あんたは俺のだから。

そらいろ

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慈愛-jiai-

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「お母さんの笑った顔、樹矢に似てたね」
「そう……?あんな笑顔初めて見たから分かんないや」
「俺が言うから間違いないよ」

 車で家路につく最中、俺と朱ちゃんは行きの時には無かった会話を続けた。実質は感じていなかっただけでお互いにやっぱりどこか緊張していたのか、肩の力が抜けたと、車内に漂う空気感で分かった。

「見てくれるかな。樹矢のお母さん……」

 行きと同じ様に後部座席に座り、外を見つめる朱ちゃんはボソッと呟く。

「ん?朱ちゃん、何を?」
「あぁ。写真集。こないだ発売した」
「……っな…。」

 朱ちゃんは菓子折りと一緒に、俺の初の写真集を包んで入れていたらしい。特にメッセージも何も添えていないみたいだけれど、きっと見ているだろう。俺の、いや息子のモデルをしている姿を初めて……。

「見てくれるだろうけど、なんか……恥ずかしい……」
「でも見て欲しかったでしょ?」

 そう。知って欲しかったのは本音だ。今の俺を見て、少しでも心に感じてくれる物があったら嬉しい……。

「ありがと」
「ま、俺は自分の撮った樹矢が一番イケてるだろうって証明したかっただけー」

 自慢げに言って朱ちゃんは後部座席のシートに凭れかかる。

「いいじゃん。会えて、良かったよ……」

 昔話はあまりしないけれど、ずっと気にしてくれていたと思う。思ったよりも平和に終わった。
 朱ちゃんが居なかったら二度と会うことは無かったはずの母さんとの再会。
 
 お腹が空いて仕方が無かった。
 周りの子が遊んでいるおもちゃやゲームが羨ましかった。
 勉強する環境も無く荒れた家。

 消えなかった過去の黒い渦が灰色に霞んでいった気がした。朱ちゃんはそんな俺を憐れんだ事が一度も無い。

『俺は昔の樹矢は知らない。んで、別に知った所で何も変わんない』

 朱ちゃんがサラッと言った過去を思い出す。
 そのままの俺を愛して、被写体としても愛してくれている。朱ちゃんを愛して、撮る写真も愛してる。

 "慈しむ" 結婚式の時に問われる言葉の意味が分かるよ。

「樹矢」
「ん?何?」
「…………帰って何食べたい?」
「えーっとね。久しぶりにオムライスが良いなぁ」
「ん。分かった」

 こんな会話が出来るのも、当たり前じゃ無いって知っている。この当たり前が幸せだと言う事も知っている。朱ちゃんも。

 この幸せを幸せだと思える人はそう居ない。

―――
――

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