あんたは俺のだから。

そらいろ

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 日が出ている時間が短くなって、更に夜も深くなれば辺りはもう真っ暗で日差しが当たる暖かかった外は、一気に冷たい空間へと変わった。

 営業終了後の遊園地。

 前もって電話で撮影許可を貰い、開けてもらったこの空間は最低限の撮影班とモデルとそのマネージャーしか居ない。
 駐車場から機材を運んで貰い、俺はカメラの調整をする。

「瀬羅さん、入られまーす」

 スタッフの声と共に連れて来られたのは、黒いダウンコートを身に纏った樹矢だ。少し寒そうにしながらも笑顔で周りのスタッフさんに「よろしくお願いします」と挨拶をしている。

「朱斗さん、おはようございます」
「おはよう」

 朝も夜も関係なくおはようございますと挨拶をするのが当たり前のこの業界。俺達は朝目覚めた時におはようと言い合ってるから今日で二回目の挨拶になる。

 樹矢がダウンコートを脱ぐと、近くに待機していたスタッフさんが受け取り、ハケていく。髪型とメイクの最終チェックを終えて、目線を俺に向けた。

「じゃ、撮りまーす」

 カメラを構えた俺の合図で、頭上を見ても星なんかは見えない都内の寒空の下で撮影が始まった。

 回り、回るメリーゴーランドは、その纏ったカラフルな色をキラキラと輝かせながら止まらない。視界に入っても彩度が低く、チカチカしない霞んだ色彩はその目の前にいるモデルを引き立たせるとても良い背景になっている。

 カシャ―カシャ―……

 俺がシャッターを切る音に合わせて、樹矢はポーズを次々に変える。慣れっこなこの仕事は、さすが本業。彼にとってはお手の物だ。

 樹矢のファンクラブで年に4回、送っていくカタログの写真撮影。ファンクラブ発足当初から俺はカメラマンを担当していて、写真も映る樹矢も人気だ。

 初めて遊園地を貸し切って撮影するので、もっとテンション高くなると思いきや、とても大人っぽくベタだけどまるで王子様が飛び出してみたいに落ち着いた雰囲気を出していた。

 カーキ色のシャツに黒いネクタイ。黒のパンツに上から羽織るベージュのロングコートは長い足を更に長く際立たせていた。
 髪の毛も前髪を流してセットして、大人なデートという表題にピッタリだ。

「しゃがんでみていいですか?」

 樹矢からの提案に頷いてお互いにその場に腰を落とす。
 俺は、表情が分かるように樹矢よりも更に低い位置にカメラを構えてシャッターを切る。
 逆光になるそのシルエットも、顔の形が綺麗な彼にはそのシチュエーションでも何も不利にならない。

 横顔を撮っていると、何かに気づいたように正面からカメラを見つめてニッコリと笑った。その笑顔は確実に俺に向けてだった。
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