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恋慕-renbo-1
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毎日変わらない日常は嫌いだった。
仕事で同じ場所へ出勤し、同じ職場の人達と与えられたタスクを熟していく事が嫌だった。
周りと同じ自分に染まるのも嫌だった。
変わりたいと変える事が出来たのは、一つ。
自分の個性に自分が染まった。
「今日も、同じ……」
この職場で美容師として働いてもう10年近く。オーナーとして勤めて、今の若さでそこそこの地位まで来たものの、ここではそれ以上は目指せない。
「辞めようかしら……」
吐き出す紫煙を見上げて、目を瞑る。
思い出すのは今、自分に付いているお客様。
有名人から一般のお客、沢山の人が私の手を求めて訪れる。辞めようと何度思っても、その沢山の笑顔が辞めさせてくれなかった。
「……もう少し、頑張ろうかな」
座っていた椅子から立ち上がり、手に持っていた煙草を灰皿に押し付け喫煙室の外へと出て、『中瀬しおん』として仕事を再開する。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
休憩後、最初のお客様は初来店の小柄な可愛らしい男性のモデルさん。瞳も黒く、髪の毛も黒い。今日はメンテナンスに来たんだろう。
「お願いします」
「はい。本日はメンテナンスで宜しいでしょうか?杠葉様」
予約を受けていた名簿で得た名前を呼ぶと、目が合う。黒いその瞳に私が映る。彼に私は、どんな風に見えているのかしら。
「とりあえず、トリートメントとあと前髪と襟足を整えてもらいたいんです」
チラチラと私を見つつ話し出す。
声も、可愛い。
「かしこまりました。では、どうぞ」
案内したシャンプー台に座ってもらい、ブランケットをそっと膝に掛けた。
「今朝は寒かったでしょう。雪もチラついてましたもんね」
「ぁ、りがとうございます」
初めて来る美容室に緊張しているのか、肩に妙に力が入っている。
そっと、両手で彼の肩に優しく手を置いて、「リラックスしてくださいね」と一声掛けるとシャンプー台を操作し、頭を洗う体勢へ持っていった。
まだ、緊張してるのか彼の両手はブランケットを上からキュッと握っている。
その様子を横目に、髪に触れる。
とても柔らかい。細い毛。真っ黒に染められたように綺麗な黒色。何にも染まらないと主張するかのようだわ。
少し、右の襟足にクセがあるのを見つけた。
「一度洗いますね」
シャワーの水を出してお湯が出てきたのを確認した後、彼の頭皮と髪の毛の汚れを落としていく。お決まりの「熱くないですか?」「痒いところはございませんか?」と、かつて何度も口にしてきたフレーズを口にする。
彼の答えは「大丈夫です」の一点張りだった。
仕事で同じ場所へ出勤し、同じ職場の人達と与えられたタスクを熟していく事が嫌だった。
周りと同じ自分に染まるのも嫌だった。
変わりたいと変える事が出来たのは、一つ。
自分の個性に自分が染まった。
「今日も、同じ……」
この職場で美容師として働いてもう10年近く。オーナーとして勤めて、今の若さでそこそこの地位まで来たものの、ここではそれ以上は目指せない。
「辞めようかしら……」
吐き出す紫煙を見上げて、目を瞑る。
思い出すのは今、自分に付いているお客様。
有名人から一般のお客、沢山の人が私の手を求めて訪れる。辞めようと何度思っても、その沢山の笑顔が辞めさせてくれなかった。
「……もう少し、頑張ろうかな」
座っていた椅子から立ち上がり、手に持っていた煙草を灰皿に押し付け喫煙室の外へと出て、『中瀬しおん』として仕事を再開する。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
休憩後、最初のお客様は初来店の小柄な可愛らしい男性のモデルさん。瞳も黒く、髪の毛も黒い。今日はメンテナンスに来たんだろう。
「お願いします」
「はい。本日はメンテナンスで宜しいでしょうか?杠葉様」
予約を受けていた名簿で得た名前を呼ぶと、目が合う。黒いその瞳に私が映る。彼に私は、どんな風に見えているのかしら。
「とりあえず、トリートメントとあと前髪と襟足を整えてもらいたいんです」
チラチラと私を見つつ話し出す。
声も、可愛い。
「かしこまりました。では、どうぞ」
案内したシャンプー台に座ってもらい、ブランケットをそっと膝に掛けた。
「今朝は寒かったでしょう。雪もチラついてましたもんね」
「ぁ、りがとうございます」
初めて来る美容室に緊張しているのか、肩に妙に力が入っている。
そっと、両手で彼の肩に優しく手を置いて、「リラックスしてくださいね」と一声掛けるとシャンプー台を操作し、頭を洗う体勢へ持っていった。
まだ、緊張してるのか彼の両手はブランケットを上からキュッと握っている。
その様子を横目に、髪に触れる。
とても柔らかい。細い毛。真っ黒に染められたように綺麗な黒色。何にも染まらないと主張するかのようだわ。
少し、右の襟足にクセがあるのを見つけた。
「一度洗いますね」
シャワーの水を出してお湯が出てきたのを確認した後、彼の頭皮と髪の毛の汚れを落としていく。お決まりの「熱くないですか?」「痒いところはございませんか?」と、かつて何度も口にしてきたフレーズを口にする。
彼の答えは「大丈夫です」の一点張りだった。
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