら、なげーよ。ご飯出来てるから早く手洗いしてこい」
「はぁーい」
「後でたっぷり朱ちゃん頂こーうっ」なんて、楽しそうに軽い足取りで洗面所へと向かっていった。
---
「んーまいっ!」
グツグツと鍋で煮込まれたお肉と野菜を口いっぱいに頬張る樹矢は、疲れなんて吹き飛んだのか幸せそうに俺の前で箸を進める。
「ほんと、美味しいな」
同じ物を食べているこの時間に幸せを感じつつ。お腹も満たしていく。
「そういえば、あの紙袋なんだ?」
「あぁ!忘れてた!」
定期的に持って帰ってくる紙袋。大体はその日の撮影で気に入って買い取った衣装や小物だ。
洗い物をしている傍らで、ガサゴソと紙袋の中身を出していく。
「今日使ったピアスとー、リングとー、あ!このハットも買い取ったんだー」
「似合う?」と被ってみせる。
似合って当たり前だろ。と返したくなるほど様になる。
「あぁ。良いんじゃない?」
チラリとだけ見て、泡のついた皿を水で流し始める。
「あ!これは朱ちゃんに!」
そう言って取り出したのは、小さなブーケ……?
「俺に?」
「そう!これドライフラワーのブーケなんだけどね、可愛いなぁと思っててさ。なんか、撮影では使わなかったんだけど、貰えるか聞いたらいいよーってスタッフさんが言ってくれたの」
濡れた手を丁寧に拭いて、樹矢の元へと近づく。
「どうぞ」と渡された小さなブーケは、沢山の小花が咲いて一つ一つ綺麗な形を保っている。
「朱ちゃんの色、してるでしょ?」
暖色系のその花の名前は分からない。
(今度、葵斗に聞いてみよう)
花に詳しい弟と連絡する時に聞けばいいかと思いつつ、「ありがと」と樹矢に礼を言う。
「朱ちゃんと仕事すると、無意識に頭の中も朱ちゃんでいっぱいになっちゃうんだよねー」
樹矢の大きな手が俺の頭を撫でる。
「目の前にいるから何回も何回も今すぐ触りたいー!って思っちゃったよ」
腰にもう片方の手が回り、俺を引き寄せてぴったりとくっつく。
「我慢するのも流石に慣れたけど、こうして、二人になるとリミッター外れちゃうね」
首元に埋まる樹矢から漏れる吐息がくすぐったい。そう感じていると、吐息はキスに変わっていった。
チュ……チュ……
何度も何度も軽い口づけを俺の素肌に落としていく。
「見えるとこはつけんなよ」
「はいはい」
キスされることに抵抗はしないけど、生意気なことを言ってしまうのは俺の可愛くないところだって十分に分かっている。
「可愛い。朱ちゃん」
それでも可愛い可愛いって聞き飽きるほど言ってくれる樹矢の優しさに、甘えきってしまう。
「可愛くねぇよ……」
ほら、可愛くない。
何時だってお互いの中心はお互いで。何かを見ても相手を思ってしまって、そこから思い出が膨らんで幸せだと感じるんだ。
俺の焦点は樹矢にしか合わなくて、樹矢もまた俺にしか合わない。
これからも、この先も。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる