あんたは俺のだから。

そらいろ

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相互-sougo-1

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 頼んだおまかせコースは、カット中の志御さんの話を聞いた後に俺と樹矢の質問コーナーが始まった。ヘッドスパとマッサージ中に志御さんからの心地良い刺激と居心地の良い空間にいつの間にか眠りについてしまっていた。


「ありがとうございました。またね、朱斗ちゃん」

 志御さんに店の出入り口まで見送ってもらい、見渡した外はもう真っ暗で街頭やお店の看板のネオンが光っている。
 まるでタイムスリップしたかのような錯覚になる。特に何もしていないのに今日がもう終わってしまうという焦りや後悔は無かった。
 それは、身も心も休まった幸福感で満たされていたからだ。

(たまにはいいよね……うん、いいよ)

 自問自答をして、何よりもこの美容室を紹介してくれた樹矢に感謝した。
 唯一、引っ掛かったのは一つ。



「好きなんですね。そのモデルさんの事」

 トリートメント中に志御さんの話が終わり、俺はド直球に核心を突く。

「……そうね。こうして誰かに話すのは朱斗ちゃんが初めてだけども、今自分でも気づいたわ。気になっているんじゃないわね。彼が……好きだわ」

 何処か引っ掛かっていた物が無くなり、吹っ切れたようだった。

「なんの根拠も無いですけど、会えるんじゃないですか?」
「会える、かしら」
「いや、根拠は無いよ?けど……」

 俺は言葉を続ける。

「片方に何か思いが残っていたら、きっともう片方も何かしらの思いはあるんじゃないかな。そこから一歩踏み出せば、思いが相重なるかもしれない。」

(結局、自分次第だけど……)

 樹矢と出会った頃、彼からの誘いを殆ど断って会わないようにしていた懐かしい自分を思い出す。
 心に鍵をかけて気づかないフリをする。今の志御さんと同じ事をかつての俺もしていた。

「一歩……そうね。頑張ってみるわ」


「……頑張れ」

 振り返ってさっきまでいた店を見る。
 もう志御さんの姿は無くなっていて、俺はまたすぐ前を向いて家へと帰った。

―――

ガチャ…

 仕事が終わって帰ってきていると樹矢から連絡が来ていたから、家に真っ直ぐに帰った。

「たーだいまー」

 扉を開けて、目の前はリビングの明かりが廊下に漏れている。暗くなった外が寒かったから、家の温もりが身体を包み自然と足取りを軽くする。

「朱ちゃーん!おかえりー!」

 元気な変わらない樹矢の声が聞こえる。

「ごめん、思ったより遅くなっ……って、おい」

 俺を見るなりソファから素早く目の前に駆けて来て、身長を合わせるために少し屈んで顔を覗き込めば優しいキスをされる。

「髪、染めたんだ。うん。すっごく可愛い」

 ブロンドに染まった髪色を見て、両手で俺の頬を包むその手の温もりだけで、幸せと愛情を伝える。

「似合ってる……か?」
「似合ってるし可愛すぎ」

「このまま食べちゃいたい」と樹矢は抱きしめ再びキスの雨を降らせば、服の中に手を忍ばせる。
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