あんたは俺のだから。

そらいろ

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其時-sonotoki-2

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 樹矢の母親、瀬羅朋世(せらともよ)さんは俺と初めて出会った時、死にかけていた。詳しく言えば、自殺を図ろうとしていた所を阻止したのがたまたま俺だった。
 「ごめんなさい。ごめんなさい」と震える身体は止まらず、どこに向かって、誰に向かって、はたまた俺に対してなのかひたすら謝罪を繰り返していた。
 
 心が壊れている。

 瞬時に思った俺は車に彼女を乗せ、精神科のあるそのまま入院しても大丈夫な大きな病院へと向かった。
 なんとか夕方、診療時間が終わるギリギリ手前で診察してもらう事ができて保健証やお金も無い朋世さんに「大丈夫です」とだけ伝えて、一人入院する彼女を置いてその日は病院を後にした。

 愛情が欠落している。温もりをきっと知らないのだろう。何故咄嗟とは言え此処まで世話を焼いたのかは、その時分からなかった。彼女を見て一つ、脳裏に浮かんだのは、眼が今まで出会ったある一人の男に似ていたからだ。
 暗い光の無い眼が樹矢と彼女があまりにも同じだった。そんな単純な理由で、俺は彼女を救おうとしていた。


 翌日、病室を訪れた俺はまず自己紹介から始めた。何も無い部屋で正気を取り戻した彼女は昨日とは打って変わって、俺の事を視界に入れてくれていた。

「尾野楓と言います。今は若者の演者をプロデュースする仕事をしてます。あ、決して怪しい者じゃ無いんで、安心してください」

 そう言うと更に怪しさが増すよなと心配になり彼女を見ると、予想外にもクスリと笑ってくれた。

「お若いのにすごいね。私の息子と同じ位の年齢なのに……。」

 (やっぱり似てる。この眼……。)

「瀬羅朋世です。昨日は、ありがとうございました。」

 疑いはあっさりと確信になった。
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