あんたは俺のだから。

そらいろ

文字の大きさ
上 下
200 / 244

物日-monobi-3

しおりを挟む
(だ……誰……)

 壁に掛かった時計を見ると、20時が回るところ。遅くも早くも無い時間だけれど配達を頼んだ覚えも無いし来客する予定も全く無い。

ピーンポーン―――

 再び鳴り響く。
 身に纏わりついている毛布を剥がして立ち上がる。伝わるフローリングの冷たさが俺の足取りを遅くした。
 インターホンのモニター画面を覗くと、一人。真っ黒な帽子にマスクをした長身の男が立っていた。

「っ……な、なんで」

 慌ててボタンを押してオートロックを解錠すると、そそくさと中に入っていく彼。
 俺は、その様子を見届けてすぐに玄関へ向かい締めていた鍵を内側から開けて、その場に立ち止まった。

 ドア越しに足音が……微かに聞こえる。
 音は段々と大きくなり、無くなったと思えば目の前のドアがガチャリと開く。

「み……きや……」

 肉眼で確認した彼は間違いない。樹矢本人。俺を抱きしめて包むその匂いも間違いない。
 急いできたんだろう。息は荒く、触れる顔も冷たい。

「朱ちゃん……ただいま」

 家に行き来する度にお互い自分の家じゃなくても相手に「ただいま」「おかえり」と言うのがお約束になっていた。

「お、おかえり」

 少し顔を離して樹矢はマスクを顎下まで下ろすと、間髪入れず俺にキスをした。薄目を開けているとで目が合ってしまい、唇が離れてふっと笑う。

「樹矢……なんで、来たの?」
「恋人が用も無いのに来ちゃダメなの?」
「そうじゃなくて……」

 あぁ。面倒くさい男はもう止めだ。

「今日、あんたの誕生日なんだろ?お祝いは?誘われたりしたんじゃねーの?」

 樹矢は沈黙した。どうやら頭で少し考えているみたいだ。

「……誕生日だけど……誘いなんて誰からもされてない。そもそも誕生日を祝って貰えるのなんて仕事がこうしてある時くらいで、それまで誰にも祝う事なんてされなかったから俺にとってはどうでも良い日なんだけど?」

「…………」

「でも……朱ちゃんにはおめでとうって言って欲しかったから、ここに来ちゃった」

 笑うその感情は何が動かすんだろうと考えた。
 俺に対する愛情だと。すぐに答えが出てくる。

 そっか。こいつはそういう奴だった。俺は何も分かってなかった。
 首を傾げる樹矢をじっと見つめて俺はため息をひとつ出す。

「いいから、入れ」

 腕を引っ張り、リビングへ連れて行く。

 テーブルの上にあるカップ麺は見るからに麺が膨張して、汁は見えなくなっていた。

「飯は?」

 小さなソファの前で、目を合わせずに聞く。
 腕は掴んだまま。

「食べてない」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」

 カップ麺を持って、キッチンへ移動する。
 流しにそれを捨てて、空のカップをゴミ箱へ投げた。

「朱ちゃん」

 冷蔵庫を開けようとした時聞こえた俺を呼ぶ声の元に振り返る。

「何?」
「考えてたんだけどさ……一緒に、住もっか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...