あんたは俺のだから。

そらいろ

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郷愁-nostalgia-2

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 真っ暗な夜道は、さっきまでいた店に入る前よりも黒に包まれていて光っていなかった看板が光を放ち、光っていた看板は明かりを無くしていた。

「送ってくよ」と言う楓の優しさを断って、あっさりとその場でお別れをする。タクシーを捕まえて家の近くを指定して楓からどんどん距離を離していく。
 楓に家を知られたくない。それが最大の理由だった。誰にも邪魔されたくない、朱ちゃんとの関係に他人は要らない。

「ただいまー……」

 テッペンを越えて、朱ちゃんはもう寝ているだろうとマンションの扉を静かに開ける。
 玄関の明かりが俺を感知して明かりを灯す。目の前を見るとリビングからの明かりが漏れていた。

(朱…ちゃん?)

 足音を忍ばせて、ゆっくりとリビングへ向かう。ドアノブを握って押し開けると、ソファに眠る愛しい姿があった。

 机には無数のフィルムが広がり、編集中の画面になったままのパソコンが置かれていた。オフといいつつも家でこうして仕事をしている姿が浮かび「お疲れ様」と額にキスを落とす。

「んー……?あれっ、樹矢」

 寝返りをして薄目に見えた眩しい照明で俺に気づくと、目を擦って「あー……。寝ちゃってた……」と起き上がり机の上の惨劇を目の当たりにする。

「ただいま」
「あ、おかえりー。って今何時よ」

 壁に掛けているテレビの上にある時計を見る。

「もう日付変わってんじゃん。風呂入らないと」

 まだ覚めきっていない頭を掻いて俺に視線を移す。いつもと何か違うと感じたのか、率直に心配した顔をして聞いてくる。

「ん?どうした?朝から思ってたけどさ、何かあった?」
「何もないよ?あっ……!忘れてた!」

 楓との事は言わないでおこうと決めていた。秘密にする訳ではなく、自分にとってもどうでもいいと思う身内の心配をして欲しく無いからだ。

 カバンの中をガサゴソと漁り、取り出したのは楓に合う前に入った店の紙袋。

「これ、朱ちゃんにプレゼントふぉーゆー!」

 差し出した物を受け取り、朱ちゃんは中を見る。取り出して出てきたのは綺麗に包装されてリボンの巻かれた小さい箱。

「これ……指輪じゃん……」

 そう。その中身は朱ちゃんの誕生石を埋め込んだ指輪だった。

「俺からの愛の証。受け取ってくれる?」

 目を真ん丸にして、だんだんと潤ってくるその瞳を優しく覗き込む。手に持ったその箱をぎゅっと握って俺に寄りかかると直ぐに返事が返って来た。

「受け取らない訳、無いだろ……」

 その言葉は、素直になれない朱ちゃんらしい最もな返事だ。

「ふふっ。ありがとね」

 ポンポンと胸の中に収まっている頭を撫でて両手で抱きしめれば、俺達を包むように言葉に表せられない程の幸せという感情が溢れた。
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