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物日-monobi-1
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「っー……。朝もだいぶさみぃな」
トレーナー一枚で過ごしていた日々もいつの間にか寒さに耐えれなくなり、今秋初めて着る上着を朝から引っ張り出して羽織り外へ出る。
強く風が吹く今日は、朝から身体の芯を冷たくする程気温が低い。ポケットに思わず手を突っ込んで駐車場に向かった。
「てか、もう冬か……」
朝早くから一人でブツブツ独り言を呟いているヤバい奴なんて気にせず声に出てしまった。
(もうすぐ、誕生日か……)
―――
昼から撮影予定のスケジュール。俺の担当モデルは瀬羅樹矢。どうやら逆指名みたいで、撮って欲しいとモデル本人が懇願したと周りのスタッフさんから噂で聞いた。
(そんなんしなくても、俺が撮るっつーの)
樹矢と付き合い出して、数カ月。お互いが出会う素になった、樹矢のファンクラブも発足後好調で、引き続き限定コンテンツ等主な撮影を担当している。
樹矢は読者モデルの肩書きから人気モデルへとなりつつあった。
「須藤さん。今日の撮影なんですけど……」
「ん?樹矢くんのでしょ?」
「はい。今日実は……」
小さめの声で告げられた内容は、俺の目を丸く見開かせ、そのまま撮影開始の時刻を時計は示した。
カシャ―カシャ――
(なんだよ……なんなんだよ……)
撮影中、変わらずいつも通りを装うもシャッターを切る指は力が入り過ぎて段々指先が麻痺してきていた。
「はい。じゃあ、次の衣装でお願いします」
樹矢に掛ける言葉も業務的になり、無駄な事を口にしないロボットの様に話していた。しかも、目線は合わせない。否、合わせたくない。
「朱斗さん?俺、ポージングとかタイミングとか何か応えれなかったですか……?」
撮影したデータを見ていると、後ろから樹矢が俺に聞く。
朱ちゃんが何か何時もと違う。理由こそ辿り着けないけれど、樹矢は直感で感じてすぐ俺に疑問を問いかけた。
「何もない。いいから次のに着替えてきて下さい」
本心だった。
ただ言葉の温度が低いだけで、触れるなと氷で覆うように俺は突き放してしまった。
「オッケーです」
「はーい。撮影終了でーす!瀬羅さん、お疲れ様でしたー!」
撮影が終わった。生憎この後の予定は無い。俺はこのまま自分の家に帰るだけ……。
樹矢は……。
きっと今日はもう連絡なんかつかないだろう。ここでさようならだ。
笑顔にスタッフに挨拶する樹矢を見つめ、その場から去ろうとした時、樹矢と目が合った。俺に向かって何か言おうと口を開けたのが分かったその瞬間だ。
突然、フッと撮影スタジオの電気が落ちて視界全体が真っ暗になる。
トレーナー一枚で過ごしていた日々もいつの間にか寒さに耐えれなくなり、今秋初めて着る上着を朝から引っ張り出して羽織り外へ出る。
強く風が吹く今日は、朝から身体の芯を冷たくする程気温が低い。ポケットに思わず手を突っ込んで駐車場に向かった。
「てか、もう冬か……」
朝早くから一人でブツブツ独り言を呟いているヤバい奴なんて気にせず声に出てしまった。
(もうすぐ、誕生日か……)
―――
昼から撮影予定のスケジュール。俺の担当モデルは瀬羅樹矢。どうやら逆指名みたいで、撮って欲しいとモデル本人が懇願したと周りのスタッフさんから噂で聞いた。
(そんなんしなくても、俺が撮るっつーの)
樹矢と付き合い出して、数カ月。お互いが出会う素になった、樹矢のファンクラブも発足後好調で、引き続き限定コンテンツ等主な撮影を担当している。
樹矢は読者モデルの肩書きから人気モデルへとなりつつあった。
「須藤さん。今日の撮影なんですけど……」
「ん?樹矢くんのでしょ?」
「はい。今日実は……」
小さめの声で告げられた内容は、俺の目を丸く見開かせ、そのまま撮影開始の時刻を時計は示した。
カシャ―カシャ――
(なんだよ……なんなんだよ……)
撮影中、変わらずいつも通りを装うもシャッターを切る指は力が入り過ぎて段々指先が麻痺してきていた。
「はい。じゃあ、次の衣装でお願いします」
樹矢に掛ける言葉も業務的になり、無駄な事を口にしないロボットの様に話していた。しかも、目線は合わせない。否、合わせたくない。
「朱斗さん?俺、ポージングとかタイミングとか何か応えれなかったですか……?」
撮影したデータを見ていると、後ろから樹矢が俺に聞く。
朱ちゃんが何か何時もと違う。理由こそ辿り着けないけれど、樹矢は直感で感じてすぐ俺に疑問を問いかけた。
「何もない。いいから次のに着替えてきて下さい」
本心だった。
ただ言葉の温度が低いだけで、触れるなと氷で覆うように俺は突き放してしまった。
「オッケーです」
「はーい。撮影終了でーす!瀬羅さん、お疲れ様でしたー!」
撮影が終わった。生憎この後の予定は無い。俺はこのまま自分の家に帰るだけ……。
樹矢は……。
きっと今日はもう連絡なんかつかないだろう。ここでさようならだ。
笑顔にスタッフに挨拶する樹矢を見つめ、その場から去ろうとした時、樹矢と目が合った。俺に向かって何か言おうと口を開けたのが分かったその瞬間だ。
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