180 / 244
郷愁-nostalgia-2
しおりを挟む
真っ暗な夜道は、さっきまでいた店に入る前よりも黒に包まれていて光っていなかった看板が光を放ち、光っていた看板は明かりを無くしていた。
「送ってくよ」と言う楓の優しさを断って、あっさりとその場でお別れをする。タクシーを捕まえて家の近くを指定して楓からどんどん距離を離していく。
楓に家を知られたくない。それが最大の理由だった。誰にも邪魔されたくない、朱ちゃんとの関係に他人は要らない。
「ただいまー……」
テッペンを越えて、朱ちゃんはもう寝ているだろうとマンションの扉を静かに開ける。
玄関の明かりが俺を感知して明かりを灯す。目の前を見るとリビングからの明かりが漏れていた。
(朱…ちゃん?)
足音を忍ばせて、ゆっくりとリビングへ向かう。ドアノブを握って押し開けると、ソファに眠る愛しい姿があった。
机には無数のフィルムが広がり、編集中の画面になったままのパソコンが置かれていた。オフといいつつも家でこうして仕事をしている姿が浮かび「お疲れ様」と額にキスを落とす。
「んー……?あれっ、樹矢」
寝返りをして薄目に見えた眩しい照明で俺に気づくと、目を擦って「あー……。寝ちゃってた……」と起き上がり机の上の惨劇を目の当たりにする。
「ただいま」
「あ、おかえりー。って今何時よ」
壁に掛けているテレビの上にある時計を見る。
「もう日付変わってんじゃん。風呂入らないと」
まだ覚めきっていない頭を掻いて俺に視線を移す。いつもと何か違うと感じたのか、率直に心配した顔をして聞いてくる。
「ん?どうした?朝から思ってたけどさ、何かあった?」
「何もないよ?あっ……!忘れてた!」
楓との事は言わないでおこうと決めていた。秘密にする訳ではなく、自分にとってもどうでもいいと思う身内の心配をして欲しく無いからだ。
カバンの中をガサゴソと漁り、取り出したのは楓に合う前に入った店の紙袋。
「これ、朱ちゃんにプレゼントふぉーゆー!」
差し出した物を受け取り、朱ちゃんは中を見る。取り出して出てきたのは綺麗に包装されてリボンの巻かれた小さい箱。
「これ……指輪じゃん……」
そう。その中身は朱ちゃんの誕生石を埋め込んだ指輪だった。
「俺からの愛の証。受け取ってくれる?」
目を真ん丸にして、だんだんと潤ってくるその瞳を優しく覗き込む。手に持ったその箱をぎゅっと握って俺に寄りかかると直ぐに返事が返って来た。
「受け取らない訳、無いだろ……」
その言葉は、素直になれない朱ちゃんらしい最もな返事だ。
「ふふっ。ありがとね」
ポンポンと胸の中に収まっている頭を撫でて両手で抱きしめれば、俺達を包むように言葉に表せられない程の幸せという感情が溢れた。
「送ってくよ」と言う楓の優しさを断って、あっさりとその場でお別れをする。タクシーを捕まえて家の近くを指定して楓からどんどん距離を離していく。
楓に家を知られたくない。それが最大の理由だった。誰にも邪魔されたくない、朱ちゃんとの関係に他人は要らない。
「ただいまー……」
テッペンを越えて、朱ちゃんはもう寝ているだろうとマンションの扉を静かに開ける。
玄関の明かりが俺を感知して明かりを灯す。目の前を見るとリビングからの明かりが漏れていた。
(朱…ちゃん?)
足音を忍ばせて、ゆっくりとリビングへ向かう。ドアノブを握って押し開けると、ソファに眠る愛しい姿があった。
机には無数のフィルムが広がり、編集中の画面になったままのパソコンが置かれていた。オフといいつつも家でこうして仕事をしている姿が浮かび「お疲れ様」と額にキスを落とす。
「んー……?あれっ、樹矢」
寝返りをして薄目に見えた眩しい照明で俺に気づくと、目を擦って「あー……。寝ちゃってた……」と起き上がり机の上の惨劇を目の当たりにする。
「ただいま」
「あ、おかえりー。って今何時よ」
壁に掛けているテレビの上にある時計を見る。
「もう日付変わってんじゃん。風呂入らないと」
まだ覚めきっていない頭を掻いて俺に視線を移す。いつもと何か違うと感じたのか、率直に心配した顔をして聞いてくる。
「ん?どうした?朝から思ってたけどさ、何かあった?」
「何もないよ?あっ……!忘れてた!」
楓との事は言わないでおこうと決めていた。秘密にする訳ではなく、自分にとってもどうでもいいと思う身内の心配をして欲しく無いからだ。
カバンの中をガサゴソと漁り、取り出したのは楓に合う前に入った店の紙袋。
「これ、朱ちゃんにプレゼントふぉーゆー!」
差し出した物を受け取り、朱ちゃんは中を見る。取り出して出てきたのは綺麗に包装されてリボンの巻かれた小さい箱。
「これ……指輪じゃん……」
そう。その中身は朱ちゃんの誕生石を埋め込んだ指輪だった。
「俺からの愛の証。受け取ってくれる?」
目を真ん丸にして、だんだんと潤ってくるその瞳を優しく覗き込む。手に持ったその箱をぎゅっと握って俺に寄りかかると直ぐに返事が返って来た。
「受け取らない訳、無いだろ……」
その言葉は、素直になれない朱ちゃんらしい最もな返事だ。
「ふふっ。ありがとね」
ポンポンと胸の中に収まっている頭を撫でて両手で抱きしめれば、俺達を包むように言葉に表せられない程の幸せという感情が溢れた。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる