あんたは俺のだから。

そらいろ

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写像-shyazou-1

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「ここはこんなイメージで。あ、この服にはこの小物使いたいんでお願いします。あと……」

 早朝から、撮影前の軽い打ち合わせ。
 目の前には、樹矢が真剣な表情で細かく念入りに俺へ今回の撮影で撮ってほしいイメージやその時のアングルを伝えている。
 答えるために、真面目にアドバイスをしたり提案をしたり、撮影開始の時刻が回ったのにその議論は止まらなかった。

「瀬羅くん。そろそろ」

 腕時計を見せて、マネージャーの成田さんは指でトントンと叩く。

「あっ……ホントだね。朱斗さん、撮影しながらまた確認で!とりあえず、俺着替えてきます!」

 バタバタと部屋から出ていき、撮影衣装に着替えに行く樹矢の背中を見送った。
 残された俺は机に広がる資料をかき集めて、スタジオへと入る。

「んー。これはここ。あ、ライトもう少し中央寄りに照らしてくれる?そうそう」


 今日は樹矢が長い期間制作していた本人プロデュースのアパレル撮影という大事な日だ。
 一つ一つこだわりを詰めて作った処女作。
 決して失敗に転がしたくないし、そんな事俺が許せない。少し前、家で見た上がってきたほぼ完成品のサンプル達が並び、どれもこれも樹矢らしいアイテムで頬が緩んだ。

「瀬羅さん入られまーす」
「お願いしまーす。お願いします」

 スタッフさんと一緒に現れた彼はプロデュースの洋服を身に纏い、カメラの前に立つ。

「早速撮りまーす」

 撮影が始まった。

 カシャ―カシャ―

 シャッター音に合わせて、ポージングを変えていく。

「ちょっと右寄りに立って。そうそう」

 事細かく指示はしない。ちょっとした要望を伝えるだけ、表現する樹矢はもうプロだ。もう慣れたこの仕事は、感じ取って自分を出していく。

「一回確認しようか」
「はい!」

 今回はあくまで俺主導では無い。樹矢が決めて、希望通りの写真を上げていくのが、カメラマンの役割だ。あくまで補佐。
 何時もよりも確認の回数を増やし、入念に進めていく。

「拘ったジャケットの後ろも見せたいなぁ。すみません。椅子無いですか?」

 樹矢の一言にスタッフさんが一斉に動き出し、椅子を探す。「こんな椅子しか……」と持ってきた物に対して「色とかバックに合わせたほうがいいですか?」と俺に樹矢は確認する。

「何でも良いですよ。どんなアイテムでもモデルが良いから映えますし」

 そう返して俺は受け取った椅子を配置した。
 背のついた小さめの木の椅子。

「よし、再開で」

 また、撮影が始まった。
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